表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第4章 歴史学者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/515

4-6 調査開始

 ともかく俺達の絆とか共通認識が深まった夜が明けて、その日からシュリーの調査が本格的に始まった。

 ちなみにこの朝は、元領主の犯罪の捜査チームが全員引き上げていった日でもあった。

「元気でなー。あたしのことは、なんかいい感じにごまかしておけよー」

 ものすごく他人任せなことを言いながら馬車に乗った数人の役人達に手を振るシュリー。本来ならシュリーもこの馬車に乗って首都に戻らないといけないのだが、そこは伝言を頼んでごまかしをておいたという。


「ちなみになんて言ったんですか?」

「ちょっとした発見をしたから単独で調べてみる。本当にちょっとした発見だからあたし一人で十分だし手伝いとかいいから。絶対に来るなよと学術院の部署に伝言をしておいた。まあ、後から国の宝レベルの発見だったとわかったことにしとけば問題ないだろう」

「問題あるようにしか思えないんですが……」

「何言ってるのよコータ! アーゼスの新しい伝説を知れるかもしれないチャンスなんだよ!」

「ぐえー。わかった。わかったから握るのはやめろ…………」


 リゼのやる気があるのはいい。でもリゼにあるのはやる気だけで実力は伴ってないというのはパーティーメンバー全員が知ってしまったことだ。




 調査の第一段階は聞き込みから。なにしろこの印章、元領主の屋敷の倉庫から見つかったということ以外に特になんの情報もない。そこから先何を調べればいいかもわからない。


「まずは入手経路だな。先祖代々伝わってきたものなのか、それとも元領主が何らかの形で手に入れたのか。手に入れたとしたらどうやったのか。商人から買ったとか、あるいは領民からの献上品とか…………あの男に直接訊くのが早いだろうけど、あいつは今首都だ」

「えーっと、どうするんですか? まさかレメアルディアまで聞きに行くとか……」


 リゼが少しためらいぎみに尋ねる。自分を追っている実家がある首都には行きたくないんだ。幸いにしてシュリーの返答は違うもので。


「それは最後の手段だな。そもそも首都に行っても取り調べの真っ最中で学者の質問なんてやってる暇がない。とりあえずこの街で聞き込みだな」


 領主の屋敷へと行き、新しい領主に挨拶と調査の協力をお願いする。前の領主の犯罪のことではなく、また別の学術的な話のことだから領主に協力の義務はない。けれど人が良いこの新しい領主は、首都から来た学者先生のお願いをあっさり了解してくれた。

 前の領主ならこうはいくまい。いや、意外に権力には弱い人間だったからそれもうまくいったかもしれないけど。


「そもそも、この印章も領主様に無理言って売ってもらったからあたしが持っているわけだし」


 たしかに、領主の屋敷の倉庫にあったものをシュリーは普通に持ち歩いているのは変だよな。ちゃんと所有権の移動はあったとシュリーは言っている。


「売ってくれたんですか。ていうか国の宝レベルの物なのに売ってくれるんですか?」

「うんまあ……なんというか、ちょっと珍しいタイプの古美術品だから興味があるって言って。……うん、安く売ってくれた」

「おいこら。国宝級」

「もー、コータってば依頼主にそんな言葉使っちゃダメでしょ?」

「ぐえ」


 このシュリーって女、やっぱりリゼと同類なんだろうな。しかも知恵も地位もあるから余計に厄介な相手なんじゃないかな。せめて最低限の良心はあると信じたい。悪人ではないのは確かなんだから。


「というか、新しい領主様はこれがすごいものだって知らなかったんですね」

 リゼがそういえばという感じで疑問を口にする。けれどそれに関しては、俺たちには大した疑問でもなくて。


「知らないんだと思うぞ。俺たちも見ただけじゃわからなかったし。アーゼスの伝説ぐらいは知ってたけど」

 答えたのはカイだ。そういう印章があると知識ではなんとなく知っていたけれど、実物を見てこれがそれと言い当てることはできないと。印章に刻まれていた模様がどんなものかも知らないというし。広い地域を旅してきたカイとユーリでも知っているのはそういう伝説の概要だけ。


「わたしは、アーゼスの伝説自体知りませんでした」

 生まれてからずっと小さな村に住んでいて外部の人間との交流も限られていたフィアナの答えもこれだ。フィアナの村では書物というもの自体が珍しかったし、伝わってきた物語を学ぶという文化自体が乏しいのかもしれない。近くに魔法学校があったとしても、そこから情報が流れてくるというのは珍しいことのようだ。


「そんなものだよ。この手の伝承っていうのは採取して記録しない限りは消えてしまうものだ。読み書きができないような人々の間で口伝で残されてきた物語は、それでもいずれは消えていく定めにある。口伝が重ねられるうちに内容が変わることもよくあるしね。建国の英雄レメアルドやアーゼスの物語は有名すぎる、幸運な例に過ぎない。そういう消えていく伝承を記録として残していくのも、我々歴史学者の使命だ」


 テレビもインターネットも、写真すらもない世界では有名な建物や美術品であってもそれがどのような形をしているか知らない、あるいは存在自体の知識がない人間の方が圧倒的に多いんだな。そこの感覚は俺には新鮮だ。

 首都育ちで伝承伝説に触れる機会が多く、この印章と同種のものを実際に目にしてきたリゼも、フィアナやカイの感覚とはズレがあるらしい。

 俺達の世界でもそうだけど、都会育ちってのはその時点で恵まれてるんだな。



 とにかく調査開始。まずはこれが見つかった倉庫だ。この印章は屋敷の倉庫に、その他の物と一緒に無造作に置かれていたらしい。


「一応、美術品がいくつか置かれているような領域にまとめて置かれていた。あの男は、これが美術品的な価値があると思ってたんだな。権力者のコレクションとして持っていたんだと思う」

「いえ。あの男の性格を考えると、本当にお金に困った時に売るつもりだったんだと思います」

 フィアナの意見。まあ確かに、あの男が美術品に造詣が深くてそれらを愛でる姿よりは売った金で別の贅沢をする姿の方が想像しやすい。シュリーはなるほどと頷く。


「なんにしても入手先を特定しなきゃいけないな。美術品の収集が趣味なんだったら商人を探すかと思ったが……吝嗇家だとしたら、また別の方法で手に入れた可能性も考えなきゃいけない。金を払わずに手に入れたと考えた方が正しいだろうな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ