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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第5章 いがみ合いの街

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5-23 木とゾンビ

 木が歩いて人を襲ってる。これを言ったのがカイじゃなかったら正気を疑ってるところだ。しかしカイに限ってそんなバカなことを言うはずがない。リゼじゃないんだから。


 そして俺がリゼの肩の上から見た光景は、まさしくカイの言ったとおりの物だった。


 図書館の前の通りを木が歩いている。街で見かけてきた街路樹なんかと比べて高さが倍近くあるような巨大な木だ。

 それも一体ではない。複数、というよりは大量の木々がそれぞれ自分の意思を持っているかのように動いている。


 広がる根を足にして自由自在に歩き回る。腕は四方に伸びた枝だ。そして周りを歩く人間を掴んで投げ飛ばしている。

 投げ飛ばされた人間は周囲の建物にぶつかり大きな音をたてた。そんなことをされたら人間は確実に死ぬわけで。

 その衝撃を物語るように、ぶつけられた建物は損壊してところどころ穴が開いていたりする。中にいた人間は恐怖を感じながら、外に逃げ出すか建物の中に閉じこもるかの選択を迫られる。

 その間にも木々は地上を歩き回る人間を掴んでは投げ飛ばす。あるいは踏みつけて、その体重で潰してしまう。自分にまとわりついてくる人間には容赦しなかった。

 ただの木なのに、生命が宿っているような動き。



 そんな地獄絵図を目の当たりにして、俺はふと違和感を覚える。


「なあリゼ。やられてる人間達、なんか変じゃないか?」

「あわわわわ……なにあれありえない…………木が歩くとか見たことない怖いどうしようありえないありえない……」

 うん、訊く相手を間違えた。ガタガタ震えて目を回しながらうわ言のような言葉を発し続けるリゼはとりあえず無視することにする。


「カイ、どう思う? 木じゃなくてそれにやられてる人間、なんか変だと思わないか?」

「確かに。ていうか明らかにおかしい。なんで逃げないんだ? それどころか明らかに……木に戦いを挑んでいる」


 カイの言うとおり。逃げている人間も当然いるが、その他にも木々に立ち向かう人間もそれなりの数がいた。その人々はみんな動きが普通ではないというのも特徴だ。

 体が不自由なのか動きが緩慢。ただ目標の木を目がけて歩いて接近して、掴みかかるだけ。それから噛み付いたり枝を折ろうとしたり。

 武器も持っていないから、木々によって容易につまみ上げられ投げられる。ただし人々はそれに怯むことなく数の多さで木に立ち向かう。

 ただし人間からは意思を感じられなかった。ただ命じられるままに動いているという印象で、目に入った敵を攻撃しているだけ。


 あの動きには見覚えがある。あれは……。


「ゾンビなのか……?」

「ゾンビ? なんだそれ。コータはあれを知ってるのか?」

「あ。えっと……知ってるといえば知ってるというか……」


 この世界にはゾンビというモンスターはあまり一般的ではないらしい。まあ俺も、知っているのは映画やゲームの中に出てくる怪物としてだけど。でも知ってると言った以上は説明をしなきゃな。

 乏しい知識をフル動員して答える。


「生きている死体……リビングデッドっていうかな。人の死体がなにかの原因で生き返って動くようになるっていう生き物……? 生き物じゃないな。現象?」

「リビングデッドか。興味深い。妖精の世界にはそんなものがあるのか?」

「えっと……」


 学者としての知的好奇心が刺激されるのか、シュリーが興奮気味に質問してくる。リビングデッド、生きた死者という説明はピンとくるらしい。正直状況はそれどころではないと思うのだけど。あと歴史学関係ないし。


 目の前の戦場ではゾンビ達もそれなりに善戦しているようだ。木の一本に複数のゾンビが組み付き、強引に引き倒す。木は近くにあった建物に向けて転倒。ついでに建物の壁を派手に破壊して中に隠れていた無事な人間を容赦なく戦場に晒した。


「げ、原因としては……ウイルスとか? 細菌兵器とかで…………ってこの世界にウイルスの知識ってないのか。病気とかです。伝染病。あとは呪いとか」

「呪い? つまり魔法の一種か。興味深い」


 俺の下手な説明の何にそこまで感心したのかはわからないが、歴史学者は興味深いと再度繰り返してしばらく考え込む。そして急に声を張り上げた。


「諸君! アーゼスの伝説の謎が新たにもう一つ解けたぞ!」


 なんでそうなるかはわからない。あと目の前の状況を見るにそれどころではない。できれば説明は手短にお願いします。


「いいか。この現象を引き起こしたのはサキナックとチェバルそれぞれの家なんだ…………」





 この都市に伝わるアーゼスの伝説の中身は記された本や語られる人間によって多くの種類がある。

 その理由はふたつの魔法家がお互いに自分の家の祖先の方が実は優れた魔法使いだったというのを読者に印象づけるため、というのは明らかなこと。


 その性質上、物語のバリエーションで最も個性が出る場所は、ふたりの魔法使いが魔法対決でどのような魔法を使おうとしたかという点である。

 失敗するという結末は同じでも、どちらの魔法使いがどのような魔法を見せようとしたのかは様々な説があり定かではない。



「もちろん、ありえないと一蹴されるような説も多いのだけどね。たとえば死者を蘇らせるとか森の木を生きているかのように動かして労働力にするとかは後世の創作だろうとされている。理由は簡単だ。対決を引き分けにしてしまうために見せたアーゼスの魔法よりもすごいことをやってるからだ」


 アーゼスの魔法はどの物語でも共通している。真夏に雪を降らせてこれを一瞬で消し去る。天候を操るという魔法は確かに大規模なものだ。実行するには膨大な魔力が必要とされる。


 だが、死者を蘇らせたり木を動かすなんて魔法は、その範疇を超えている。


「植物を自由に動かすということはつまり、その植物の存在を歪めるというものだ。その他の方法があるのかもしれないが、植物という生命の形を操作するのだとしたらとてつもなく高度な魔法だと思う。人を眠らせたりするのとはわけが違う。…………死者を蘇らせるなんてのはさらに難解だな。生と死の流れは一方通行。これを逆流させるなどできないはず。だから伝説の中の魔法使いがこういう魔法を使ったとされるのは後世の創作だろうと思われていたが…………」


 大きくなり意思を持ったように動く木。それからリビングデッド。俺達はたしかにそれを目にしている。


「もしかしたら、奴らは本当にそんな魔法を使おうとしたのかもしれないな。あるいは方法論は未完成ながらできていて、晴れ舞台で実行しようとした」

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