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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
最終章 俺のいる世界

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14-56 俺達のこれから

 少しだけ沈黙が流れた。リゼと母はようやく和解できたのに、またお別れになるなんて。

 母がどんな反応をするのか、リゼが怖がっているのがわかった。


 けど心配は無用らしい。


「わかったわ。リゼ。あなたの好きなようにしなさい。リゼなら、きっとそれが似合ってる」


 リゼ。確かにそう呼んだ。


「でも覚えていて。あなたはわたしの娘。どこでなにをして、どちらの名前で呼ばれていてもね。だから母に会いたくなったら、いつでも戻ってきなさい」

「はい……はい!」


 瞳を潤ませ、涙がこぼれ落ちるのを必死に我慢しながら、リゼは満面の笑みを見せた。




 それから数日はリゼの屋敷でお世話になった。一応は、今回の事件の結末を見ておこうって話になった。


 ゼトルの罪は遠からず確定するとして、次はニベレット家の処遇が問題になった。

 どうやら家自体が取り潰されるってことはない様子。あくまで当主が暴走した結果だと、城はそう結論づけたらしい。

 仮にゼトルの企みが果たされたら家は利益を受けてたわけで、無罪っていうのは納得しにくい気持ちもあるけど。


「いいんじゃないかな。家ごと取り潰されたら、悲しい思いをする誰かが必ず出る。例えば、その家の子供とか」


 かつて悲しい思いをしたミーナにそう言われたら、納得するしかないか。


 実際のところ、ゼトルは本当にひとりで動いていたらしい。家族のうち数人には話してただろうけど、それでも一族の中では知らされていない者の方が多かったそうだ。

 それから取り調べの中で、ファラという名の少女の死が明らかにされた。リゼが盗んだ魔導書の元の持ち主。

 ファラもまた、貴重な魔導書を勝手に持ち出すなんて悪戯をしたから、結果的にゼトルに殺されたそうだ。潔白な少女とは言えないだろう。


 けど、リゼにとっては堪える話だった。


「行方不明ってことにされたらしいよ。元々ゼトルの妾の子供で、家の中でもあんまり重視されてなかったらしいね、ファラちゃん」

「そうらしいな。俺もそう聞いた」


 人の出入りする気配がないニベレットの屋敷の前で、リゼが俺に語りかける。

 常に一緒にいるんだから、同じ噂を聞いているのは当然。なのにリゼがわざわざ口にしているのは、己の罪を自覚するためだろうか。


「ゼトルに殺された後、ファラちゃんの体はどうなったのかな?」

「さあな。行方不明扱いなら、死体も密かに処理されたんだろう」


 俺の世界よりも、その手の隠蔽工作はよほど簡単な気がする。ゼトルは魔法も使えるし、後ろ暗い組織と繋がりのある金持ちだから尚更だ。

 今更ニベレットの家がその少女を弔うこともないだろうし、かわいそうだな。


 ゼトルの計画を頓挫させた、最初の功労者なわけだし。


「せめて俺達は、その子の功績を覚えていようぜ」

「うん。そうだね。……わたしに感謝されても、余計なお世話って言われそうだけど」

「違いない」


 でも、俺達にできる精一杯の弔いはしてやろう。




 さて、リゼが旅の魔法使いとして大成すると決めた以上、実家に長く留まるのも違う気がする。

 もちろんこの街にもギルドはあって、そこで人助けもできるわけだけど。でも旅がしたいよな。


 他のみんなも、それぞれ目的を見つけたらしいし。


「さあロライザさん! 今日もお話を聞かせてもらいますわよ!」

「あらあら。鼻息が荒いわね」

「当然ですわ! ロライザさんの覚えてる事、洗いざらい教えてもらいますわ! あと実際にゆかりの場所についてきてもらいますわ!」

「まあまあ。マルカ。あまり功を焦るものじゃないよ。多少時間がかかっても、ロライザさんは付き合ってくれるさ」

「それは……そうかもしれませんけれど! でも気になるじゃありませんか!」

「それは異論はないね。さあロライザさん。歴史の謎を一緒に解き明かそう」


 歴史学者コンビは、今日もロライザにグイグイ絡んでる。

 ロライザも住んでる街を捨てた経緯がある以上、行き場がない状態だ。しばらくは首都に住んで、歴史学者達と一緒にいると言っていた。




「わたし達はザサルに戻ります。一度本部の状態を見ておかないと。そろそろ商売に戻らなきゃいけませんし」


 ルファ達は新しい馬車を調達した上で、揃ってザサルへ帰っていった。

 一連の戦いの間、本業がおろそかになってた部分はあるからな。こっちがルファにとっての本当の本業。


「ふふっ。また三人の旅に戻るわね。人が多いとルファちゃんを可愛がれなかったから……楽しみね」

「えっと。サキナさん? あまり人前でそういうこと言うのは……フラウさんもいますし」

「わたしはもう慣れたから」

「ほら。こう言ってる」

「子供相手にそれでいいのですか!?」


 相変わらず賑やかだ。フラウはそれから、フィアナとユーリの方に歩み寄った。


「しばらくお別れね。また会いましょう」

「はい。また会える時が楽しみです」

「ええ。楽しみだわ。その時はわたし、今よりも魅力的な女の子になってるはずよ」

「そうですか?」


 フィアナとフラウは、やはりどこか火花を散らしながら会話してる雰囲気がある。一方で。


「またね、フラウ」

「え、ええ。また……」

「そうですね……」


 ユーリのマイペースさに、ふたりとも勢いが削がれた様子。相変わらず難儀な関係だ。




「ねえトニ、オロゾ。今度は涼しい場所に行きたい」

「ほっほ。それは良き考えるですぞ」

「僕も賛成だよ。でも僕って寒い場所は苦手なんだよね。ミーナ、暖めてくれないか?」

「え? いいけど」

「リゼみたいに両手で抱えるようにしてさ」

「うん。まあいいけど……どうしたの?」

「なに。使い魔と主人の関係って良いなと、なんとなく思っただけさ」

「そっか」

「ほっほ。それでは行きますかな? とりあえず北に向かえばよろしので?」


 そんな風に、ミーナ達も去っていく。雪国にでも行くのかな。



 そして俺達も出発の時が来た。


「行ってきます、お母さん。お姉ちゃんも」

「ええ。体に気をつけてね」

「たまには戻ってきてよ。わたしが卒業してからでいいから」


 アンジェラとリナーシャの見送りでの旅立ち。いや、正確にはあとふたり。


「ほら、リリアンヌも挨拶しなさい」

「わ、わたしは後でいいですわ。リカリオが先になさいな!」

「僕ですか? ええっと、リーゼロッテお姉様……言ってらっしゃいませ。ほら、リリアンヌも」

「…………」


 姉の後ろに隠れるようにしていたリリアンヌとリカリオ。特にリリアンヌは、蔑んでいた姉が本物の実力者だと知って恐縮してるらしい。

 そんなふたりに、リゼは優しい笑顔を見せた。


「そんなに怖がることないよー。わたし、こう見えて優しいお姉さんなのです! ……だから、また会った時は落ち着いてお話しようね?」


 お? リゼも多少はまともな会話ができるようになったか?

 自分のことを優しいお姉さんって言ってしまうのは置いとこう。



 街の門から徒歩で出る。出発といっても、目的地があるわけじゃない。


「ねえみんな! どこ行きたい?」


 なんでリーダーでもないリゼが尋ねるのかはわからないけど、方針を決める必要があるのは間違いない。


「わたしは、どこでもいいですよ。皆さんについていこうかと」

「俺はアルスターの街に一旦戻りたいかな。家がどうなってるか、一度見ておきたい」

「じゃあ、僕も故郷に、一度戻りたい」

「へ? 故郷?」


 ユーリがぽつりと口にした言葉に、リゼは思いっきり食いついた。


「ユーリくんの故郷! ワーウルフが大勢いる場所! いいね! 行こう行こう。ね、コータも行きたいよね!」

「そうだな。割と気になる」

「やったー! 決まり!」


 テンション高いな。


 でも行き先は決まった。ユーリの村でも何か事件に巻き込まれるかもしれないけど、それはそれで構わないか。

 俺とリゼなら、難なく解決できるだろうから。


「ねえコータ。ワーウルフ全員を集めてモフモフしたら、気持ちいいだろうねー。やりたい」

「やめろバカ。ワーウルフのみんなに迷惑だろ」

「バカじゃないですー! 優秀な魔女だからバカじゃないもん!」

「優秀でもバカはバカだ」

「にぎゃー!」


 こいつの暴走を止める日々も続くってことだけど、まあ別にいいか。




〈転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  完〉

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

「転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記」これにて完結です。


完結まで書き続けられたのは、ひとえに読者の皆様のおかげです。これまで、本当にありがとうございました。


次回作も用意していますので、これからも私の小説を楽しんでもらえればこれ以上の幸せはありません。

あと番外編的に、リゼ達の物語の続きとかスピンオフとかも、いずれ書くと思います。そちらもよろしくおねがいします。



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