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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
最終章 俺のいる世界

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14-54 決着

 ゼトルはその光景を、絶望と驚愕の表情で見つめていた。

 怪物達は頼りにならない。他に味方が来る気配もない。


「どうやら、お前はもう終わりみたいだぞ。一応聞いておくが、このまま大人しく罪を認める気はあるか? だとしたら、半殺しにする程度で許してやる。城には罪人として突き出すけどな」

「はっ! 下賤の者どもが調子に乗るな。この私を誰だと思っている? かの名門ニ――」

「黙れ」

「がはっ!」


 大層な御託を並べて威嚇しようとしてたから、殴って黙らせた。我ながら高貴とは程遠い、確かに下賤極まる行為だ。構うものか。


 単純すぎる暴力に、ゼトルはもがいて俺から逃れようとする。だけど俺は馬乗りになってるわけで、男ひとり分の体重と共に押さえつけられていてはそれも困難。

 ゼトルの首を掴んで、再度顔面を殴る。魔法の詠唱ができないよう、口を狙った。


「痛いか、クズ野郎!」

「だ、誰がクズだと」

「お前だ!」


 なおも減らず口を叩くゼトルの顔面を殴る。一方で奴も腕を振り回して反撃してきて、僅かな隙を突いて俺の拘束を抜け出した。

 這うようにして俺から離れたゼトルは、そのまま立ち向かうでもなく、逃げようと試みてるらしい。


「周りは俺の味方ばかりだぞ。逃げられると思うな」

「や、やめろ。来るな」


 腰が抜けているのか立つこともできないゼトルは、俺が歩み寄るの恐怖に染まった顔で見つめ、拒絶のポーズを取る。だけど許す気などない。


「やめない。お前はこの手で死ぬ寸前まで痛めつけたい」


 逃げようとするゼトルの胸ぐらを掴んで強引に起こして、顔面を殴る。何度も。何度も。


「お前がやってきたこと。誰かを犠牲にして踏みにじってきたことへの報いを受けろ!」


 殴られて地面に倒れたゼトルは、フラフラになりながらも起き上がろうとした。その背中を蹴り飛ばして、膝をつかせる。

 やつの体を仰向けにして、またマウントをとって顔を殴り続ける。


「魔法使いじゃないとか! 名門じゃないとか! 無能とか! そんな理由で誰かに犠牲を強いようとした罰を受けろ! それから! なにより!」


 奴の鼻を折る勢いで、全力で拳を振り下ろす。


「俺の主人を連れ去って利用しようとしたことが一番許せない。だから殴る!」

「がはっ!」


 鼻が折れて血を流していて、目は青く腫れている。そこ以外も顔中傷だらけで見られたものじゃない。

 これくらいでいいかと、俺は殴るのをやめてゼトルの上から降りた。


「あ……け、結局は、私情か。私情で私を……」

「そうだな。私情だ。でも当然だろ?」


 腫れ上がった目はほとんど見えないだろうけど、ゼトルはこちらを睨みながら恨みがましく言ってくる。

 それがどうしたというんだ。


「俺はリゼの、この最高の魔女の使い魔だ。危害を加えてきたら、これくらいはする」


 それが、使い魔と主人の関係ってやつだ。




 リハルトが率いていた兵士達が、ゼトルを拘束して連行していく。


 魔術院の相当偉い官僚にして名門の当主を、一介の冒険者集団が襲っていた。というか俺みたいな若造が殴り続けていた。傍から見れば俺の方が悪人に見えただろう。

 そんな状況を兵士達が見るだけで終わっていたのは、リハルトの指示があったからかな。それとも、ゼトルがこんな場所にいるのが怪しいって判断なのかも。

 たぶん、両方だ。


「ふたりとも、よくやったわ。インクはどうしたの?」


 ペガサスから降り立ったロライザが駆け寄り訪ねてきた。そういえば俺も気になる。


「あー。使われてました。それで魔導書を作ろうとしたみたいですけど、本をこれで刺したら……」


 リゼが忌まわしいナイフを見せる。なんでお前が持ってるんだ、なんて疑問は特に抱かない。盗んだに決まってるからだ。


「なるほどね。魔導書は使えなくなって、単に貴重なインクが無駄になっただけ。上々だわ。インクが無事だと、お城に持ってかれて悪用されるかもしれないから」


 ロライザは安堵の表情を見せた。長い間懸念事項だったからな。


「あの。お仕事が終わったなら、そのペンダントは返していただけますか? さすがに、冒険者の私的な戦闘に使ったのは、あまり知られたくないといいますか」


 マルカが兵士達の目を気にしながら言う。そうだな。国宝だもんな。


「いいわ。まず、ふたりの繋がりを修復するのが先ね。そのまま動かないで」


 ロライザがなにやら詠唱を唱える。複雑で聞き取りにくい詠唱で、どうやら俺は正式にリゼの使い魔に戻れたらしい。

 同時に俺の体がぬいぐるみの中に入っていく。そうそう。この感じ。俺の体はやっぱぬいぐるみなんだな。慣れてしまった。


「わーい! コータ!」

「ぐえっ」


 こいつ。戻ると同時に抱きついてきやがった。やめろ苦しい。


「コータ! こっちの方が落ち着くね! さっきのはなんか……かっこよかったけど、かっこよすぎてコータらしくないっていうか」

「おいこら。どういう意味だ。……まあ、俺もこっちの体の方が落ち着くんだけど」


 元人間として、本当にそれでいいのかって懸念はあるけど。それに、かっこいいって言われるのも悪い気はしない。

 けど俺は使い魔だ。このバカと一緒に行動するなら、こっちの姿の方がいい。


「えへへ。まあ、たまにはさっきの姿になってもいいんだけどねー」

「わかった。たまにな」

「このペンダントは貸しませんわよ!」


 マルカが念を押してきた。仕方ないな。国宝をホイホイ持ち出せはしないな。


「あのねコータ、助けに来てくれて、ありがとう。……わたし、コータがいないとなにも出来ないってわかったの」

「ああ。俺もだ。リゼがいないと無力なぬいぐるみだな」

「そっか。じゃあ……ええっと……」

「わかってる。これからも一緒だ。もとの世界に関しては……もうちょっと考えぐえー」

「やった! コータ大好き!」

「おいこら! 離せ! 握りしめるな!」


 お互いを認められたと思ったらこれだ。でも、リゼも相当嬉しいんだと思う。


「リゼさん! 心配したんですから! 良かったです!」

「おおっと。フィアナちゃんもありがとう。それにみんなも」


 フィアナが泣きそうになりながら抱きついた、それに合わせてみんなも駆け寄ってくる。

 みんな、リゼが無事なのは確信してただろうけど、やっぱり安堵の表情を見せていた。フィアナの頭を撫でてやりながら、リゼはそれぞれの顔を見つめる。


「ご、ご迷惑をおかけしました。……帰ろっか、みんな」


 リゼも安心してるって顔を見せていた。こうやって笑っていれば、かわいいんだよな。

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