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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
最終章 俺のいる世界

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14-49 白い想い人

 ユーリが目指すのは、さっきレオナリアが切り裂いていた喉の箇所。

 さすがに弓では射抜けない。けど、こっちの武器は弓だけではない。


 慌てて静止しようとするレオナリアに向けて、フィアナが矢を射る。彼女はすかさず、ドラゴンの血で汚れた剣でそれを弾き飛ばした。

 その間に、ワーウルフの力強い顎がドラゴンの喉に食らいつき、鋭い牙が食い込んだ。ドラゴンの体に口の力だけでぶら下がってる状態で、フィアナもそれに必死にしがみつく。


 ドラゴンは突然の出来事に混乱しながらも、急所に噛み付く敵を振り払おうと暴れる。けど、ユーリが喉を食いちぎる方が早かった。


 溢れ出る鮮血が森に降り注ぐ。ユーリとフィアナもそれをまともに浴びることとなった。


「ユーリくん、一旦降りましょう」


 レオナリアの方を見れば、急遽別のドラゴンを呼び出していた。


 噛み付いていたドラゴンから口を離したユーリは、空中で姿勢を制御。体を水平になるよう調節し、フィアナが矢を射れるようにした。

 森の木々の中に落ちるまでに一本だけ射る余裕ができた。それでレオナリアが乗り換えたドラゴンの目を射抜く。


 着地と同時にユーリはその場から飛び退く。ドラゴンの死体が木の枝をバキバキと折りながら降ってきた。


「こんな大きなドラゴンも、喉を食いちぎるだけで殺せるんですね……」

「ガウ」


 ユーリは相槌をうちながら、そのドラゴンの死体に登って空をみる。

 今ので、かなりのドラゴンを減らせたはず。上空では相変わらず爆発音が響いているから、ロライザ達が戦ってるなり逃げ回るなりしてるのは変わらない。


「レオナリアを討ちますか?」

「ガルル……」

「ええ。そうですね。基本はドラゴンの数を減らすことです。レオナリアも強敵ですけど……ドラゴン全体の指揮をとってるわけではないですもんね」


 おそらく、頬に傷のある男もこの戦場にいるのだろう。それがロライザ達を執拗に狙っている。

 それを落とす方が先か。


 爆発音が響き続ける。ドラゴンの数が減って、逃げ回るのは楽になっただろう。だけど爆発魔法で撃ち落とすのは少しだけ難しくなるはず。

 ドラゴンの密集度合いが減れば、それだけ狙いにくくなるから。


 爆発魔法っていうのは、狙いがつけ辛いらしい。ドラゴンから逃げ回ってる状態ならなおさらで、ロライザはたぶん敵のいる方を手当たり次第に爆発させてるのだと思う。

 それで敵を倒せてる間はいい。けど、難しくなってきたなら。


「やっぱり、頭を落とさないといけませんね。ユーリくん、敵が近くに来たら跳んでください」

「ガウ」


 ふたりして耳をすませる。爆発音と、ドラゴンの羽ばたき。徐々に位置を変えながらも、まだこちらとは距離がある。

 レオナリアがこっちを攻撃しに戻る気配はない。先にペガサスの対処に向かったのだろうか。


 出てくるべき機会をじっと伺って、それから。


「今です!」


 フィアナの呼びかけに白いワーウルフは応えて全力で跳び上がる。さっきと同じく、木の幹や枝を足場にして高く跳ぶ。それも音がしていた方へ。

 見つけた。ペガサスを追い回す数体のドラゴン。さっきよりもずいぶん数が減っている。

 そのドラゴンの指揮をしている、見覚えのある男。自分が乗ってる一頭はともかく、どうやって他のドラゴンに言うことを聞かせてるのかは知らない。たぶんあの男なりの熟練の技なのだろう。

 だからこそ、このままにしておくわけにはいかない。これまでと同じく、短時間で弓を引いて狙いを定める。ドラゴンの動きを予測して、射る。男は、ペガサスを追うのに夢中でこちらに気付いていなかった。


 矢が男の首を貫いた。たぶん即死。なにが起こったかわからないまま死んだだろう。

 統率する者がいなくなった今、ドラゴンの動きが少し鈍くなったように見えた。そこをすかさずロライザが爆発させていくのを、フィアナは落ちながら見ていた。


「あとはロライザさん達に任せてよさそうですね。わたし達はレオナリアを追いましょう」


 さっき跳躍した際には、レオナリアの姿は見当たらなかった。

 あのドラゴンは片目を負傷したけど、完全に視界を奪われたわけじゃない。うまく落ち着かせればまだ使えそうだ。レオナリアにドラゴンを落ち着かせる術があるかは知らないけど。


「逃げたのかもしれませんね。どの方向に行ったかはわからないですけど……」


 逃げたのなら仲間のいるところ、たぶんリゼも捕まってる敵の本拠地のあたりだろう。こっちはその場所がここからどの方向にあるのか、わからないけど。

 とはいえ追いかける方法はある。森の中を走り回りつつも、自分達の進んだ跡なら辿れる。それでカイ達と別れた地点まで戻ったら、今度は仲間の痕跡を辿ればいい。


「フラウさんの足跡とか匂いが有力な手がかりですよね。ちょっと嫌ですけど」

「ガウ?」

「なんでもないです……いえ。なくはないです」


 別に、フラウの匂いを辿るのが嫌なわけじゃない。事実として、ユーリには同族のフラウの匂いは嗅ぎ分けやすいだろうから。

 ただ、あの女の匂いを辿った結果として、ユーリとふたりきりの時間が終わるのが嫌なだけ。


「ちょっとだけ、待ってください」


 大きな白いオオカミの背中の上に、うつ伏せで横になる。きれいな白い体毛の体は、ドラゴンの血であちこち汚れて赤茶けている。でもフィアナもそれは同じ。かまうものか。

 抱きしめるようにして、その暖かさを感じた。

 一瞬だけのこと。ここは敵地で、いつ襲撃があるかわからない。だから、ほんの少しだけ。


「……ありがとうございます。行きましょうかユーリくん」

「ガウ」


 座っている体勢に戻って、背中を撫でながら指示をする。

 フィアナの不可解な行動にも、大した反応は見せなかった。狼化しててもそれは同じ。ただ少しだけ頷いて、自分の匂いを辿るために地面に鼻をつけて歩き出した。


「ああそうだ。ユーリくん。敵を警戒しながら、もう少しゆっくり進みましょう。というか、ロライザさんを待って、探査で進路を教えてもらっても良かったかも」

「…………?」


 唸り声すらあげずに、立ち止まって首をひねってしまった。ただ、もっとふたりでいたいからって言えば納得してくれるかな。

 だめかも。リゼを助けに行かなきゃいけないし。


「なんでもないです。急いで、リゼさんの所へ行きましょう」


 なんでもないと笑いかけて言えば、白い想い人はまた歩みを進めていった。

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