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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第5章 いがみ合いの街

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5-36 有から無へ

 リゼは再び手を握って開く。銅貨が二枚に増えていた。その二枚を重ね合わせて、指でつまんでこすり合わせる。

 金属同士の擦れるカチャカチャという音がしばらく鳴ってから、不意に一枚の銅貨が下に落ちた。リゼはすかさず、もう片方の手でそれをキャッチ。

 金属同士の音はまだ聞こえる。ということはリゼの指はまだ銅貨をこすり合わせていて、落ちた銅貨は新しくどこかから出てきた物というわけだ。

 そして最後に、さっき落ちてきた銅貨を受け止めた手を開く。落ちてきたのは一枚だけなのに、リゼの手には大量の硬貨。銅貨だけではなく銀貨や金貨も。それがジャラジャラと音を立てながら、ベッドに落ちていく。


 手品だっていうのはわかる。でも手際が鮮やか過ぎて、どうやっているのか全くわからない。


 感嘆の声をあげながら拍手をするシュリーに合わせて、俺も手を叩く。ぬいぐるみだからポフポフと気の抜けた音しか出ないけど。


 その拍手に返礼をしてから、リゼは説明を再開した。


「奇術ならこうやって、簡単に物を出現させることが出来ます。でも結局これはタネがあって、どこかに隠していた物を取り出したに過ぎないんですよね。魔法で本気で無から有を作り出すのは不可能と言われてます。炎とか水とか簡単な物なら可能ですけど、鉄とかになるともう無理。で、無から有を作るのが無理なら、逆である有から無に変える消失魔法も難しいってわかってもらえると思います」


 なるほど。無から有が不可能だってのはわかるぞ。理論的なことについてはさっぱりわからないが、感覚としては理解できた。


「もちろん、アーゼスは本当にやっちゃったんでしょう。どこにやったのかはわかりませんが、それが彼のすごいところなんですよね。……もしかしたら異世界かも」

 リゼは俺の方を見てちょっと笑った。なるほど、俺の魂はこの世界とは違う世界から来た。この世界のどこにも存在しない状態になったということは、違う世界に追いやったという可能性もあるということか。


「いずれにしてもあの当主さんのふたりは、アーゼスがなぜすごいかをよくわかっていたんですよ。家が千年も研究していたんだから。だからわたしが実際に消失魔法を使ったら、それが本物だって信じかけてしまった。それから、奇術かもしれないと考え直した。わたしみたいな若い魔女に、普通はそんなことができるはずないもんね。まあわたしはこう見えて、とても優秀な魔女なんだけど!」

 わかった。わかったからない胸を張るな。せっかく、ちょっとすごい洞察力を見せてくれたのに台無しだ。


 結局あのふたりは、千年続く魔法家という名声に固執しながらも、真に偉大な魔法使いには敵わなかったという事実を抱え続けていたわけだ。

 別に哀れだとは思うまい。





 数日後、街はそれなりに落ち着きを取り戻してきた。破壊された街も政治的混乱もあるが、なんとか復興の目処は立ってきたと城主は語っていた。


 やはりあの人は有能な部類の人間らしい。魔法家という枷がなくなって、前よりも活き活きと仕事をしているようだとの声も聞こえてくる。


 そんな折、シュリーが首都に帰ることになった。もともと首都の人間だし、ここに来ることになった事件は解決した。返さなきゃいけないものもあるから当然のことではある。

 返さなきゃいけないものとは、アーゼスの水晶玉の方だ。印章は、話し合いの結果この街の保有となった。もともとこの街が持っていたとされる物だし、そういうものだろう。


「そういうわけで、しばしの別れだ若者達よ。協力してほしい事があればいつでも手紙を書いてくれたまえ!」

 別れは少し寂しいが、いずれまた会える。そんなにしんみりすることではない。シュリーの性格上、湿っぽいのは似合わないだろうし。


「こちらこそお世話になりました。またお会いしましょう」

 そんなカイの言葉に続けて、みんなそれぞれ別れを言う。そして、ひとりひとりとしっかり握手を交わした。


「シュリー、そろそろ行きますわよ? あんまり時間かかってると置いていきますから!」

「わかったわかった。じゃあ若者達よ、よく学びよく冒険しろよ!」

 既にペガサスに乗っているマルカがシュリーを急かす。それに応じてシュリーはマルカの後ろに乗り込み、そしてペガサスは飛び立った。


「いいですねシュリー! 今回のことは、わたし達ふたりの手柄ですからね!」

「お前は水晶持ってきただけじゃないか。まあいいけど! わかったふたりの手柄な!」

 そんなことをずっと、見えなくなるまで言い合ってた。仲いいんだな、あのふたり。



 そして俺達はまた冒険に戻る。しばらくはギルドの人間としてこの街の治安維持だ。それからは……その時に考えよう。



――――――――――――――――――――



 首都にある魔法使いの名門ニベレット家の屋敷の書斎で、当主ゼトル・ニベレットはひとり考え込んでいた。


 リーゼロッテ・クンツェンドルフという少女について、他家の人間が知れることは少ない。魔法学校にいる彼女の姉や妹に探りを入れてみたが、案の定他家の人間に協力的なタイプではないらしい。芳しい結果はでなかった。


 クンツェンドルフ家の次女で、魔法が使えない落ちこぼれということぐらいか。家もリーゼロッテについては隠したがっている節がある。落ちこぼれなんていうのは、恥だからな。リーゼロッテの妹であるリリアンヌという少女など、姉は人生の汚点だとでも言いたげな雰囲気があった。


 そしてリーゼロッテに関するもっとも重大な事実が、現在行方不明であるということ。クンツェンドルフ家でも探しているらしいが、足取りは掴めていない。


 しかしゼトルには探さねばならぬ理由があった。彼女が盗んだらしい、召喚の魔導書を取り戻すために。

 妾の娘であるファラは、よくある普通の使い魔召喚の魔導書だと思って持ち出したようだ。

 しかしあれは、そんなものではない。あれは、もっと重大な…………。


 ニベレット家でも彼女のことを探そう。彼女が消えてから日が経っているから、広範囲をだ。それも迅速に、しかも密かに。ニベレット家の力ならそれも難しいことでもあるまい。


 あるいは…………リーゼロッテという少女は既に死んでいる可能性も高いか。あの魔導書を並の魔法使いが一人で使えば、容易に死に至る。

 無能で無学な魔法使いが使い魔欲しさに使ってしまって、そのまま死んだ。その方があり得る事象だとも思えた。


 もしそうならば、きっと学校の周囲のどこかに召喚の儀式の痕跡があるはず。そちらの捜索も指示するとしよう…………。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。アーゼスの印章編、これにて終了です。

次回からまた新しい章が始まります。引き続き読んでいただけると嬉しいです。


おもしろいと思ってもらえたら、評価とかブクマとか、あと感想とかレビューとかもらえるとうれしいです。すでにやってくれた人はありがとうございます。とても励みになっています。


少し前から、勝手にランキングのリンクを設置してみました。押して貰えると嬉しいです。


では今後共、この物語をよろしくおねがいします。

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