6-4 魔導書のこと
とにかく、奴らの魔法の正体を突き止めねばならない。最大の手がかりは奴らがやっていたという儀式であり、儀式が行われていたこの場所である。
「とりあえずこの魔方陣かな。リゼ、これからなにかわかるか?」
「ううん。全然」
「おい……」
俺達のパーティーの中で唯一魔法に詳しく、この調査に欠かせない人材である無能はあっさりとさじを投げた。
「だって! 初めて見る魔方陣だもん! なにもわかるはずないじゃん! コータのバーカバーカ!」
「はいはい。わかったから調査を続けような」
リゼの言葉を流して、俺は再度魔法陣を観察する。
俺が召喚された時にリゼが地面に描いた魔法陣と同じものに見える。全体像は円形で、その中に図形や文章が複雑に絡み合って描かれている。その大きさや中の複雑さは、召喚の魔法陣とは比べ物にならないけれど。この魔方陣の直径は二十メートルほどだろうか。それだけの魔法陣を描ける場所が室内にあるという事自体が珍しい気がする。
おそらくはこの地下室自体が、ゾンビの魔法のために用意されてたのではないだろうか。
「魔法陣は汚されて効果を失ってるけど、たぶん元の形を知ることはできると思う。召喚の魔導書と同じように、この儀式も魔導書を使ってやったものだから」
床に散乱している様々な物品やその破片の中に、確かに本がいくつか目についた。それも、使い古されたかのように妙にボロボロになったものが。
俺の召喚に使った魔導書も、使われた後にはこうなっていた。
「魔導書っていうのはたしか、それを使えば誰でも魔法が使えるようなものだったか? お前みたいなのでも」
「やだなーコータってば。わたしは魔女だよ? その言い方じゃ、わたしが魔法使えないみたいじゃん?」
「いや。まさにそう言ってるんだけど」
「ぐぬぬ……」
実際、魔法がほとんど使えないリゼでも使い魔の召喚ができた。いやできてないんだけどな。
思っていた結果とは違い失敗とはいえ、俺の世界とリゼの世界をつなげて、俺の精神をリゼの世界に持ってきた。リゼにこんなことができたのは、それが魔導書の力だからだ。
だから、魔導書っていうのはそういうものだと思っていた。けれどリゼによると、そうとも限らないという。
正確に言えば、魔力がない者でも魔法が使えるようにできる魔導書もある。そんな感じらしい。魔法使いでなければ使えない魔導書だってたくさんある。
「魔導書にも種類があるんだよね。魔力と術式を込めた本っていうのは一緒なんだけど……例えば、杖の代わりに使ったりする」
杖の代わり。つまりは、普段使うような比較的簡単な魔法の補助だ。ファイヤーボールとかのだな。
俺みたいに杖なんて無くても特大の魔法を放てる奴もいれば、リゼみたいに杖があっても火を起こすのに一苦労という無能もいる。そこらへんは才能の差なんだろうけれど、いずれにせよ魔法は杖を使った方が出力しやすいとのことだ。
そして、別にそれは杖である必要はないらしい。杖が一般的であり、かつアーゼスが使っていたから伝統的な物である。さらに言えば安価で、使い手に合わせたカスタマイズがしやすいという利点から、一番使われているのは事実。
とはいえ、魔法を放つための媒体にすぎない。別の何かでも構わないとのことだ。
たとえばターナは、杖の代わりにナイフを使っていた。近接武器としても使えるし、金属製だから杖よりも丈夫とかそんな理由から。あとは、かっこいいからとも言ってた。
そして杖の代わりに魔導書を選ぶというのは、理にかなった選択ではあるらしい。
魔導書とは魔力が込められた本だ。つまり魔法使いが魔法を撃つ際に、自分の魔力に魔導書の魔力を上乗せして撃つことができる。魔法使いの魔力が尽きかけている場合でも、ある程度の魔法を放てるのだから確かに便利である。
「まあ、高いから誰も使いたがらないけどねー。魔導書とはなんの関係もない、普通の本でもものすごく高いって知ってる? 巻物みたいなのじゃなくて召喚の魔導書みたいな綴じ本って、あれ一冊で家が買えたりするんだよ」
「本が高いってのは聞いたことがある……だから魔法で盗まれたりしないように、図書館の警備が厳しいんだろ?」
「そうそう。巻物本もやっぱり高いしねー。紙自体が安いものじゃないし、中に書かれていることも人が全部手で書いてるから。そりゃ高いよねー」
印刷機なんて便利なものは、この世界にはまだ存在していない。本の中身は職人が丁寧に手で書いていくし、書き損じは許されない。専門技術が必要な仕事だから高く付くというわけだ。
俺の世界では、家が買えるという綴じ本とやらでも、子供がお小遣いを貯めれば普通に買える程度の値段だ。そう言ったらリゼはどんな反応するだろうな。言わないけど。
とにかく本はやたらと高価だ。それが魔導書となれば、値段はさらに値段が跳ね上がる。そりゃそうだな。
魔導書を作るには、魔法使いが魔力を込めなきゃいけなのだから。その労力がタダというわけにはいかない。しかも半端な量の魔力じゃないだろうし。中の記述だって、専門の知識がなければ書けないものだろうし。
魔力が尽きた魔法使いでも魔法が使えるなんて簡単に言ったが、その分の魔力は魔導書に誰かが込めているから使えるわけだ。
買えばとんでもない値段になるだろうし、自分で作るにしてもコストがかかりすぎる。そして杖は安価だ。だから、杖の代わりとして簡単に使えるものではない。
さらに言えば魔導書は、中の魔力が尽きたらもう使えなくなる物だから、ある種の使い捨てだし。
「ものすごいお金持ちなら使うかもしれないねー。それに魔法使いの名門ってお金持ちが多いし。魔導書を杖代わりに使っている魔法使いもゼロじゃないよ? ありふれてはないだけで。……魔導書の使い道として一番多いのが、これを使えば誰だって魔法が使えるっていうもの。魔法の才能が全くない人でもね」
ここで言う才能が全くない人というのはリゼみたいな人のことではなく、血筋から離れた完全に魔法と縁のない人間のことを言う。
そんな人間でも魔導書を使えば奇跡を起こせる。火球を放ち風を起こし傷を治す。
あるいは、異世界から妖精を連れてきて使い魔とする。
俺を召喚する際にリゼが使ったのも、この種類の魔導書だ。だからリゼみたいな才能が皆無な無能でも俺は連れてこられた。意図した形ではないとはいえ、だ。それは詠唱を噛んだり魔法陣を書き間違えたリゼが悪い。




