5-25 伝説の水晶
ペガサスの上でわめき続けるマルカを引きずり下ろして落ち着かせてから話しを聞く。
ワケアの街でガルドス達に捕まった彼女は、それ以上の抵抗の意思はないことを必死に訴えて解放された。
それから、シュリーの足取りを掴むべく関係者に聞き込みを開始したという。少しでも事情を知っていそうな人間にはくまなく話を聞いて、アーゼスの印章を手に入れたらしいということを突き止めた。さらに向かう先はヴァラスビアだというのも判明させた。
聞き込みで得られる情報は限られたものだろうに、そこまで突き止められるのはさすが学術院のエリートということか。言動からは優秀さは一切伺えないけれど。
「それであたしの印章が本物かどうか確かめるために、わざわざ水晶を持ち出したの? バカだね……」
「ちょっと! 今わたしのことバカって言ったでしょ!」
「うん。言ったな」
「ムキーッ!」
「シュリーさん。喧嘩はそこまでで。水晶って一体何なんですか?」
シュリーとマルカにだけ会話を任せてたら永遠に話が進まない。そう判断したカイが割り込む。やはりこの男は頼れる。
「あのマルカって人、おもしろい性格してるね」
「そう見えるか。お前に似てバカだから、相性がいいんだろうな」
「ほあっ!?」
マルカはリゼと似たような種類の人間だと俺は確信している。リゼは否定するだろうけど。
「この水晶玉こそが、アーゼスが各地に残した印章が使われたことを感知するための道具なんだ」
マルカの鞄をとりあげて中を勝手に探り、丁寧に布で包まれた水晶玉を取り出すシュリー。
それは、水晶玉と言われてすぐに思い浮かべるような球体そのままの形をしていた。
「よく見ると底の部分にアーゼスが好んで使っていた紋様が薄く彫られている。これがアーゼスの遺したものだという証拠でもある」
俺達に説明を始めるシュリー。わたしが持ってきたのにと騒ぐマルカを完全に無視する。
「印章に魔力を込めながら粘土などの柔らかいものに押し付ける。すると遠方にあるこの水晶玉が反応して、印章に刻まれた紋様と使われた場所の風景を映し出すんだ。もちろん誰が使ったかも映るな。アーゼスはそれを見て、あちこちに散らばっている印章のどれが使われたのかを知りすぐさまそこに飛んでいったという。アーゼスが亡くなった今でも、この水晶玉の効果は変わらない。印章を使えばちゃんとこれが反応する」
その説明を聞く限り、この水晶玉は印章よりもずっと大事な物としか思えない。印章は各地にいくつか散らばっているが水晶玉は世界にこの一つだけ。
「そう! この水晶玉も国の宝よ! 普段は魔術院に厳重に保管されてるのを無理言って持ち出したんだから! どうよシュリー、そんなことあなたには出来ないでしょう?」
「そうだな。どうせ親父さんの権力を使ったんだろ? はいはい家柄すごい家柄すごい」
「なっ!? そんなことないし! ちゃんとわたしの実力とか信頼とかを見てくれたし!」
「やっぱりあの女、リゼと同じ種類の人間だと俺は思うぞ」
「そ、そんなことないと思うな! わたしあそこまでバカっぽくないし!」
「いやバカだろ」
「わーん! コータがバカって言うー! フィアナちゃん! コータってばひどいと思わない!?」
「こっちに話しかけないでください」
「はうあっ!? どうしようコータ。フィアナちゃんが悪い子になっちゃった…………」
「シュリーさん。それを使えば持ってきた印章が本物かどうか確かめられるんですね?」
騒ぐリゼを放置して俺は会話に参加する。
「そうだな。早速確かめるべきだろう。だけどここではできない」
「どうして? あーわかった自分が持ってるのが実は偽物で、それがばれるのが怖いからでしょう?」
「そんなわけあるか。ここじゃ魔力が封じられているから試すこともできないんだ。やるなら外に出なきゃいけない。それに粘土板なんてのもここにはなさそうだしな。だから……」
外の喧騒に目を向ける。歩く木と生ける屍の戦いは始まったばかりだ。どちらも数を減らす気配はなく戦闘は激しくなるばかりで。巻き添えをくらい住居を破壊され命を脅かされることになった住民たちの悲鳴も聞こえてくる。
「それにふたつの名門の悪事を城主に伝えなきゃいけない。これは絶好の好機とも言える。夜だが、これだけ騒ぎが大きくなっていれば城主も起きているだろう。城主を守る兵士の一部もこの事態の対処に駆り出されているはずだ。もちろん城自体の守りも固くなっているだろうが……」
「ねえシュリー! そもそもあの怪物どもはなんなのよ! なんで戦ってるのよ」
「見ての通り歩く木とリビングデッドだ。なんで戦っているのかと言えば、元々緊張状態だったふたつの家の間にお前がのこのこ現れて刺激したからだ。最終的な原因はお前だ」
「わたし!?」
そういえば学術院の役人が城を訪ねてシュリーを探していたのが、両家の緊張をより高めたという話を聞いたな。それがマルカのことだったんだろうな。
マルカの訪問によって両者はついに決戦を決意。互いの屋敷に監禁されていると思いこんでいるシュリーを我が手の内に入れるか抹殺するかで自分に不利な記録を残さないようにしつつ、ついでに相手の家に大打撃を与えようとする。そういう筋書きだろう。お互いに決戦兵器をもってして相手を一気に打倒するつもりだったのが、まさか相手も大規模な戦力を持っているとは思わず戦況は膠着。もちろん引くこともできずに泥沼化して市民に被害も出ている。そんな状況だ。
シュリーは少々性格に難のある人物だ。しかし悪人ではない。悪は許さないし善人は助けたいと思っているはず。
「若者諸君! これを突破して城主に会いに行く! そしてこの混乱を収めて悪人どもの罪を暴くぞ!」
俺達全員を見ながらシュリーが宣言する。シュリーに雇われている俺達は、よほど無茶なことをすると言われない限りはそれに従うつもりだ。既に無茶な状況になっているという気はするけれど。それでも、この状況を収めたいという気持ちは俺達も変わらない。
「そして禁断の恋に溺れる若いふたり。君達の未来のために力を貸してくれ」
レガルテとターナにも協力を要請したところふたりはしっかりうなずいた。元から彼らも自分の家の悪事を暴くつもりだったし断る理由もない。
「マルカは……このタイミングで来てくれたことは嬉しいが、お前は留守番」
「なんで!?」
ひとりだけ雑な扱いを受けたマルカがちょっと涙目で抗議した。
なんとなくだけど、たぶんこれがこのふたりの普通のやりとりなのかもしれないって思った。




