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14-43 出発

 あまり重くなりすぎない朝食も食べ終わり、シュリー以外の全員でリゼの実家まで向かう。


「うー。若者諸君。まあ一部あたしより年上もいるけど、とにかく諸君。健闘を祈る。あたしは少し寝る……」


 元からシュリーは街の外に出る予定は無かったからいいのだけど、それにしてもひとりだけ眠そうな様子。

 ロライザもマルカも元気だから、徹夜でインタビューしてたとかではなさそう。


 あと、マルカが怒る様子もないから、たぶんまともな理由で眠いんだろうな。

 これが身勝手な理由なら「もう! しっかりしてくださいシュリーさん!」ってなるはすだから。


「ちょっと寝たら、魔術院の知り合いに話をしに行くから……」

「あまり無理はなさらないでくださいね」

「ああ。わかってる。でも後は任せてくれ」


 あるべき反応とは真逆の口調のマルカに見送られながら、シュリーは部屋に戻っていった。


 何があったのかわからない。リゼの屋敷に全員で向かいながら俺が首をかしげていると、ロライザが近づいてきた。


「昨日ふたりと話してる途中で、ある情報が得られたの。学術院の所蔵してる魔法道具に、使えそうなものがあるって判明した」

「使えるもの?」

「ええ。元はアーゼス様が作り出した物なんだけどね。妖精の世界から精神体だけでやってきた使い魔のための物」

「つまり、何かに憑依してる使い魔ってことか?」

「そう。あなたみたいにね。だから使える」


 俺は妖精の世界出身じゃないけど、精神体って意味では同じだ。


「活かさない手はないって思って、シュリーさんに持ってきてもらったの。夜中だったのに、頑張ったわね、あの子」

「学術院収蔵の物って、そんなに簡単に持ち出せるのか?」

「まさか。厳重に管理されてる物よ。アーゼス様ゆかりの品っていうのは判明してるらしいから、国の宝として指定されてるらしいし」


 あの印章とか、それを探し出す水晶玉みたいな感じか。

 けどその水晶も、以前マルカが持ち出したことあるんだよな。頑張ればなんとかなるのかも。


 それよりも、その国宝級のアイテムについてだ。それについて聞こうとした頃に、ちょうど城の前を通った。


 リゼの実家と宿の位置関係の都合上、ここを通るのは別におかしなことじゃない。どれも街の中心部にあるのだから。


 城の内部を伺い知ることはできない。探査魔法は使えないし。ただ、昨夜は遅くまでドラゴン対策で大騒ぎしてたはずだ。こころなしか静かな感じなのは、その反動だろうか。


 とか考えていると、門から武装した兵士の集団が出てきた。

 総勢十名ほど。それぞれが騎乗して、頑丈そうな鎧を着込んでいる。長槍や剣をそれぞれ持っており、手強い敵との戦闘を想定しているとわかる。


 その集団とすれ違う際に、その中に知った顔を見つけた。リハルトだ。リゼの兄貴。それから、昨日母親から密命を受けてる男。兵士に混ざっている彼だけは、魔法使いのローブを着込んでいて雰囲気が異なっていた。

 なるほど。ドラゴンが生息しそうな箇所に送られる先遣隊か。敵地へ行って適度に暴れて、引きつけながら撤退する。


 俺達とは表向きは無関係な間柄。だから言葉は交わさない。だけどリハルトは俺を見つけたらしく、しっかりと頷いた。

 こいつも、妹を助けたい気持ちは同じなはずだ。



 クンツェンドルフ家の屋敷でも準備が整っていた。屋敷の前に停まった馬車の荷台には、大量の魔法石の入った袋。


「こんなにたくさん集められるなんて……さすがお金持ちね」

「売ればどれくらいになるのかしら。ねえルファ、どう思う?」

「売り物じゃないですからね。いえ、売りさばけるなら是非ともやってみたいですけど」


 そう、商人トリオが感嘆の声をあげていた。職業柄とはいうけど、なんとも即物的な見方だ。


「ほとんど徹夜で、家の中の魔法道具を解体したわ。倉庫の中もひっくり返した。あと魔力の充填もね。……人間ひとり分ぐらいの重さの魔法石は集まったはず」


 そんな説明をするリナーシャは疲れ切ってる様子だ。俺達が寝ている間に苦労してたのだろう。


「リリアンヌはかなり不機嫌だったけど。寝てるところを叩き起こされてね。だけどわたしの頼みは断れなかった」


 リゼの妹の様子を観た時間は長くはなかったけど、文句を言ったり姉の頼みに掌を返す姿は容易に想像ができた。


 そのリリアンヌとリカリオは、疲れて眠ってるらしい。母親のアンジェラも同じく。

 この魔法石の量を考えるに、本当に持てる魔力を使い切る勢いだったのだろう。回復まで時間がかかりそう。


 リナーシャの父や祖父は、まだ城から戻ってないらしい。城に泊まり込みしてたのか。リハルトの姿は見たと報告すれば、リナーシャは少し心配そうな様子を見せた。

 泊まりの仕事の後に敵地に向かうのだから、体力面で不安のある状態。それで戦いになるのだから心配は当然か。


「兄も、リゼを本気で助けたいと思ってるはず。だからこそ行ったんでしょうね」

「そうだな。俺達、みんな想いはひとつだ」

「ええ。……わたしにできるのはここまで。後は任せたわ、使い魔くん」


 リナーシャだって疲れ切っているのだろう。家が用意した馬車に俺達が乗り込んだのを見ると、フラフラと屋敷の方に帰っていってしまった。おやすみ。



 馬車の荷台に揺られて南の門へ。第四門だっけ。


 昨日はその周辺でもドラゴンが一頭暴れたわけで、城の警戒態勢が敷かれていた。兵士の姿がそこかしこに見える。

 そこを冒険者の一党が街から出るとなれば、多少怪しまれるのは当然か。視線を感じる。

 街がそのうち討伐隊を結成して冒険者を組み込むことがあるかもしれないけど、それはもう少し先のことだからな。


「堂々としてればいい。ドラゴン退治を先走ろうとしてる、向こう見ずな冒険者集団って思ってくれるさ」


 カイは余裕の表情だった。そんな奴がいるのか。

 いるな。見たことある。ドラゴンじゃなくてオークだけど。集団に先駆けてオークの巣に行ってしまい、村に呼び寄せた奴らがいたな。


 そんな輩と同じだと思われるのか。いや、俺達を見てる兵士達は、奴らのことを知らないわけだけど。


 まあいいや。俺達は違う。敵を確実に殺してリゼを救い出せる。

 俺達は強いから。


 馬車から降りて、ペガサスに乗ってるマルカ以外はみんな徒歩で城壁から出る。

 早速森が広がっていた。鬱蒼と生い茂る枝葉によって、昼でも暗そうな印象をうけるだろうな。けれど多くの人が歩んできたために形成された道も見えた。

 よし、じゃあ踏み込もう。

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