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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第5章 いがみ合いの街

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5-9 暴れる獣達

 馬車を引けるだけの体格はある立派な馬が二頭とも揃って錯乱状態に陥ったのか、大きな鳴き声と共に暴走をしている。

 都市の中心近くの大通りに騒ぎが広がっていく。人々は暴れ馬から我先にと逃げようとして押し合いへし合い、所々でころんで折り重なるように倒れる集団の姿が見受けられる。そこに馬とそれが引く馬車がすぐ近くを駆け抜けていったりするわけだから、危なくて仕方がない。


「なあ、ふたりは暴れ馬をなだめるやり方、知ってたりするか?」

「いえ。まったく」

「カイに同じ」

「よし、じゃあ逃げよう」

 俺達のうち誰かがこれを止められるとすれば、やってみる価値はあるだろう。でもできないなら仕方がない。


 そういうわけで馬の進路上からさっさと逃げてそのまま走る。

 俺達に向かって来ているなら、少し横にずれれば通り過ぎてどこかに行ってしまうはずだ。それを確認するため振り返って様子を見た。

 案の定全力で走っていた馬は俺達の後ろを通り過ぎて、それから走ったまま方向転換をして軌道修正して再びまっすぐ俺達に向かっていく。


「えっ!? なんで!」

「わからないけどとにかく走れ!」

 二頭の馬はどうやら俺たちを追っているようだった。そういえば二頭が暴れているのにそれぞれ別の方向にはいかないというのは違和感がある。もしかして何者かに操られているとかだろうか。

 走っている馬にしては急な方向転換をしたために後ろの馬車は横転した。中にいる御者なり乗客なりが無事かどうかはわからない。そして二頭の馬は錯乱状態というよりはむしろ怒り狂ったような様子で横転した馬車を引きずりながらこちらに走る。

 引きずるものがそういうので結構な重量があるのか、馬の足はさっきよりも遅くなっている。しかし全力で追いかけてくる上に息切れする様子はない。


「リゼ、魔法で殺すか眠らせるかできないか?」

「よし! コータいくよ! 汝にやすらぎを! 深淵に身を委ねよ! スリープ!」

 カイの提案に応じる。馬二頭をにらみながら、リゼの詠唱に合わせて心中で詠唱。

 瞬間、両方の馬が意識を失って勢いよく倒れ込む。道路を少しだけ滑って、俺たちの前で止まる。馬車ということは誰かの財産であり、殺すのは気が引けるというのがスリープを選んだリゼの判断なんだろう。けれど暴れている状態で急に意識を奪ってこうやって転倒させてしまった場合、自重と衝撃に耐えきれず足を折ってしまうこともあるだろう。この馬がどうなっているのかはわからないが。


「やれやれ。一体なんだったんだ……」

 とりあえず危機は去ったと判断していいのだろう。けれどシュリーの疑問に答えられる者はいなかった。馬が二頭同時に暴れて俺たちに向かってきた。避けても追ってくる。

 ただの偶然だったのかもしれないが、俺たちに敵意を持っていたようにも思える。しかしその理由はわからない。


 そして、それについて考える暇はなかった。

 暴れ馬が眠ったことにより、通りには元の喧騒が戻ろうとしていた。結局はなにかの偶発的な事故として人々の心に刻まれるのだろう。

 少なくともそのはずだった。この瞬間までは。


 再び誰かの叫び声。それから馬の鳴き声。今度はなんだ。まさかと思いつつ声がした方を向く。また別の馬が暴れていた。

 それだけではない。周りのあちこちで同じような騒ぎ。この周囲に存在する馬が一斉に暴れだした。馬だけではなく、牛や犬や狼といった人が連れている家畜やその他の動物が一斉に暴れだす。

 ここは都市で、重い荷物の運搬にはそういう家畜を使う人が多い。つまり、馬も牛もここには大勢いた。それがそれらを御していた人間を蹴散らして走り出す。


 まっすぐ俺達の方に。


「スリープ!」

 その光景を前にしてリゼが咄嗟に唱え、俺もそれに合わせて心の中で詠唱。視界にいる馬や牛が倒れて眠る。その体を乗り越えるようにして一頭の犬が走ってきてこちらに襲いかかる。

 カイが俺達をかばうようにして前に。それから剣を振った。剣の側面、刃のついてない側で犬を殴る。こちらに飛びかかってきた犬は地面に思いっきり叩きつけられた。痛みは相当なはずだろうに、犬はまだ闘志をむき出しにしてこちらに向かって吠え続ける。


「なんなんだこれは。リゼ、持ち主がいる動物とはいえ不殺でやってたらこっちが危ないぞ。なぜか俺達ばっかりに向かってくる」

「うー。かわいそうだけど仕方ないか……」

「なんであたし達の方にばっかり来るんだろうな……どう考えてもこれは、誰かが悪意を持ってやってるとしか思えん」

「なら、あの名門どものどちらかでしょうね!」

 シュリーの疑問と推測に、周囲を警戒しながらのカイが答える。俺とリゼはこっちに向かってくる馬やら牛やらを眠らせるのに忙しい。正確には忙しいのは俺だけなんだけれど。


「つまり、これはあたし達への攻撃。というか暗殺をしようとしてるのか? 動物が集団的に暴れるような事件が起こって、あたし達はそれに巻き込まれて死んだというのが奴らの望む物語」

「かもしれませんね! よし、じゃあ逃げましょう!」

「逃げるってどこに!? 周りはお馬さんばっかりだよ!」

 リゼの質問に答える前にカイはこっちだと言って走り始めた。これは、元々俺達の向かおうとしていた方向。


「図書館だ! あそこなら安全なはず!」

「そうか! よし急ごう!」

「なんで図書館!? ねえ教えてよー!」

 目的がはっきりしているカイと、その意図が読めたらしいシュリー。俺とリゼだけはよくわからないままとりあえずカイについていく。こっちに追いすがってくる動物達をひたすら眠らせながら。


 元々そっちに向かっていたというのもあって、図書館まではすぐにたどり着くことができた。この都市のシンボルのひとつらしく立派な建物と正面扉を持つ図書館の中に俺達は駆け込む。もちろん動物達も。

 俺達は振り返ってスリープ魔法を使う。動物のほとんどは眠らせられたが、一頭の馬だけ眠らせきれなかった。

 とりあえず図書館の建物の中に避難して、振り返ってもう一度詠唱。

 なぜか馬は眠らなかった。そのまま馬はこっちに走ってきて…………。


「大丈夫だ。もう大丈夫……誰もお前を操らないから……」

 図書館の正面扉から飛び込んできた途端に、馬は急におとなしくなった。それをカイが念の為と優しくなだめ始めたが、その必要もなさそうだ。その場で止まって、こちらに闘志を向ける気配もない。


 なぜなんだ。一体なにが起こってるんだ。

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