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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
最終章 俺のいる世界

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14-42 無能な働き者

 ゼトルはこのナイフを落としてなくしたと思ってる。けれど大間違い。

 勘違いしちゃうのも仕方ない。乗ってたドラゴンが死んで落ちていく途中で、しかも押さえつけている相手が暴れた結果の取り落し。ナイフがどこに行ったのかなんて、確認する余裕はなかったはず。

 そしてリゼは、そういう物をくすねるのが得意だった。


「親子揃って、盗まれるのが得意なんですねー。このナイフ、さすがに本来の使い方はできないけど……」


 それでも普通のナイフとして使うのは可能。

 自分の両手を縛ってる縄を、完全には切断しないよう気をつけて切っていく。外から見れば変わらず拘束されてるように見えるけど、その気になったら解けて自由になれる程度に。


「オークさん、このことは内緒にしててねー」


 どうせオークにそんな知能があるとは思わないけど。当のオークはリゼが静かになって満足したのか、安らかに寝入っている。


「んー。この檻からは出られないよね。出ても外に怪物がいたら怖いし。じゃあ……」


 次に目をつけたのは、檻の真ん中に置かれてる魔法石。これがきっと、探査魔法を邪魔する効果を持ってるのだろう。


 檻のひとつひとつにこれを取り付けることで、檻の間を走るネズミやウサギなんかは探査魔法で見えるようになる。

 だから、不自然に何もない場所がなくなって、ここが見つかりにくいって仕組みかな。


 その魔法石が背中側になるように座って、拘束されたままの両手でナイフを握る。魔法石をナイフの先端で何度か突く。


「魔法石って硬いんだよね。だけどこのナイフも魔法道具だから……」


 何度かやって、時々振り向いて魔法石の様子を見つめる。それを数度繰り返したら、魔法石に小さなヒビが入ったのを見つけた。

 魔法石の方を見ないまま、ナイフの先端をその上で滑らせ、手先に意識を集中させてヒビの箇所を探り当てる。そしてナイフを押し込んでひねった。


 パキッ。小さな音と共に魔法石はふたつに割れて、やがて輝きを失っていく。


「これで探査魔法で見れるようになるよね。他に今できることは……ないかな。うん、ないね。よし寝よう。あとはコータが助けてくれるのを待とう!」


 考えるのも面倒だし、それに疲れた。後はコータに任せればいいはず。

 魔法石の破片の上に寝転がって、効果が切れたことを隠す。それから目を閉じて寝ることにする。


 正直なところ、不安しかない。コータとはぐれるのがこんなに心細いなんて。

 だけど同時に、彼を信じてもいた。


「大丈夫。コータは絶対に助けに来てくれる。だから怖くない」


 微かな笑みまで浮かべながら、敵地の真ん中でリゼは眠りについた。



――――――――――――――――――――



 朝だ。まだ夜明け前だけど、冒険者的には普通に活動できる時間帯。


「おはよう、コータ。いけるか?」

「おはよう、カイ。大丈夫だ。まずはリナーシャのところだな」


 カイは既に起きていて、とっくに身支度を済ませていた。その隣でユーリが椅子に座って、無表情でこっちを見てる。感情は読み取れないけど、覚醒してるのは間違いない。


「ほっほ。他の皆様も準備はできているようですぞ」


 扉が開いて、オロゾが顔を出した。老人の朝は早い、とかは言わない約束か。

 もしかして、起きたのは俺が最後か? 身支度をする必要もないから、別に困らないのだけど。


「わかりました。じゃあ、朝食を食べてから行きましょうか。オロゾさん、コータをお願いします」


 寝ている間はベット横に置かれた魔法石から魔力を貰ってたけど、移動する時はそうはいかない。

 一応、小さな魔法石を抱えながらも、誰か魔法使いから供給を受けたほうがいい。


 カイの大きい手に持ち上げられて、オロゾのがっしりとした肩に乗せられる。どっちもリゼのとは全然感じが違うな。

 頼り甲斐の面で言えば男の体に乗ってる方が良いのだろうけど、リゼの手や肩に慣れてしまってるからな。正直に言えば恋しい。


 宿の食堂には、他の全員が揃っていた。歴史に関する質問もほどほどで終わったのか、ロライザもマルカも眠そうな様子は見せていない。

 シュリーだけ、なぜか疲れ切った様子だけど。目の前の食事に手を付けるではなく、うつらうつらと船をこいでいる。


「おはようございます、ユーリくん! 今日はよろしくお願いします」

「うん。おはよう」


 ユーリが起きてきたのを見て、フィアナがテンション高めな挨拶をする。

 こいつ、今日の戦いはユーリと組んで臨むのに固執してるんだよな。特にドラゴン退治に執念を燃やしているらしい。

 まあいいけど。ユーリと一緒に行動するのはいつものことだし。それが、ふたりにとって一番戦いやすい形なんだろう。


 けど、それに不満を持つ者もいて。


「ねえ。別に良いんだけどさ。これみよがしに仲良くされるのも嫌っていうか……良くないっていうか」

「良いのか良くないのか、どっちですかフラウさん。気持ちはわかりますけど」

「うふふ。嫉妬は良くないわ。気持ちはわかるけどね」


 ユーリ達を見ながら複雑な表情を見せるフラウと、それに声をかける商人仲間のふたり。

 ルファとフラウに関しては、今日は俺の補助という重大な役目がある。サキナだっていつものように活躍してもらわないと。

 ユーリに対する心情は別として、それ以外のコンディションは良さそうで何よりだった。


「あ、コータさんおはようございます! わたしもフラウも、心の準備はできてますよ! コータさんのこと、しっかり手助けしますので!」


 そんなルファの言葉に励まされた。



「ミーナ。今日はいつも以上に緊張してるね」

「仕方ないでしょ。だって……ううん。なんでもない。大丈夫、いける」

「友達が連れ去られて心配なんだったら、別に隠すことじゃない。不安は不安として、表に出せばいい」

「出してる。むしろ隠せないから結果的に出てる。当たり前でしょ。リゼは心配。だからわたしが頑張るの」

「はっは。それでいいんだ。それでこそミーナだ。オロゾもそう言ってる」

「儂は何も言ってませんぞ。……同意ではありますが」


 この魔法使い達もいつも通りらしい。良かった。


 見た感じ、それぞれが戦いを前にして緊張してる様子。それでも、普段の感じと全然違うってわけでもない。

 みんな、自分の力は出せる様子だ。それでいい。

 踏み込むのは未知の領域。強敵と、多くの怪物が待ち構えてる場所。それでも俺達なら勝てると確信できた。

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