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5-10 禁書棚のこと

 おとなしくなった馬はそのまま図書館の外まで出ていく。外の様子を見ると他の動物達もこっちに来ていたが、さっきまでとはまるで様子が違う。非常に穏やかに、ただそこをゆったりとさまようだけ。


「あれで普通だ。人間に飼い慣らされて大人しい動物のはずなんだ。それが魔法によって操られて、さっきは凶暴になっていた…………そこは君達の方が詳しいか」

 シュリーの説明はどちらかといえば、自分を落ち着けるために口に出しているように見える。


「え、ええ。たしかに動物を……人でもいいですけど操る魔法は聞いたことがあります。でもこんなに大勢の動物を操れるだなんて……」

 リゼが言うには、複雑な命令を多くの対象に向けて行うには膨大な魔力が必要らしい。シュリーは少し考えてから答える。


「たぶん、命令は簡単なものなんだろう。"怒れ"とか"あの対象に向かって走れ"その程度。それから……向こうもそれなりの数の魔法使いを用意して、これだけの数の家畜を操ったんだろう」

「名門が、ですね…………」

「そうだ。だから奴らは魔法を使う。それ故に、あたし達はここに逃げれば安全だというわけだ」


 こことは図書館のことだ。高価な本を大量に所蔵している図書館は、魔法を使って盗難行為をしようとする輩の対策として建物内に魔法の使用を封じる結界が張られている。そうシュリーは説明した。

 図書館の中に入ってからはスリープ魔法が馬に効かなかったのはそういうことかな。この世界で生きていく上での俺の最大の武器が使えなくなる結界というものに空恐ろしさは感じるが、同時にそれのおかげで危機は去ったとも言える。



 改めて図書館の中を見渡す。俺の知っている図書館とは少し様子が違う。主に収蔵されている本の形が。俺の世界の本とは違ってなんというか、巻物みたいな形をしたのが多い。

 リゼが俺を呼び出す魔導書みたいな、よく知ってる形の本もこの世界にはあるはず。けれど主流ではないのかもしれない。


 図書館は公共施設なだけあって、それなりの数の人間がいた。入り口付近に馬が入ってくるなんて騒動とか、あるいは外の騒ぎが伝わってたりするのかここには人が集まってきていた。そしてその中に。


「リゼさん? どうしてここに?」

「あれ? フィアナちゃんじゃん。そっちこそどうして?」

「図書館があるって聞いて気になったので……ユーリくんに連れてきてもらいました」


 フィアナとユーリもなぜかここに来ていた。そういえばさっき探索魔法で外に出たのは見たな。図書館に来るなんて勉強熱心でよろしい。




 とりあえずその日は帰ることにした。


 こういう事件が起こると、保安担当の役人がやってきて現場の保全とか事件の捜査を行う。つまり俺の世界でいう警察だ。この世界ではこれを保安官と呼ぶ。俺のいた世界にも存在はする名称だが、その仕事内容や体制内の位置付けとかは大きく異なってるんだろうな。

 俺達を狙っていた犯人はこの都市の名門魔法家系のどちらかである可能性が高い。そして都市の役人の要職はだいたいどちらかの名門の息のかかった人間が就いている。つまり保安官どもも名門の味方だ。


 そんな奴らにあまり関わろうとは思わない。味方にはならないことが明らかだから。というわけでその場の混乱に乗じて俺達は逃げることにする。いずれ向こうから改めて接触してくるかもしれないが、その時はその時だ。



 調べものをしたがってたシュリーは少し残念そうである。けれどフィアナ達から禁書の棚のことを聞いて興味深いと目を輝かせた。


「なるほどなるほど。権力者からの特別な許可がなければ閲覧できない本だが、これみよがしに存在するとは喧伝している。おもしろいぞ。是非とも見てみたい」

「許可っていうのはやっぱり、ここの城主からもらうんですか?」

「いや。城主から委託を受けた然るべき役職の人間だろう。つまりこの図書館の管理者とかだ。そして、そういう要職はみんなサキナックかチェバルの人間が就くことになってるんだろう…………つまり中を見ることはとても難しい」


 先程のチェバルの当主の言葉。街の詳細な歴史を記した資料などは禁書の棚にあるが特別な許可がなければ見れない。

 見る方法については教えてくれなかった。つまり、暗に見るなと言っていたということだ。


 それが、単に部外者には見せられないということとは思えなかった。街の歴史など、別に知られても問題があることではないはず。

 知られたくないことがあるから、こうやって隠していると考えることはできないだろうか。


「ここにありますよ。でも見せられませんよという資料。なるほど、隠す気は無いと声高に言っているが、実際には隠しているのと同義。内容が気になってしかたがないな。相当後ろめたいことが書いてあるんだろう」

 くくくとシュリーは笑う。学者の探究心が燃えているのだろう。そしてこの人は、見たいと考えればなんとしても見ようとするだろう。

 多少非合法な方法を使ったとしてもだ。そういうことを少しの躊躇と共にやってしまいそうな人だ。


 まったく。依頼主とするには少々面倒なタイプの人だよな。ところが相手も非合法な手段を使ってくるタイプの人間だしで、まともな方法ばかりやっても勝てないらしいというのはわかってる。

 こういう時ってどうすればいいんだろうな。




 いずれは来ると思っていた敵の再度の接触だが、それにしても思いのほか早かった。その日の晩のことだった。


 宿の部屋に全員集まって明日はどう動くべきかを話し合っている最中に、部屋の戸が鳴った。誰かと聞けば、保安官だという。

 安易には扉を開けない。それからフィアナとユーリには隠れるように小声で指示を出した。このふたりはまだ、魔法家の人間に顔が割れてない。


 シュリーが扉の近くに立って要件を聞く。当然ながら先程の動物の錯乱事件のことだ。何らかの原因で動物が集団的に錯乱状態に陥り暴れ出したが、その動物達がなぜかある集団に一様に向かっていったと複数の証言がとれたと保安官は言った。捜査の結果、俺達のことを突き止めたというわけだ。


 動きが速すぎる。目撃証言から俺達を特定するまでの時間が短い。この都市の住民で誰かの知り合いだというなら別として、旅人の集団ならば特定にはもっと時間がかかるはず。

 この世界の役人がやたらと優秀なのか。そうでなければ始めからこのシナリオが決まっていたかだ。


 話を聞きたいから捜査にご協力をと言う保安官に、シュリーはどう答えるべきかと思案する表情を見せた。

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