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4-2 首都の役人

 ギルドが撤退する。つまり、この街からギルドがなくなるってこと。ぬいぐるみの俺はともかくとして、リゼはかなり驚いた表情をしていたのだろう。俺も内心では驚いているし。そんな俺達の様子を見てガルドスは気にするなとでも言う風に笑い飛ばす。


「別にいいじゃねえか! お前たちはもともとは別の土地から来た旅人だろ? ここからギルドがなくなれば、別のギルドがある街に移ってそこで稼げばいい」

「いえ、そうは言いますけれど」


 たしかに俺達は旅を目的としているし、ここにとどまって狼を狩っているのも路銀を稼ぐためだ。けれどギルドが街から消えるって大事な気がするのに、この人はなんで気楽そうなんだろう。


「まず、どうしてそんなことになったんですか?」

 こういう時に冷静でい続けてくれるカイは本当に偉いし頼りになる。ガルドスはそういえばそれを話すのが先だったと説明を始めてくれた。



 領主だったあの男は、ギルドの設立によって領内の財政が良くなることを期待して誘致を行った。

 ギルドが設置されるかどうかは、その地域に十分な人口があって依頼が一定数確保できるかどうかが判断基準のひとつとなっている。極端な例を言えば、山奥などのあまりに人里離れた小規模な集落には設置しても採算があまりにも悪すぎるから置かないということだ。国がやってる公共事業ではあるが、だからこそあまりにも赤字がかさむ場所にギルドばかり作ると国庫が傾くというわけだ。

 そしてギルドが置かれるか置かれないかの人口規模の境目は曖昧だし他の要素もあるから決まっているわけではないが、人が多いに越したことはない。


 元領主のあいつはどうやら、領内の人口をごまかして国に報告してたらしい。今回の調査で屋敷から改ざんの証拠が見つかった。そして、人口が多いということにしてギルドが設置されやすくした。


 あいつギルド設置の前から悪いことしてたんだな。いやあんなことする奴だし、数字の改ざんぐらい普通にやりそうなものか。


「そういうわけで、この街にギルドはそもそも存在するはずじゃなかったらしい。でもまあ置かれたものは仕方ないし、置かれてからはちゃんと住民の依頼が来てそれを解決していった。冒険者もそれなりに集まった。機能はしていたんだ。……だが今回村がひとつなくなって、領内の人口も冒険者の数もかなり減った。それでも少ないなりに仕事はできているが、やはり経営としては厳しい状況だ。しかもギルドで儲けたいがためにオークを放って村ひとつ滅ぼすなんてことが起こったら、国もこのギルドのことを考えなきゃならなくなる」



 元をたどれば全部あの元領主のせいというのは置いておいて、ギルドが撤退するべしという理由はひとつではないのだろう。そして、それらは俺達にはどうすることもできないことだ。国がどんな判断を出すかの沙汰を待つしかない。


「一応新しい領主様や俺からも働きかけてはいるんだが、いかんせん厳しいな。……まあなんだ。さっきも言ったようにお前達は旅人だ。いざとなればなんとかなるだろう。あまり気にすることはない」

「そうは言っても、ここにはこの領で生まれ育った冒険者もいるでしょう」

「ああ。俺もそのひとりだしな!」

「それは…………ガルドスさんがこの街出身だったとは知りませんでしたけれど」

 若い頃、元領主の妻になる女に惚れていたって噂だし、ここの出身というのは本当なんだろう。


 それはそうとして、割と深刻な状況だろうに彼は余裕そうだった。彼の性格によるものだけとは思えない。



「そういうわけで、できればギルドはこの街に残したい。そのためにお前達に協力してほしいことがある。依頼を受けてほしい」


 これが本題か。打開策があるからこんなに余裕。依頼があるから、わざわざ俺達にこんなことを話した。


 断りづらくするためかもしれないが、そういうことなら協力するしかないな。


「任せてください! このギルドのためです! できることならなんでもやりますよ!」

 ほら、やっぱりこのバカも乗せられてしまった。リゼ以外も依頼というなら受けるということで意見は一致しているようだ。それを見てガルドスも満足げに頷いた。


「ではお前達に頼もう。実は、依頼主は国の人間だ。国から依頼が来ている間はギルドは無くならないし、国に貢献したという実績もできる。というわけだ。入ってくれ」

 最後は俺達にではなく、部屋の扉の向こう側にいる誰かへの呼びかけだった。あいよーと、少々覇気のない返事と共に扉が開いて人が入ってくる。


 二十代前半ぐらいの女。国から役人たちがやってきた中にこんな人もいたかもしれないな、程度の見覚えはある。都市で生きている役人なだけあって、小奇麗な服装をしていた。長い髪はよく整えられていてきれいだ。ボリュームのある胸元にも自然に目が行ってしまうのは許してほしい。


「お前らが冒険者たちか。若いが頼もしそうでなによりだ。あたしはシュリーナ・ヤラフニル……シュリーって呼んでくれ。学術院に務める学者だ。専門は歴史学。よろしくな!」


 一通りの挨拶をしながらカイに手を差し出す。多分俺達の中で一番年上で頼りがいがありそうだからリーダーだと判断されたのだろう。他がギルドの年齢制限ギリギリぐらいの子供と、もうひとりはリゼだからな。正しい判断だ。


「どうやら学者先生には気に入られたようだな。よし、詳しい話はこの人から直接聞いてくれ。頼んだぞ」

 挨拶に応じるカイとシェリーを見つめながらガルドスが言う。




 シェリーは酒でも飲みながら話そうと提案してきたため、さっき夕食を食べた酒場に戻る。その途中リゼに、シュリーの自己紹介に出てきた学術院とはなにかと尋ねた。



 首都に設立されている、国内の教育機関と学問の追究に関する仕事をする役所のことだという。国家の発展の推進剤となる知の追究のため、多くの分野に渡る研究を行っている。多分、シュリーは研究を行う機関に勤める学者だろうというのがリゼの推測。


 学術院のような役所は他に、都市圏における犯罪や地方の支配者の犯罪を取り締まる治安院や裁判所関係の仕事をする司法院などが、いろいろ首都に存在する。

 さすが首都育ち。よく知ってる。


 俺の世界で言う省庁にあたる存在なんだろうなと理解した。


「領主の起こした犯罪だから、ここに来るお役人さんは治安院の人のはずなんだよね。実際、ほとんどがそうで後は司法院が何人か。でもなんで学者さんが来たんだろうね」

 そこはリゼにとっても疑問なようだ。仕方がない、ここからはシュリーからの説明を聞くしかないな。

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