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5-11 保安部へと

 怪しさ満点とはいえ、建前上はこの都市の城主から任を受けている役人である。あまり横柄な態度を取らない方がいいというのもよくわかっていた。


「そうですか。ご苦労さまです。それで……どうすればいいんでしょう。もちろん捜査には協力しますよ。ここでおしゃべりを? それとも、そちらの施設にでも伺えばいいんですか?」

「我々の本部へ同行してもらいたい。先程動物に襲われていた時に持っていた持ち物や荷物を一式持ってきてな」

「荷物?」

 奴らのホームに連れて行かれるというのは予想できていたが、なぜ荷物が出てくるのだろうか。


 荷物? というだけの疑問に対して扉の向こうの声は答えを告げる。あなた達が追われていた原因はわからないが、もしかすると持ち物に動物を引きつける何かがあるのかもしれない。だから調べたいと。


 最初から疑問を持たれることを想定していて、あらかじめ答えを用意していたようにも思える。というよりは、この言い訳を言うための動物の暴走だろう。

 さっきのあれで俺達を馬に蹴らせて殺せたならそれでよし。旅人の集団が事故に遭って死にましたとだけ処理すればいい。駄目だった場合はこれだ。


 そうやって俺達をなんとかして殺す。それから荷物も改める。荷物と言っているが何が目的なのかはよくわかっていた。アーゼスの印章だ。

 シュリーが上着のポケットに入れている印章を無意識に握る。これを渡すつもりはない。


 さて、そろそろこの戸を開けなければならないだろう。悪人またはその手先とはいえ、この都市の権力者からの委任を受けている公権力側の人間だ。あんまり心証を害したくない。


「とりあえず出ていこう。で、やばそうになったらあいつら殺すか眠らせるかして逃げよう。フィアナとユーリは別行動」

 シュリーが小声で指示を出して全員が頷く。それからシュリーが用心深く扉を開けた。その途端に襲ってくる可能性も考えていて身構えたが、さすがにそれはなかったようだ。


 保安官の集団は三人。一見するとそこらを歩いている普通の都市の住民にしか見えないが、揃いの服装をしているし見る人が見れば官吏の人間だってわかるんだろう。その服装の中で腰に差している剣が威圧感を放っている。俺の世界で言えば警官が拳銃を装備しているのと同じなんだろうけれど、この状況では警戒心を呼び起こすのも当然だ。


 彼らは役人らしい横柄な口ぶりで俺たちを署に連行しようとする。そんなことは言ってないのだけど意味してることは同じだ。一応は参考人という扱いらしく、別に拘束などをされるわけでもなく俺たちは外に連れ出される。ベッドの下に隠れているフィアナとユーリは気づかれていないらしい。



 そのまま宿の建物を出て外を歩く。方角としてはお城の方ではある。

「もしかして保安官の本部ってお城の中にあるんですか? お城の中に入れるとか?」

「いや。城の近くにあるだけだ」

「そっか……」

 期待を隠しきれないという様子でシュリーが尋ねたが一瞬で否定される。役人の施設だから城の近くにあるだけなんだろう。


 城の中に入れるかもという可能性の何にシュリーが期待したのかは明らかだ。あわよくば城の中に保存されているというアーゼスの印章をひと目見ようとしているのだろう。本当にそれが保管されているのか。もしかしたら偽物かもしれない。そして自分の持っている印章と比べる必要があると思っている。

 研究熱心なのはすばらしいが、目的を果たすためなら多少の悪事ならやっても大丈夫だと思っている節があるのがこの学者だ。まったくもう。


 しばらくは城に続く大通りを揃って歩く。それから、こっちだと誘導されて脇道に。夜だというのもあって人通りは元々少なかったが、俺たちはどんどん人目につかないところにつれていかれる。保安隊の本部がこの先にあるのかもしれないが、目撃者のいない場所で殺すつもりというようにも思える。


 カイがそれとなく剣に手をかけている。けれど抜くわけにはいかない。抜いた時点で官吏連中に反抗心ありとして攻撃する理由を与えてしまうから。ならばやっぱり、俺がやるしかないだろうな。俺だったら周りにいる保安官三人を一瞬で眠らせることができる。なにか怪しい動きを見せればすぐに……。


「待て、止まれ」

 先頭を歩く保安官が俺たちを静止する。この通りの向こうに目を凝らしているようだ。俺にはなにも見えないが。そして先頭の彼は腰の剣を抜いて俺たちに振り返り……。

「スリープ!」

 先頭の男に敵意を見出して咄嗟に詠唱。最初に目の前にいる先頭の男を眠らせる。

 けれどその必要はなかった。別の魔法が前方から飛んできたから。

「炎よ集え。燃やし、砕け。ファイヤーボール!」

 急ぎ気味に詠唱されたその魔法が、俺のスリープ魔法で意識を失い倒れかけていた男の頭部に直撃した。たぶんあの男は眠ったまま死んだだろう。


「伏せろ!」

 それからまた声。前方から聞こえた。さっきのファイヤーボールの詠唱と同じ声だ。その声に一番最初に反応したのはカイで、シュリーの肩を抱いて力を入れてしゃがませてからリゼの足を払って転倒させた。こいつもリゼの扱いがよくわかってる。


「ぎょわーっ!? へぶっ!?」

 そんな悲鳴と共に頭から地面に突っ込んだリゼは結果として伏せたことになったから良しとしよう。そして俺たちの頭上を二発目の火球が飛ぶ。俺たちの退路を塞ぐようにして立っていたあとふたりの保安官に直撃。その上半身を焼く。

 俺が初めて放ったりオークを倒すのに使った火球と比べるとずいぶん小さい。というよりは俺の火球が大きいだけなのかもしれないけれど。そして、あの程度の大きさでも人を殺すのには十分な威力ではあるらしい。


 そうなんだよな。人が死んだんだよな。俺の前で。おそらくは人間の手によって。


 人の死はこの世界で見たことがある。しかし人が直接手を下して人を殺したという光景は初めて見た。いや、わかってる。これはそういう世界なんだって。



「お前は誰だ!? 姿を見せろ!」

 カイが中腰で立ちながら剣を構える。ファイヤーボールを撃ってきた何者かは依然として前方にいるようだけど、俺達にはその姿が見えない。


「コータ。ライト魔法」

「そうか」

 こういう時にも使える。頭の中で詠唱をしてリゼの手のひらに光る球体を作り出す。


 前方十数メートル離れた場所に、ひとりの男が立っていた。

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