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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第6章 ファンタジー・オブ・ザ・デッド

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6-2 歩く死者再び

 王侯貴族とはいっても、朝食からやたらと豪華なものを食べてたってことはないだろう。


 ましてや復興の最中で、主導する権力者的には質素倹約が求められる時期だ。

 少なくとも、ここの城主はそういうのを気にするタイプだろう。民に寄り添って共に歩もうとするタイプ。権力闘争にうつつを抜かして、周りに目を向けていなかったふたつの家との差異を出すためにも。


 だから目の前の、朝食にしては豪華かなっていう食事にはなにか裏があるはず。いやまあ、この人達のことは知っているし、敵対する間柄でもない。そこに悪意がないことはわかってるんだけど。



「お城の人達って、朝からこんなの食べてるんですね……」

 お城の食事というものを、人生で初めて目にするフィアナは感心しっぱなしだ。


「そうでもないよ。これってだいぶ豪華な方。っていうか、いくら城主様でも朝からこんなステーキ食べたりはしないんじゃないかな……」


 眼の前にあるのは、大きな牛の肉の塊を焼いたもの。それをナイフで細かく切り分けながら食べる料理。味付けは塩ぐらいで味気ないが要するにステーキだ。

 俺の世界ではあんまり一般的な朝食ではない。リゼやカイ達にとってもそのようだ。もっとパンとか果物とかの方が、一般的な朝食って気がする。


 いや、パンも果物も大量にこのテーブルに並べられているのだけど。見たこと無い、珍しそうな果物も多く並んでいる。どうやって食べればいいのかわからないものもあるぞ。

 ターナの説明では、地方や異国から取り寄せた貴重なものもいくつかあるそうだ。どれがそれなのかはわからない。


 さて、そんな豪華な食事を用意したのは、半分くらいは友人にして彼女が恋人と晴れて結婚できるようになった功労者へのお礼なんだろう。でも半分ぐらいは、賄賂とか断りにくくするための口実とかそういう意味なんだろうな。


 食事の途中にレガルテもやってきてターナの隣に座る。そして挨拶もそこそこに、レガルテとターナは少し会話を交わしてから俺達に向き直る。


「ところでみんな、ちょっと頼みたいことがあるんだけどいいか?」

 話しを始めたのはレガルテの方。やっぱりそうだったか。


 まあ俺達はギルドの冒険者で、今は城主様の依頼で治安維持の仕事をしている。レガルテもターナも城主の一族だから、仕事の方針についての指示の一環と考えることはできる。

 そういうわけで俺達は佇まいを正して向き直る。


「まだ公にはしていないことだが……実は、歩く死体が復活したらしい。まだ数体だけなんだが」

 レガルテは深刻な口調で話し始める。確かにその内容は深刻なものだった。



 先日の事件で街の中を徘徊して歩く木と戦闘をしていた死体達は、すべて機能を停止していた。

 そして木の方は一箇所に集められて燃やされた。街中の街路樹が山と積まれて燃え上がる光景はなかなかのものだったぞ。死体は今度こそ二度と復活しないように、しっかりとした棺桶に入れられ土葬された。


 それからサキナック、チェバルの屋敷を徹底的に捜索した。

 木を動かして死者を蘇らせる魔法について、徹底的に調べるためだ。二度と同じ現象が起こらないように、対策を練らないといけない。


 しかし、その作業についてはあまり進んでいないというのが実情だ。なにしろ、調べて理解して対処を取れるだけの知識を持っている人間が不足している。

 この都市の優秀な魔法使いは、ふたつの家のどちらかの人間かその息のかかったものだからだ。その中の少なくない人数が、先日の事件の咎を受けて城に勾留されている。

 そして勾留されているまでいかなくても、両家の影響を受けているらしい魔法使いを捜査に使いたくない。


 両方の派閥に属していない少数派、というかはぐれ魔法使いっていうのもいるにはいるらしい。けれどそういうものは、往々にして能力が劣っている者が多いらしい。

 当然といえば当然だな。有能だったらどっちかの家に目をつけられて、自陣に引き入れられるか排除されるかだ。


 無能だから救われている。



「無能ってリゼみたいだぐえっ」

 リゼに耳打ちしてる途中に体を握られる。おのれ。


「そういう魔法使いは、大した能力もないくせに野心だけはあるって奴が多い。ここぞとばかりに権力中枢に食い込もうと名乗りをあげてくる。……そういうことをする奴ってのは大抵ろくな奴じゃない。そういう奴らを遠ざけるのも、俺達の仕事だ」

「そうなんですか。大変なんですね」


 パンをつまみながら、他人事みたいな言い方で相槌を打つリゼ。まあ、権力者にしかできない仕事なんだから、他人事と言えば他人事か。

 それを気にすることなくレガルテが続ける。


「とにかくグズグズはしてられない。サキナックにもチェバルにも、禁固刑になっていないだけで残党がいる。それも少なくない数の。そいつらが復権を企んでなにかする危険は常にある。その前に、危機の芽はつまなきゃいけないのだが……」



 しかし、恐れていたことが起こってしまったらしい。死者が蘇るという事件が、この数日で数件発生した。

 どれも起こった事象は同じで、この都市内で亡くなった人間がひとりでに動き出した。


 その様子は、先日の騒動の中で出てきたゾンビと一見すると同じように見える。

 つまり動いてはいるが意志は感じられない様子。そしてその辺をフラフラと歩く。ただし、先日のゾンビは目についた木の怪物を襲っていたが、今回はそんなことはしなかった。おそらくは指示を出す人間がいなかったのだろう。

 とはいえ死体が甦ったということは事実だ。


 幸いにして目撃者は少数で、その目撃者にはきっちりと、他言無用を言いつけていた。とはいえいつまでも隠せるものではない。隠し事は漏れるものだし、今後同じような件が繰り返し起きればその確率は高くなる。

 あるいは、もっと大勢の人間の前で再び死者が歩くことだってありえるから。


 死者の復活が再来したとなれば、市民は当然混乱する。せっかく復興や権力構造の転換がうまくいき始めたところなのに、それに支障が出る可能性がある。


 そうなる前に手を打たなければならない。

 原因を突き止めて、人為的なものであれば犯人を検挙する。自然発生的に起こるものなら、起こらないように対策を立てる。それも早急に。

 城主もレガルテもターナも、城の人間はみんな忙しい。こういう突発的な事態に、人手はなかなか割けない。そういう時に頼りになるのが……。


「俺達ギルドってわけですか」

 カイが、どこか諦めの境地に至ったような感情をのぞかせながら言った。

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