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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第4章 歴史学者

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4-8 洞窟と死体

 森の中の湖の近くに何らかの手がかりが残されているはずだからそれを探す。それは構わない。ただし、森に分け入った途端に大量の狼に襲われるとは思わなかった。


 狼の襲撃自体は予想していた。そのために俺達護衛がいるわけだし。それにしても数が多すぎる。

 前にお婆さんを連れていった時は狼と遭遇することなんてなかったのに。あれはきっとあの夫婦がずっと通ってきた道をたどったからというのと、運が良かったのだろう。


 とにかくここはあの夫婦だけの秘密の場所で、つまりほとんど人が来ない狼の領域ということだ。いつの間にか大規模な群れが複数形成されて、水飲み場である湖を巡って群れ同士の対立とかもあって。

 そして俺達はその領域に俺達は連日踏み込んでいる。


 結果として、俺の世界の動物保護団体が見たら卒倒しそうな光景が日々生まれている。あれだけ狼を殺せば生態系に影響とか及ぼす気がするが、環境保護の概念がない世界でよかった。とりあえず誰から文句を言われるわけでもないし。



「なんかなー。もう少しでなんか見つかりそうな気がするんだよなー」


 酒場でエールを飲みながら、シュリーは頭をかきむしる。なんで見つかる気がするのかはシュリーにもよくわかっていない様子。あえて言えば学者の勘とか。

 学者の勘頼りの捜索でも、俺達は毎日報酬を貰えているし今のところは狼と戦うだけの毎日はそこまで危険でもないから別に構わない。カイの適切な指揮によって、命の危険とかはまだ感じられないし。

 ただ、いつまで続くのだろうというこの先への危惧は少しあった。


「とにかく、狼の数はだんだん減っていってるはずだ。となれば着実に探索はしやすくなっていく……はず。明日も頼むよ。あたしはもう少し飲む」

 シュリーも疲れてはいるようだ。あるいは調査が進まない焦りを酒で紛らわそうとしていた。




 とはいえシュリーの言っていたことも正しかったようだ。たしかに翌日はこれまでと比べて狼の襲撃は少なく、探索範囲もかなり広がった。

 敵も連日の攻撃に疲れて、俺達を勝てない相手と悟り手を出せなくなってきたのかもしれない。


 そして、さらにその次の日。

「こいつは怪しいな…………」

 湖から西側に少し距離をとった所に、ぽっかりと横穴が開いていた。洞窟と言うべきだろうか。入り口の高さは二メートルほどで、大人でも余裕で中に入れそうな大きさではあるが、木々に隠されていてここまで近づかなければ存在には気づかなかっただろう。


「やっぱりこいつの中も探らないといけないですよね。でも洞窟探検用の装備は持ってないですし灯りもありませんよ」

「入り口だけちょっと見てすぐ戻ろう。灯りならここに魔女がいるじゃないか。ライト魔法ぐらいは簡単にできるだろう?」

「え? ええまあ。できますよはい」


 嘘つけ絶対できないだろ。案の定、リゼは先頭を歩いて洞窟の中にゆっくり入っていきながら俺に小声で話しかける。


「わたしの手のひらに意識を向けながら、光る球体が出てくるのを想像して。詠唱は"光よ来たれ。闇を払え、ライト"」


 言われたとおりに頭の中で光る球体を思い描き詠唱。リゼの手のひらの上にゴルフボール程度の大きさの光が現れて周囲を照らした。大きさの割に光度は高いらしく、洞窟の果てまで照らされる。背後から、おおと感嘆の声が聞こえた。


「ふふふっ。優秀な魔女のわたしにかかればこんなものです」

「調子にのるな。それにしても……」


 この魔法で洞窟の果てまで照らされた。というか、行き止まりが意外に近かった。横穴から少し下に下る坂道として伸びているこの洞窟だが、長さは三十メートルほどだろうか。傾斜もかなりゆるいものというのもあって、行き止まりがはっきりと見えた。これは期待はずれだな。調査がすぐに済むという意味ではいいのかもしれないが。


 一応はちゃんと見ておこうというわけで、リゼはそのまま歩みを進める。残りのメンバーもそれについていく。おそらくはなにも見つからないだろうと思いながら。先頭のリゼと俺はキョロキョロと周りを見回しながら進む。見渡す限りの岩肌。それから、ふと足元を見て。


「おい、止まれ」

「え?」


 なにか見つけた俺は立ち止まるように言って、少し遅れてリゼが反応したから、彼女のつま先になにかがコツンと当たる。

 なんだろうとリゼはしゃがんでそれをよく見ようとして。


「ひゃあっ!」

 なんなのかわかった途端に悲鳴をあげて飛び退いて、尻もちをついてしまった。


 それは人の死体だった。とはいえ死んでからかなり日が経っているらしい。残っているのは骨だけ。それから、生前の持ち物だったいくつかの物が周りに散らばっていた。


「どれどれ? おー、完全に骨だけだな。死んでからどれくらいだろう」

 シュリーが興味深いとでも言うように近寄って詳しく調べ始めた。この死体が重要な発見とでも言うように。


「あたしは死体の専門家じゃないからちゃんとしたことは言えないが……。でもこの白骨死体、死んでから何十年も経ってると考えてもおかしくはない」

 骨の様子をざっと見た上で、シュリーが感想を言う。何十年も経ってる。それはつまり。


「背の高さからして、多分大人の男だろうな。この男がなんでこんなところで死んだかはわからない。持ち物をざっと見るに、狩人ではないだろう。多分旅人。旅の途中で森に迷い込んで、狼に襲われたかそれとも……いるかどうかわからないが盗賊団に襲われたか。別の原因で怪我をしたか病気か……とにかくなんらかの形でこの洞穴に迷い込んで死んだ」


 次に、骨が身にまとっているボロ切れのような布を手に取る。

「こいつもかなり朽ちているが、それ以上に強い力で引っ張られて裂けたように見える。二頭の狼が口にくわえて引っ張りあったとかかな。……彼が死ぬ前か死んだ後かはわからないが、とにかく狼にたかられたのは間違いないだろう。そしてこいつ自身の肉と共に持っていた食料も奪われた…………一緒に、アーゼスの印章も」


 あくまで推測だ。目の前の死体を前にしてわかることは限られていて、そこから想像をしていっただけだ。死んでいる彼がアーゼスの印章を持っていたというのも希望的観測にすぎない。


 けれどなぜ狼のねぐらに印章があったのか、その理由付けとしては筋が通っている気がする。つまり、旅人が持ってきて、彼が力尽きたために狼がそれをねぐらまで持って帰った。狼にとっての食料と一緒に。


「とにかくこれは発見だ。こいつの死体と持ち物を詳しく調べないとな!」

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