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1-4 魔法のこと

 焚き火をふたり座って並んで眺めながら、リゼの話しに耳を傾ける。魔法について話してくれと言ったところ、リゼは少しためらう様子を見せた。


「魔法ね。うん。話さないといけないよね。話すよ。話すってば」


 そんな調子でしばらく逡巡してから、だいぶ歯切れが悪い様子で話し始めた。それを要約すればこうだ。



 魔法と聞いて、俺の世界でイメージされるそのままの力が、この世界にはある。

 何もないところに水を出して風を吹かせて電気を纏わせる。怪我や病気を癒やしてあるいは敵を傷つけ殺す。それから、今みたいに焚き火のための火を起こす。

 大規模な物になると世界の行く末を占うとか天候を操ったりもできるらしいけど、そんなことができる大魔術師は現在はいないらしい。


 そういった不可思議な力の総称が魔法。そして力を使える人間を魔法使いという。その魔法使いが女なら魔女と言っても良い。意味は同じだ。



 誰でも使える力じゃない。むしろ使える人間は、この世界でも少数派。だからこそ魔法使いは人々から尊敬を受けるし、その力を必要とされる機会も多い。


 この力は親から子へと受け継がれるものだという。つまり、魔法使いを親に持つ子供は魔法使いの力を持っている。

 となれば当然、かつて魔法により偉業を成し遂げた者が起源で、その子孫たちも代々優秀な魔法使いを排出している家系。いわゆる名門と呼ばれるものも存在する。



「わたしの家みたいにね!」


 と、リゼがない胸を張る。


 自分が魔法使いの名門の家系というのが自慢なのか。さっきは、家なんてないとか言ってたくせに。


「名門の生まれなのか? それにしては魔法を使うのが……なんというか下手にしか見えないが」

「うぐっ…………い、今は未熟でもいつかはすごい魔女になるんだから! なによ! 信じてないの!? ちゃんと魔法学校にも入れたんだから!」

「わかったわかった。じゃあそこの辺りも教えてくれ。お前の家のこととか含めて」



 リーゼロッテ・クンツェンドルフ。それがリゼのフルネーム。古くから伝わるクンツェンドルフ家の現当主は、リゼの祖父だという。リゼの父親は当主の嫡男で、すなわち次期当主。この父親には仲睦まじい奥さんとの間に、リゼ含めて五人の子供がいる。

 上から、リゼの兄、姉、リゼ、妹、弟の順番だそうだ。両親ともに優秀な魔法使いで、だから子どもたちの全員がその才を受け継いだ優秀な魔法使いの卵である。



「全員が」

「なによ! わたしだって優秀になるはずなんだから! お兄ちゃんは既に首席で卒業して王様のお城で働いてるんだから! お姉ちゃんも来年卒業だけど、首席は間違いなしって言われてるし。妹達も……うぐぐ…………」

「どうしたんだ?」

「い、妹は。とびきり優秀で、飛び級して、魔法学校の規定年齢より下なのに特別に入学させてもらえた。今二年生…………弟はそれ以上にすごいみたいだから、やっぱり飛び級しそう。ぐぬぬ…………」

「きょうだいみんな優秀っていうのは本当なんだな。リゼは?」

「わ、わたしは…………飛び級とかできなくて…………規定年齢に達したから入学できた…………つい数日前のことよ」

「ああ。つまりリゼ、妹の後輩になったんだ」

「ぬああああああ!! それを言わないで!」


 たしかにそれは辛いと思う。


 ちなみに規定年齢というのは、魔法学校は基本的に十六歳以上でなければ入学資格を得られないということらしい。この世界には魔法学校はいくつかあるけど、そこは共通しているそうな。ただしとびきり優秀な成績だったり、あとは名門の家のコネとかで例外が発生するのは時々ある。


 つまりリゼは今十六歳。なんとなく俺と歳は近いかと思ってたけど、同い年だった。



 小さい頃から、リゼだけが魔法の才能に恵まれていなかった。勉強はしていたから知識だけなら人並みにはあるけれど、実践がどうしてもうまくいかない。

 魔力が弱い。ゼロではない程度。体質的な問題らしい。後から努力して補うにも限界があり、自分ではどうしようもできない現実にリゼは直面し続けてきた。



 魔法学校だって年齢に達すれば誰でも入れるわけじゃなく、試験をクリアしなければならない。希望の学校に入れない者もいるし、入るために余分に一年間勉強と鍛錬に励む者もいる。

 そこは俺の世界でも似たようなことは聞く話だ。そしてリゼには明らかに、魔法学校に入れるほどの資質はなかった。


 特にリゼの国でも最高峰の名門校とされている魔法学校、王立イエガン魔法学園に入るなんて不可能だ。



「まあ入れたんだけど」

「どうやってだ……実は優秀だからってのは無しだからな」

「む……えっと、筆記試験については普通にできたよ? 満点を取ったと言っても過言ではないね。…………まあ満点は言い過ぎかもしれないけど結構取ってたかな。うん、悪くない点数だと思う。平均点は超えてるはず。もし平均以下だとしても実技で挽回できれば…………」

「大丈夫かどんどん下がってるぞ。それに、実際魔法が出来なきゃ意味ないだろ? 筆記試験は、ってことは実技もあるみたいだし。それはどうやったんだ?」

「できる魔法もあるんだよねー。ちょっと見ててよ」


 自信満々といった様子で、リゼは鞄の中からなにかを取り出した。見ればカードらしい厚手の紙の束。そのうちの一枚を手のひらに乗せて俺に見せる。


「コータは知らないよね。ルカスナカードっていって、29枚一組で占いとかに使うの」

「似たようなものは俺の世界にもある。タロットカードっていうけど……それで占いでもするのか?」

「違う違う。よく見ててね。この"大将軍"のカードが……」


 リゼは手のひらではさむように、武装して馬に乗った男が描かれているカードを持つ。焚き火に照らされている中でリゼは詠唱を口にする。


「大将軍よ。我が手から……消えろ!」


 言いながら手を振る。するとたしかにカードが消えていた。


「どう? これがわたしの実力なのだよ」

「いや、それ手品だろ?」

「テジナ? なにそれ」

「あれ、わからない? マジック。奇術。仕掛けやトリックで現実ではありえないようなことを起こすのを見せてお客さんを楽しませるショー。……そのカード、袖とかに隠したんだろ?」

「なななななにを言ってるのかな? 奇術なんかじゃないよ? 魔法だよ?」

「怪しい。というか、別に俺にインチキがバレてもいいだろ? もう隠し事はするな」

「むー。そういうことなら仕方ない」


 リゼはローブの袖からさっきの大将軍を取り出した。やっぱり手品じゃないか。手先が器用なことは認めるけれど。

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