14-45 爆発する森
ペガサスに乗ったマルカとロライザが飛び上がった直後、あちこちから爆発音が響いた。
木が吹っ飛び、動物達の悲鳴が響き渡る。
環境保全なんて言葉は、今は忘れよう。俺達の作戦の方が大事だ。
「よし。マルカさん! 俺達とリハルトさんの間あたりを飛んでてください! あとユーリ達を援護に回します!」
かろうじて声の聞き取れる範囲を浮遊してるペガサスの騎手は、声を張り上げたカイに了解のジェスチャーをした。
「じゃあユーリくん。わたし達も。ドラゴン狩りますよ」
「ガウ」
本気でドラゴン退治するのか。いや、いいんだけど。地を駆るオオカミと鱗を貫けない矢で、どう勝つつもりなんだろうか。
意気揚々と森をいくふたりを見送る。俺達もグズグズしてられない。リゼの方向へ走る。
「おそらく敵はロライザさん達を、リハルトさんの援護だと思うでしょう。なので戦力をリハルトさんやロライザさん達に向けるはずです。ドラゴンも含めて」
ルファが肩にしがみついてる俺に話しかける。そうだな。その通りだ。やっぱロライザ達のことが心配になるけど、今は任せるしかない。
「リハルトの様子は?」
「オークに囲まれてる!」
探査魔法を使いながら走るのは危ないからか、巨大化したトニにのったミーナが切迫した声をあげた。
やっぱり罠だったんだな。
「数は!?」
「ええっと、十体! あ、一体消えたから残り九!」
「消えた?」
「うん。あ、またひとつ倒された。……もしかしてあの人、戦って勝ってる?」
自分の見ているものが信じられないって様子のミーナ。ある程度戦って敵を引きつけてくれたらそれで良かったのだけど、もしかしたら予想以上の働きをしてくれるのかもしれない。
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「周囲の守りを固めろ! 打撃に備えろ!」
「はっ!!」
リハルト・クンツェンドルフの指示に、兵士達はそれぞれ盾を掲げた。リハルトを囲んで守るような陣を作る。
リーゼロッテを、妹を助けるための囮。昨夜母から託された密命を、リハルトは忠実に果たすと決めた。いや、クンツェンドルフ家の未来の当主として、単なる囮だけの役目で満足する気などなかった。
普段は王を直接守るための訓練を積んでいる優秀な兵士が、オークが振り下ろした棍棒を盾で受け止めた。正面から受けるのではなく、斜めに構えることで衝撃を受け流す。その直後に別の兵士が盾でオークを突き飛ばす。
とりあえずこれで守りは機能している。一見すると小さな人間達の思わぬ抵抗で、ただの一体も殺せていないという状況に苛立ったのか、オークは怒りの雄叫びをあげた。
その大きく開いた口に向かって、リハルトは一本の炎の矢を放つ。口から脳を貫き後頭部へ抜けた矢によって、オークは絶命。
「オークへの攻撃は俺がすべてこなす! お前達は防御に徹し――――」
どこかで爆音が起こった。それも一回ではなく、何度も連続して。何があったのか、こちらもオークもわからずに一瞬だけ動きが止まる。
リハルトがその隙を見逃さず、一体のオークを再度魔法で葬った。
彼自身も何があったかは知らない。けど察することはできた。妹の仲間の冒険者が、何らかの行動を始めたのだと。
だとすれば、こちらがやるべきことは決まってる。
なおも混乱してる様子のオークに次々に風の刃を叩きつけて殺す。周囲を見回し、新たな敵が即座に出てくる様子はないと判断。
「先程の爆音が何かは知らないが、我々に敵対する者の攻撃とは限らない。また、その正体を見極める必要もある。森の中を進むぞ」
実際は、こちらも森の中で暴れて冒険者達の支援をするのが目的。
リーゼロッテを救うのは彼らに任せることにした。
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冷静に考えれば当然なのだけど、リハルトは強い。しかも兵士も日頃から訓練を積んでるのだろう。
オークに囲まれたぐらいで危機に陥る奴じゃないよな。
「ねえ。ロライザさんの攻撃で、なんというか大変なことになろうとしてる」
「ミーナ。そういうことは具体的に言うものだよ」
自分の上に乗ってる主人に、白いトカゲが冷静に声をかけた。
「わ、わかってるって! ええっと。ロライザさんはリゼの周りを爆発させ始めた。リゼは巻き添えをくらわないようにね」
妥当と言えば妥当な判断かな。リゼの周りこそが敵の拠点で間違いないだろうし。
空から狙うことで、その範囲を直接見ることもできるのだろう。
「それでええっと、隠されてた怪物が次々に出てきた。オークにゴブリン、狼もいる」
「ドラゴンは?」
「いる! 十頭ぐらいいる! ロライザさんの方に向かってる!」
そうか。まあいるだろうな。ペガサス一頭で逃げ切れるだろうか。
フィアナ達の支援もあるって言っても、なんか心細いし。
いいや、信じよう。俺達は俺達でリゼの所へ向かえばいい。
「ミーナ。こっちに敵は?」
「来てる! オークの群れ!」
よし、警戒をしつつ前進を続けよう。
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「にぎゃー!?」
気持ちよく寝てたところに突然の爆発音で、リゼは否応なしに叩き起こされた。
がばりと起き上がった拍子に、元々ちぎれかけていた両手の拘束が完全に効果を失う。けれど自由になった両手のありがたさを実感するどころではない。
周囲に何度も響き渡る爆発音。それに呼応して、人間じゃない何かの叫び声も聞こえる。たぶん檻に入れられた怪物。
「ええっと。つまり、怪物が攻撃されてるってことは、攻撃してるのは味方? コータが助けに来てくれた?」
そんな推測をしてる間にも、さらなる爆発が起こった。
しかも至近距離。隣の檻の内部の爆発で、中にいたオークの体が弾け飛んだ。血と臓物の混ざったなにかが、リゼの檻にまで飛んでくる。
とっさに檻の端まで逃げたから、それらを被るはめにはならなかったけど。
「ぎゃー! わーん! 怖い! コータ助けてー!」
次はこっちの檻が爆発するのではと恐怖に慄いたけれど、幸いにもそうはならなかった。少し離れた場所からの爆発音が続く。
「ううっ……なんなの……怖い……コータ助けて……」
檻の床にうずくまってしばらくじっとしていたけれど、それも短時間で落ち着けた。
とにかく、何か起こってるのは間違いない。この状況を利用できるかも。
「大丈夫。わたしは優秀な魔法使いだから、なんとかできる。ええっと……」
どうすればいいのか答えを出す前に向こうから来てくれた。
ゼトルが、周囲を警戒しながらこっちに駆けてくる。