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5-29 城の中へ

 城を守るのが使命である兵士達は、突然目の前に現れた花のおばけや冒険者の集団を前にしても持ち場を離れなかった優秀な人間である。

 さすが大都市の兵士は鍛え方や城主への忠誠心が違う。今夜は最初から、歩く木や生ける屍を一体たりとも城には入れないつもりだったのだろう。


 そんな兵士達だから、シュリー達を乗せたペガサスが城の中に侵入しようとしたら当然止めようとする。茎の坂道を登って追いかけるか、あるいは城の中に戻って侵入者ありと警告を流すか。どっちも好ましい事態ではない。

 それをカイは必死になだめて止めることになった。



「俺達はギルドの冒険者です。ほら登録証。義によりこの街を守るためあなた達に助太刀します! それとあの怪物の正体がわかったので城主様に報告をと思いまして……人を入れました。はい」

「助太刀はありがたい。だが城主様に部外者を会わせるわけにはいかない」

「ですよねー。よくわかります。ああ待って! あの人達を追いかけるのは待ってください。あの女性は首都の学術院で働く学者さんです! ちゃんとした身分の人なので怪しいものではないです」


 ちゃんとした性格の人間とは言い難いけど。カイは内心でそう付け加えた。


「カイさん! リビングデッドがこっちに向かってきます!」

「よし! 兵隊さん今は協力してあいつらを倒すことに集中しましょう!」


 この兵士達を押し留めるのは無理だと思えてきたところにタイミングよくリビングデッドの大群がこっちに向かってきたらしい。

 おそらくはチェバルの人間がこの状況を見てけしかけたのだろう。つまりシュリー達が城に入っていったという状況だ。

 家の存亡に関わる情報をシュリーが持っているらしいというのは両家ともが把握していること。おそらくはすぐにサキナックも歩く樹木をこちらに攻め込ませに来るだろう。


 それはまずい。城の中にあの怪物は入れたくない。シュリーがここの兵士に追われるよりもまずいから、カイも即座にその対処に移る。


 フィアナとユーリは既に戦闘に入っていた。前線に出たユーリはリビングデッド相手に大暴れ。もともと腐敗したひ弱な死体だ。並の人間にも負けないユーリの相手ではない。前足で敵を蹴り飛ばしたり引っ掻いたり。あるいは腐っている死体を思いっきり踏みつければぐちゃりと潰れる。周囲に飛び散る腐臭がきついが、仕方あるまい。フィアナはそれを弓で遠方から援護している。間違って味方に矢が当たらないように慎重に。だが確実にリビングデッドの頭部を射抜いて動きを止めている。


 カイもすぐに助力する。ユーリの近くまで駆け寄り、彼に襲いかかろうとする敵の首をはねた。後ろを見ると城の警護をしている兵士達も参戦を始めたようだ。


 だがリビングデッドの脅威となる点はその数だ。いずれはさらなる多くの敵がこっちに殺到してくるだろう。

 それまでにシュリー達が事態をなんとかしてくれればいいのだけど。



――――――――――――――――――――



 ペガサスに乗って空を飛ぶなんて経験をする日が来るとは思わなかったが、馬に乗って屋内を疾走する日が来るとも直前まで予想だにしていなかった。

 ペガサスに比べればまだ現実的なシチュエーションと言えるかもしれないとか少しだけ考えたけど、やっぱ異常だよな。城の廊下を馬で走るなんて。しかも結構な上層階だし。


 こんな派手な侵入者なものだから、当然ながら城の兵士や騎士達が出てきて俺達を制止しようとする。それらをまとめてスリープ魔法で眠らせていった。彼らは普通に仕事をしているだけで悪人ではないから殺すわけにはいかない。とりあえず目についた相手を片っ端から眠らせていく。

「そこに階段がある! 降りるぞ!」

 シュリーは俺達の返事を待たずにペガサスで階段を駆け下りる。この階に城主がいるはずだ。


 城主の居場所だがさっき探査魔法で探らせてもらった。その姿を目にしたことはないが、この城の中にいる人間の中で一番守りが硬い者を探し出すことはできる。どこかの広い部屋に大勢の人間が集まっているのが見えた。おそらくは城主とそれを守る兵士や側近たちなんだろう。大まかな位置はシュリーに知らせてある。



 その部屋の中には見覚えがある人物もいた。サキナックとチェバルそれぞれの家の当主だ。なにやら言い争いをしているように見える。今回の事件についてだろう。あの怪物を操っているのは何者か。どちらの家が悪いのか事件の裏側にはなにがあるのか。この期に及んで嘘をついているのだろう。

 どれだけ苦しい言い訳でもこの都市の権力者の言葉だから、城主も無碍にはできない。

 そして結局話は有耶無耶になる。そんなことが千年続いてきたというのが、この街の歴史だ。


 だが今夜は違う。今夜起こった騒動は有耶無耶にできる規模ではない。魔法使いの名門が犯してきた罪の証拠もある。偽りの歴史は今夜で終わらせる。


 その決意と共に城主がいる部屋の前までたどり着く。そして馬の足でドアを強引に蹴破った。



「突然の乱入失礼する! 私は首都の学術院所属の歴史学者シュリーナ・ヤラフニル! この街におけるサキナック、チェバル両家による重大な背任行為の証拠を握ったために城主へ陳情に来た!」


 高らかに宣言する。当然ながら部屋の中にいた人間全員の視線を浴びた。


 ここは城主の執務室なのだろうか。高級そうだが落ち着いた意匠の内装となっている。今は武装した兵士やその他大勢の人間が中にいるために騒がしくなっているが。


「お前は! なぜここにいる! ここをどこだと思っている!? 城主様の前だぞ控えよ!」

「学者風情の出る幕ではない! 出ていけ! 兵士達こいつをつまみ出せ!」


 部屋の中の人物で既に知った顔の者、ふたつの魔法家のそれぞれの当主である老人が半ば悲鳴をあげるようにしてそう言った。

 最初に会った時の落ち着いた老人という雰囲気は完全に消え失せている。切迫した状況で冷静さを欠いているのか、それともこっちが本性なのか。

 いずれにせよ、この状況で声を荒げるのは良いこととは思えないけれど。


 俺達が突然乱入してきた不審者だというのはれっきとした事実ではある。兵士達が動こうとした。しかし。


「待て。話しを聞こう」


 部屋の奥で机を前にして座っている中年の男。精悍な顔つきで、年上である魔法家の当主達と比べても威厳を持っているその男が口を開いた。


 彼がこの都市の支配階層のトップ、城主であるというのは容易に察せられた。

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