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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第6章 ファンタジー・オブ・ザ・デッド
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6-5 儀式の魔導書

 魔法使いじゃなくても魔法が使える。そう言えば仰々しく聞こえるかもしれない。けれど考え方としては単純だ。

 魔導書に命令をすればその通りの仕事をする道具や機械だと思えばいい。


 時計を持っていれば時間を知ることができるし、車に乗れば高速の移動ができる。その人間自身に時を知る能力や高速移動の術がある必要はないし、使っている機械の仕組みを知っている必要もない。

 魔導書を開いて詠唱という形で使う動作を行えば、その機能が返ってくる。それだけである。

 機能は魔導書に込められた魔力と術式が担うから、使う人間が魔力を消費することもない。


 この世界には、同じように魔力を使って物理法則外の動きをする道具、いわゆる魔法道具っていうのが存在するらしい。例えばこの前レガルテがつけていた、暗視の布とかかな。

 魔導書は、そんな魔法道具の一種とも言えるだろう。



「もちろん、異世界から妖精を召喚するとかになれば、火を起こすとか周りを光で照らすとかと同じような簡単さとはいかないんだけどねー。本の中の術式は複雑になるし、使う時も難しい詠唱を唱えなきゃいけない。あと魔法陣も描く必要があったりする」

 それこそ、俺を召喚した時みたいにか。それでもやり方を間違えたら、意図しない結果が起こるものだ。


「それから、特殊だったり大規模な儀式を行うための魔導書っていうのもあるよ。専用の魔導書がなければできないし、魔法が使えない人にはできないようなもの。……たぶん今回のリビングデッドはこれ」


 要は、さっきの例の複雑化バージョンだ。

 異世界から使い魔を召喚するよりも、さらに難易度の高い現象を起こすための儀式。それこそ死者を蘇らせたり街路樹を歩かせたりだ。

 そういう目的の魔導書はさらに複雑なものになるし、魔法使いにしか実行できないとされている。魔法を使うというよりは、なるほど儀式と言った方が似合っている行為に思える。



 魔導書の分類と言えば以上だけど、分類と言いつつその境界は曖昧だ。杖の代わりに使われる魔導書は、魔法使いではない人間が使える魔法道具としての魔導書と、使った結果の事象がよく似ている。魔法使いが使えば両者は同じものだ。

 魔法道具としての魔導書は魔法陣を伴う儀式に似た行いが必要なものも多いが、では大規模な儀式用の魔導書とどう違うのかは実は曖昧だ。これも、魔法使いが使用するならばその違いは存在しないと言っていい。


 ゾンビを蘇らせたのは、大規模な儀式を行うための魔導書を使っていたので間違いないと思う。

 けれどそれ以上のことはよくわかってない。単に、俺が魔導書について詳しくなっただけみたいだ。別にそれは無意味なことではないだろうけど。


 そんな風にリゼの講釈を聞きながら、俺達は床に散らばっている魔導書を集めていく。どれもボロボロになっており、そして表紙の記述は同じだった。これが、ゾンビを呼び出すための魔導書というのは間違いない。



「これを読み解けば、奴らの儀式の内容がわかるのか? それで、またゾンビが出てきた理由もわかるとか」

「んー。とりあえず読んでみるけど、わからないんじゃないかなー」

「なんでだよおい」

「これは魔導書です。儀式の説明書じゃありません…………あ、魔法陣は書いてるね。うん、この魔法陣の本当の形はわかった。…………でもほら、大きさとかは書いてないでしょ?」


 リゼは魔導書を一冊広げて俺に見せる。確かに床に描かれているものと一致する紋様が、そこにはあった。大きさが描かれていないかどうかは、ぱっと見わかんないけど。


「このページの魔法陣は、術者にこう書いてねって指示してるものではないの。……描いてるからこの通りに描けばできるって意味だと、指示かもしれないけど。でも本当の意味は、魔導書の中の魔法陣と現実世界に描かれた魔法陣を繋げるって役割なのです」



 魔導書の中身というのは、俺にわかりやすい言葉で表現するならばプログラムコードなんだろう。魔法で特異な事象を起こすためのプログラムが本の中にびっしりと書いてあり、そこに込められた魔力とか術者の魔力によって作動する。そんなイメージだ。


 魔法陣とは、魔導書の中身を現実に出力する際のインターフェイスと考えればいい。魔導書に描いてある物と同じ魔法陣を現実世界に書くことで、魔導書の効果を現実に発揮させる……という感じだ。


 そして、道具である魔導書の取り扱い説明書は別に存在する。親切な魔導書ならば使い方も併記されてるのもあるというが、多くの場合はそうではない。




「儀式の方法を書いた本はあるのか?」

「そんなのわたしに聞かれてもわかんないしー!」

「そりゃそうだけどさ……」


 ゾンビを呼び出す魔法がこの家に代々伝わってきた物なら、どこかに記録があってもおかしくない。

 万が一でもその方法が失われたら、自家がライバルに対して持っている大きな武器を失うことになる。それは絶対に避けるべきだ。

 口伝で伝えてきたとも思えない。アーゼスの伝承のように、伝言ゲームは簡単に内容が変わっていく。伝えてきた人間の意図によってや、些細な間違いや記憶違いによってだ。


 ただ、その記録が広大なこの屋敷のどこに保管されているかはわからない。探すのはとてつもなく手間だろうな。



「とにかく、この本をとりあえず読んでみます。術式からなにか読み取れることがあるかもしれない……」

 おお、さすが無能でも魔女だ。さっきから魔導書の説明は割としっかりできてたし、知識面ではそこまで無能ではないとは思っている。

 そんなわけでリゼはその場に座って魔導書を読み始めて。



「ぬわー! 全然わからない!」

 時計がないから正確なことはわからないけど、読み始めてたぶん三分も経ってない。リゼは急に本を投げ出してその場には仰向けに寝転がった。


「おいこら。諦めるの早すぎだろ!」

「だってだってだって! こんな難しい術式とか知らないし! こういうのは学校でちゃんと習わないとわからないんだよ!? わたし学校行ってないし!」

「そうだよな。家の事情でお情けで入れてもらえて、三日で退学になったんだもんな」

「むがー! いつかイエガンなんて余裕で卒業できる、優秀な魔女になるもん! みんなにわたしの力思い知らせるんだからー!」


 その場で仰向けでジタバタと暴れるリゼを、とりあえず落ち着かせよう。うるさいし。あと足をばたつかせてスカートめくれてるし。


 でもまあ、プログラムのソースコードをいきなり読めと言われたら、俺でも無理なものは無理だろう。だからリゼを責めることはあんまりできない。

 しかしどうしたものか。いきなり手詰まりだぞ。

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