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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第5章 いがみ合いの街

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5-1 城壁の中へ

 城塞都市ヴァラスビア。その名の通り都市そのものが城壁に囲まれており外敵を寄せ付けない要塞となっている都市だ。城塞都市はどこも同じらしいが都市人口が多くなるにつれて城壁内が狭くなっていき、段階的に都市圏を拡大させていき新しい城壁を建設していったという歴史も持っている。ヴァラスビアの場合は現在、四重の城壁が存在していた。


 城壁以外にも都市の周りをぐるりと囲む堀だったり、都市の中にも侵入してきた敵を攻撃する櫓が点在するなどしていてまさに要塞と言ってふさわしい作りとなっている。そんな防御機構に囲まれた安全の中で人々は日々の生活を送っている。

 国内は五本の指には惜しくも入らない人口規模とはいえ、誰もが認める大都市だ。



「見えてきたぞ。あれがヴァラスビア。と言っても、見えるのは城壁だけなんだけどな!」


 シュリーが言う通り、巨大な壁が視界に入った。とてつもなく高いそれは、城壁の内部がどうなっているのかを一切外部に漏らさない。中にあるはずの建物の屋根の先端すら見えない。壁は横方向にもどこまでも伸びていて、その領土の広大さを表している。


 城壁で守られている都市だから、当然入るにも手続きが必要。これはワケアの街でも同じだったし、周りを囲っているタイプの街や都市ではどこも同じらしい。ギルドの登録証を見せれば入れるし、シュリーは学術院の職員証を持っていてそれで入れるという。国家がシュリーに直々に身分を証明したものだから、これは強力だ。

 他にも、都市間を移動して商売をする行商人や俺たちを運んでいる馬車の御者なんかは、商売の業種ごとに結成されている商人ギルドの登録証があるらしい。あとは、ここに来るヒントとなった死体、グバルテ・サキナックみたいに街の権力者から身分証明書を発行してもらうこともあるらしい。


 そんな風に、街に入る人間がひとりひとり自分の身分を表すものを提示していく。確認作業自体は時間のかかるものではないが、いかんせん人が多い。大規模な行商人集団なんかもあって、行列ができていた。ワケアの街と違って複数の列で確認をしているが、それでもしばらくは待つ必要があるだろう。


「大都市なんてどこもこんなものさ。首都はさすがに、ものすごい数の門と人員を用意しているからもう少しマシだけど。それ自体が見もので観光資源だ」

 そういうものでも珍しいから見に行くという人はいるのだろう。そういえば俺の世界でも、首都の中心地のスクランブル交差点を行き交う人の数を見に来る旅行客だって少なくない数存在するって聞いたことがある。そういうものなんだろうな。



 それでも並んでいればそのうち自分たちの番が来る。身分証の確認はつつがなく終わって城壁の中に入る。広い都市だから、そのまま街の中心まで場所を進めてもらう。この都市が小さな村だった時代から存在するふたつの魔法使いの家系だから、当然その拠点も都市の中心近くにあるわけだ。



「リゼさん! リゼさん! あれみてください! 獣人があんなにいっぱい! それにあの耳が尖ってる人もいますよあれってなんですか! あと大きなトカゲが歩いてます!」

「痛い! 痛いからフィアナちゃん! あれはエルフでトカゲの方はリザードマン! あとあの背が低いのはドワーフだよ……」


 初めて見る大都市に興奮したフィアナがリゼの肩をバシバシ叩きながら興奮気味に離す。普段のフィアナはもう少しおとなしい子なんだけれど、この時ばかりは興奮しているようだ。それにしてもリゼの扱いが雑になっているのはまあ、別に驚くことじゃないか。


 今まで見たことがないような広い路地にその両側に並ぶ多くのお店。初めて見るような食べ物に田舎の村ではお目にかかれないような貴重な物品の数々。それから、あまりにも大きな建物。フィアナにとっての異世界だった。


「あそこに大きな狼がいますよ! 人と一緒に歩いてます! もしかしてユーリくんと同じワーウルフですか!?」

「ううん。あれはただの大きな狼。人間に懐いてるだけ」

「狼が人に懐くんですか!? すごいです!」

 どっちにしろフィアナには驚きの光景らしい。うん、こうやってはしゃげるっていうのは大切だな。

 大きな街では狼を飼いならしている人間はそれなりの数がいるとリゼが説明した。確かに道行く人の中に狼を連れている人間はけっこうな数が確認できた。



 都市の中心まで馬車で送ってもらって、そこで下ろしてもらう。ここまで運んでくれた御者さんに丁寧にお礼を言ってから別れ、そしてこの都市の中心に目を向けた。


 城。城壁とだいたい同じぐらいの高さを誇るその城は、たしかに見るものを圧倒させた。俺は当然元いた世界でこれより大きな建物はいくらでも見たことがあるが、それでもこの城の持つ荘厳な雰囲気には惹かれるものがある。

 ここに、この都市の権力者が住んでいるのか。そして、ふたつの魔法使いの名門の権力争いの舞台でもあるらしい。


「立派なお庭ですね……それに、街にも木がたくさん植えられてました。こういうのも初めて見ました……」

 さっきから驚きっぱなし、感嘆し続けのフィアナが言う。


 城は門が固く閉ざされていて部外者が入ることはもちろんできないが、その外側にある庭には立ち入ることができた。住民に開放されている、もしかしたら公園のような機能を持ったその庭には多くの草花が植えられていて、緑豊かな風景を作っている。庭にこんなに面積を取るなんてフィアナには想像もつかなかった世界らしい。


 それから、街の至るところに街路樹が植えられているというのにもフィアナは感動していた。村は森に囲まれてたから嫌でも木々は目にするし、どちらかというとその森は狼達が潜む恐ろしい物。

 けれどこの街の街路樹はそうではない。街の景観を美しくしてくれる木で、フィアナはそういう物の存在を素直に美しいと受け止めた。


 そういえばワケアの街には街路樹なんてなかったな。あの元領主には街の景観を良くすることに金を使う気などなかった、ということかもしれない。でも途中で立ち寄った別の街にもそんなもの無かった気がするし、単に街の景観という考え方自体が広まってない世界ということなのかもしれない。

 こういう大都市は進んでいるということで。



「それで、どうするんですシュリーさん。とりあえずお城には入れないみたいですよ」

 城門を見ながらカイが尋ねる。

「そうだな。学術院の身分証を見せれば案外入れたりするかもしれないが…………その前に情報収集だな。この街の詳しい事情が知りたい」

 準備は万全に。シュリーはそういう方針でいくようだ。

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