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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第12章 未熟者と半魚人

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12-31 落ち着き

 まあいいさ。ギルドなり街の首脳陣がそうやって結論を出したのだろう。

 少人数で行くなんて方針に不安を感じないわけではないけど、別に反対するわけでもない。それより、多少なりとも時間が伸びたのは良い事だ。


「カイ。お願いがある。ナタリアに改めて剣術を教えてやってくれ。今度はもっと実践的なのを」

「いいのか? ていうか、討伐に連れて行く気か?」

「そうだ。あいつは、精神面ではかなり成長しているはず。もちろんまだ改善の余地はあるだろうけど」

「…………わかった。でも、もし戦いの場でまた錯乱したら」

「その時は俺がまた眠らせる」


 そうならないよう祈るしかないけど。カイはとりあえず同意してくれた。


 俺達のこの会話を、一緒に食事をしていたナタリアは黙って聞いていた。

 カイがナタリアの精神面を信頼していなかったり、いざというときは眠らせるなんてやりとりをしてたわけだけど、彼女は特に口を挟まなかった。

 ただ、指導をしてくれるカイに簡潔にお礼を言っただけ。間違いなく、落ち着きはできつつある。


 むしろリゼの方が、ナタリアがいつ爆発するか気が気でないって感じだな。というか微かに震えてるし。


 とにかく、ナタリアが本当に落ち着きを得ているのかは確かめる必要があるよな。


「それでコータ。剣術の練習はいつからやればいい? 今日の昼からか?」

「いや、明日からがいい。今日はまた別の事をする」

「こ、コータ。まさか、今日一日ずっと走り込みをしろってことじゃないよね…………」


 なんでリゼが気後れ気味の口調なんだ。付き合わされるからなんだけど。

 けど、残念ながら違った。



「サハギンの死体を見に行こう」

「あー。昨日は見れなかったもんねー。生きてるサハギンは見れたけど」


 なんか納得という感じのリゼの言い方。いや。リゼがサハギンを見ようが見まいが、それはどうでもいい。問題はナタリアだ。


「ナタリア。死体だけど、サハギンを前にする覚悟はあるか?」

「あ…………ある。ある、はず……」

「よし。じゃあ行こうか」

「ちょっと待ってコータ! なんか自信なさそうなんだけど!」

「大丈夫だ。自信ある風に言い切られるよりはな」


 自信がないってことは、用心するってこと。これまでのナタリアなら、蛮勇に任せて突き進むみたいな選択をしてたはず。

 これも成長だ。



 昨日の討伐作戦で討たれたサハギンは、いくつかは都市中央の城に持っていかれたそうだ。

 城主様が見るのかな。この都市の最大権力者である男まで、サハギン対策に関わる可能性もあるんだよな。

 まあ、そうなった方がやりやすいのかもしれないけど。事態の深刻さは危機的ってことになってしまうのと、どっちが良いかは考えものだな。


 それはそうとして、大部分のサハギンの死体はこの港に残されている。頼めば見せてくれるだろう。


「うへー。なにこの生臭い臭い嫌い……」


 リゼがものすごく嫌そうな表情と共に言った。確かにすごい臭いだ。

 ここはギルドの裏手の広場。一昨日、ナタリアと最初にトレーニングした場所でもある。公共施設で大量の死体を置ける場所がここしかなかったらしい。


 大量のサハギンが山と積まれている。数は一応数えたらしいけど、その他の処置は特に何もしてないらしい。

 研究のために解剖するなんてのは、城の方に持ってかれた数体だけで十分。こいつは腐り切る前に地面に埋められるか、海に捨てられるかするのだろう。


 とはいえ暖かい季節だ。襲撃から丸一日が経とうとしているのもある。サハギンの死体は既に腐敗を始めていたし、蝿もたかっていた。

 元々魚人と呼ばれるだけあって、生臭い臭いを発する生き物だ。それと腐臭が合わさって、なかなか近付くのをためらう臭いになっている。


「ど、どうですかナタリアさん。サハギン見たいですか? もっと近くに行きますか?」


 死体の山を遠巻きに見ながら、リゼが全く気乗りしない雰囲気で尋ねる。その問いを聞いているのかいないのか、ナタリアは一歩死体の方に近付いた。


「うー。わたしはここから見てるだけでいい?」

「だめ。何かあったら止めないといけないから」

「コータのばか……」


 不平を漏らしながらも、リゼはナタリアの方へついていった。


 ナタリアの腰には剣がさしてある。ナイフからは使い魔であるシャーダも顔を覗かせている。ついカッとなって、死体に攻撃を加える事は容易だ。

 けれど。


「サハギンの姿、ようやく近くで落ち着いて見られた」

「ああ。そうだな」

「そうだね。落ち着いてるね」


 ナタリアはそんなつもりで言ったのではないだろうけど、リゼは『落ち着いて』という言葉にものすごく安堵してるらしい。

 俺もそれは同じだ。彼女は激高する様子も見せなかった。


「クーガンさんの本で、姿は知ってるはず……それに、実際に現物も一度見てるはずだ。あの時は錯乱してて、よく覚えてないけど。そっか。サハギンってこういう生き物なんだ」


 穏やかな口調で言いながら、ナタリアは死体に顔を近づける。たぶんすごい腐臭だろうけど、気にする様子もない。


「こいつを殺したいって気持ちは、絶対に変わらない。だけど今は、そのためにやるべき事をしっかりやらなきゃいけない。そうだよね?」

「ああ。そうだな。その通りだ」

「わかった。明日からもよろしくお願いします」


 立ち上がってこっちに向き直り、ナタリアは丁寧に頭を下げてお願いした。わかった。いいだろう。ナタリアをそれなりの……いや、立派な戦士に育て上げよう。





「えっと。シャーダってさ。得意な種類の魔法とかあるの?」


 翌日。リゼの問いかけに、サメの使い魔は空に向けて火球を放った。教えてもらったこれが得意ってことなのかな。


 ナタリアはカイが指導していて、その間俺達は暇だから使い魔の方を鍛えることに。

 当初の目的そのままだな。おもいっきりデジャヴだ。


 ふと思った。水辺では炎系の魔法は不便ではないかと。俺の爆発魔法くらい威力があれば別だけど、濡れてる相手に炎をぶつけてもそんなに威力はでないかもしれない。


 だから別の魔法を教えることも検討したけど、シャーダは嬉しそうにファイヤーボールを投げ続けてる。表情は変わらないけど、尾ビレをブンブン振ってるからそうなんだろう。


「ファイヤーボールは基本だから、覚えやすいんだよね。それに他の魔法を習得するのも時間がかかるかもだし」

「そうなのか?」

「なんとなくやり方を教えたら何でもできちゃうような、コータの方がおかしいんだよ?」


 そんなものなのか。

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