5-17 今後の方針
論理的結論に従って街に出た俺達は、この大都市の大通りをゆっくり歩く。
この都市に来てから買い物で街を歩くのは初めてな気がする。これまでは他の目的が常にあったからな。
「それにしても、なんだか騒がしいな……」
いつもとは少し街の様子が違う気がする。具体的に言えば保安官や兵士がちらほらと目につく。通りを行く人に声をかけて話しを聞いたり、何かを探している風に見える。それがなんなのかは明らかだ。
保安官達は歴史学者とその護衛の一行を連れて行こうとして殺された。その背後に魔法家の名門が関わっているとはいえ、普通に俺達は重要参考人だ。レガルテとターナの存在はまだ露呈してないだろうし。
そして見つかった場合は命に関わる。奴らは可能なら平気で俺達を殺すだろう。
「あれってどう見ても俺達を探してるんだよな?」
「ほふ? はほひははひふはふ?」
「もの食いながら喋るな」
さっき露店で買ってきた肉の串焼きを頬張ってるリゼをたしなめる。緊張感がなさすぎる。
「ごめんごめん。でもこれおいしいから、後でみんなの分も買ってあげなきゃね」
「それはいいけど、俺達お尋ね者なんだから気をつけろよ」
「大丈夫大丈夫。今のわたしはただの町娘のリゼです。首都の歴史学者さんとは無関係だし魔法使いの名門とも無関係」
だめだ心配になってきた。もしリゼが保安官からちょっと話をとか呼び止められたら、絶対に挙動不審になる。
「でもコータ。これだけの人に探されてるなら、いつまでも隠れることはできないと思うよ?」
「それもそうだな……」
保安官が七人殺されている。しかも二箇所で同時にだ。俺のいた世界でも警官殺しの事件は力を入れて捜査されると言われてるし、こっちでも同じなんだろう。そうでなくても七人死んだっていうだけで滅多にない重大事件なわけで。
さらにアーゼスの印章が絡んでいると都市の権力者が想定している。だから権力を駆使して捜査規模を大きくしているというのもあるだろう。
本来の捜査にあたる保安部隊だけではなく兵士も協力してるというのはそういうことだ。リゼの言うとおり長く隠れるのは難しいかもしれない。
「となれば、一旦この街を出るのもいいかもしれないな」
「え? なんで? レガルテさんとターナさんの恋はどうするの?」
「…………」
あのふたりの恋路について本気で考えているらしいリゼに、俺は頭を抱えたくなる。
「なあリゼ。シュリーがこの街に来た目的ってわかってるか?」
「え? アーゼスの印章の謎を解いて、悪い魔法使いの名門をやっつけるためでしょう?」
「前半しか合ってないぞバカ」
「もー! コータってばわたしのことバカって言った!」
「ぐえー。やめろ苦しい…………」
アーゼスの印章の謎について調べる。それは合っている。正確に言えば、なんで印章が離れた場所で見つかったのかの調査だな。
あの印章の来歴を調べて、ふたつの魔法家の人間から証言を得ることができた。そう考えればレガルテとターナには感謝すべきだ。
あの印章は本物。保管されているのは偽物。そして本物がワケアの街に持ち出された経緯。それがわかっただけでも、シュリーという個人の学者が出せる成果としては十分だろう。
あとは印章を首都にもって帰ればいい。本物の印章は国宝となり王に献上されて然るべき場所と方法で保管される。
当然ここの城にあるものは偽物と呼ばれ、そこで魔法家の名門の反発とかスキャンダルとかそういうのが起こるだろうけれど、そこまで行けばシュリーひとりの手からは完全に離れた問題になる。
もちろん、護衛である俺達の仕事もそこまでだ。俺達の仕事はシュリーの護衛だけ。学者として調査した結果はシュリーの手柄だ。そこは冒険者としての分をわきまえよう。あの歴史学者はちゃんと俺達を評価し讃えてくれるだろうし、その名誉はもちろんあるわけだし。
そして勘違いしてはいけないのが、この都市の権力闘争にシュリー個人が介入する義理も権利もないってことだ。
この都市の特殊な構造は当事者の物だ。そこに外部のいち個人がやってきて構造を変えようとするのは道理から外れている。
変化が起こるとすれば当事者が起こすべきものだ。俺達ではない。
「まあ、個人的にはこの都市の名門魔法家はどうかと思うけどな。それにあのふたりも幸せにはなってほしいと思う。でも残念だけどこれはシュリーの仕事の外だし、俺達の仕事でもなくてぐえっ」
「冷たい! 冷たいよコータ! お母さんはそんな風に育てた覚えはありません!」
「育てられてない! それにお前の息子でもない!」
同い年だ。リゼが俺の体を掴んで握りしめる苦しみの中で抗議する。
「でも! 使い魔にとってご主人様である魔女はお母さんみたいなものだよ!」
「だったら子供を握りしめるな! あと町中で魔女とか大声で言うな!」
せっかくの変装が無意味だ。まったくもう。
リゼを落ち着かせて、人のあまりいない路地裏に移る。
「あのねコータ。わたしだってわかってるよ。ここの名門の対立を解決するのは難しいって。でも放っておいてこのまま帰るなんて嫌じゃん」
「気持ちはわかる。……それに、シュリーだって今すぐ帰ると言ってるわけじゃないし」
一旦この街を出たほうがいいというのは、俺の思いつきだ。追われている身であればその方が安全だという考え。
俺達の指針を決めるシュリーがどうしたいかは、今のところよくわからない。
そこまで話した所でリゼの表情が急に明るくなった。
「そうだ! シュリーさんがまだこの街にいたいって思えるようにすればいいんだ!」
「いや、だからまだシュリーがここから去るってわからないからな」
「それに、シュリーさんにも次の目標があった方がいいと思うんだよね!」
「それはまあ……確かに」
現状、俺達はレガルテの用意した宿に潜伏状態だ。印章の由来はわかったとはいえ次にどう動くかの指針はない。
お尋ね者になった以上は行動も限られてくる。けれどその中でもできることがあるならやるべきだし、じっとしているのは時間の無駄だ。
「というわけでコータ、なんかないか考えてよ」
「人任せかよ!」
「コータならきっと思いつく! シュリーさんが好きな歴史のことでなにか…………」
それからリゼはすぐに思いついたようだ。俺が考える暇さえ与えられなかった。
「そうだコータ! 図書館行こうよ!」
だめだ。こいつの考えが読めない。




