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2-3 手品の基本

 自信満々に魔法を披露すると宣言したリゼは、次に鞄を開けて中からカードの束を取り出す。なんて言ったか占いに使うやつだ。

 リゼはまた、手品を魔法と言い張るつもりらしい。


 絶対にバレると思うけど、やると言い切った時点で止めることもできない。昨日みたいに、焚き火をするのにも一苦労な炎魔法を見せるわけにもいかないし。


「では皆さん。この"魔術師"のカードを見てください。ルカスナカードは占い、つまり未来を見通すためにも使われるすごいカードです。つまり、それ自体が魔法の力を受けやすいものなんですよね。特に魔術師のカードはその名の通り、カード自体が魔法を使うと言っても過言ではないです」


 もっともらしいことを言ってるけど、あれはただのカード。ただの紙だ。

 しかしリゼは自信たっぷりという様子で言い切る。手品はハッタリをいかに利かせるかが大事。


 そして驚いたことに、村長たちはリゼの話しを真剣に聞き入っている。リゼが持っているカードに、熱心に視線を注いでいた。信じているのだろうか。

 見れば酒場の外に集まっていた他の村人たちも、おもしろいことやってるぞとばかりにだんだんと酒場の中に入ってくる。見物人が増える中リゼはショーを続ける。



「では、この魔術師に魔力を注ぐとどうなるか。よく見ててねー。魔術師よ、消えろ!」


 手をひらひらと振ると、突然カードが消えた。どよめく観客達。

 昨日俺にも披露したのと同じ。けれど村人達はすっかり信じてしまっている。


「魔術師が消えてしまいました。しかし、本当に消えたわけではありません。この世界から、何かを完全に消し去ることは魔法でも難しいんです。つまり魔術師は、どこかに移動してしまったのでしょう。わたしの手から、どこか別の場所へと。どこかなー? わたしの近くだと思いますが……杖を使って探してみましょうか」


 リゼのマジックは続く。今度は杖を持って掲げ上げる。

 村長やその後ろの男たち。酒場に入ってきたその他大勢の村人や元からいた客に店員。それからフィアナ。全員の視線がリゼが掲げた杖に、つまり上の方に向いている。


「こっちかなー? それとも、こっちの方かなー?」


 リゼが右側に杖を振る。それから、左にもゆっくり振る。

 その際リゼが、左側数歩離れた所にいるフィアナの方に、一歩近づいて距離を詰めたことには誰も気づかなかった。


「むむ…………もしかして村長さん。あなたがカードを持ってるんじゃないですか? それとも、その後の男の人かな? ポケットの中、調べてみて?」


 そして杖を村長たちに向けた。周囲の視線が一斉に村長に集まり、急に注目されることになった村長たちは慌ててポケットを調べ始める。もちろん、そんな所にカードはない。

 誰の視線も自分に向いてない瞬間に、リゼはすばやくフィアナの背後に近づいた。そして上着のポケットに魔術師のカードを入れて、すばやく元の立ち位置に戻った。


 マジックの本質は視線の誘導。そういうのを何かで見たことがあるけど、リゼはそれを自然とやってのけていた。

 魔法と言い張って嘘をついてその場を逃れようという魂胆は置いておいて、こいつの手品の腕前は本当だ。この分野に関しては無能でもバカでもない。


「ないですか? じゃあ…………わかった。フィアナちゃん。君のポケットに入ってるんじゃないかな?」


 リゼの言葉にハッとした様子のフィアナは慌てて上着を調べて、そして心から驚いたという様子で魔術師のカードを出した。

 おお、と歓声があがる。


「どうですか? ルカスナの神秘的な力を引き出してみました。こういう魔法もあるっていうこと、わかってもらえたでしょうか?」


 今の手品を受けて、村人達は所々で話している。確かに魔法を使った。あれはリーゼロッテなる魔法使い見習いではない。しかしあの子はリーゼロッテの年齢と同じぐらいではないか。いや、ここは魔法学校の近くだから、あの年齢の女の子は珍しくない。やはり別人か。などなど。


 ややあって、村長が立ち上がってリゼの前に来る。


「失礼しました。今朝がた、魔法使い見習いの女の子が近くにいるはずだから村を訪れたら知らせてくれと、そう領主様からお達しがありまして。旅人さんと聞いている特徴が同じだったので、お尋ねした次第です。どうやら人違いのようでした」

「そ、そうでしたか。残念ですがわたしはリーゼロッテさんじゃないです。見ての通りの優秀な魔法使い。お役に立てなくて残念だなーあはは……」


 さっきまではあれだけ口がうまかったのに、すぐにいつものリゼに戻ってしまった。

 手品やってる時だけ、こいつは無能じゃなくなるのか? うん、わからない。






「それにしても、よく騙しきれたな。この村の人間ってもしかして魔法を見たことがない……はずがないよな。魔法学校が近くにあるんだから」


 魔法使いが通り掛かることはよくあるって様子だし。



 村長さんたちは納得したのか帰っていった。そして俺たちは宿に泊まることを許され、こうやって部屋をあてがわれたわけだ。

 そこでようやく、リゼが手品を始めようとした時の懸念事項を口にすることができた。


「あの人達が見たことないのは、奇術の方じゃないかな? だから奇術を見ても、こういう魔法があるって思ってしまう」


 なるほど。この世界にはテレビやインターネットなんてものはなくて、マジシャンって職業もまだ珍しいものなんだろう。森に囲まれた小さな村に、手品という芸が伝わっていない可能性は高い。


「とにかく、とりあえずはちゃんとしたところで寝られるねー。野宿は野宿で楽しかったけど!」


 ベッドに寝転がりながらのびをするリゼ。どこまでも気楽そうだな。

 でも実際に、俺としても野宿はまっぴらである。夜はもうちょっとちゃんとした状況で寝たい。こんなぬいぐるみの体であっても、布団にはくるまりたいんだ。


 とはいえ村人たちから、リゼがリーゼロッテというお尋ね者ではないかという疑念が完全に晴れたとは、俺は思っていなかった。

 とりあえず魔法は使えるとはいえ、念の為とかで探している誰かに連絡を取ろうとする人間が出てくるかもしれない。となれば、あまりこの村に長居はできないのも現実で……。



「すいません。リゼさん、いますか?」


 部屋の外から声をかけられた。聞き覚えがある声。リゼが扉を開けると、そこにはフィアナが立っていた。

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