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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第12章 未熟者と半魚人

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12-26 各個撃破

 海を見れば、一昨日も目にした水しぶき。サハギンがイルカに乗って急接近しているわけだ。


 周りの兵士は武器を槍から弓に持ち替えて、迫り来るサハギンに向けて曲射で斉射する。そうだよな。それが正しい弓の戦術だ。ひとりだけ曲射して当てる奴とかがいたら驚くしかない。

 弓を使う冒険者もそれに倣う。ふと、狙撃兵みたいに高所に陣取っているフィアナの方を見上げると、相変わらず狙い撃ちして向かってくるサハギンを一匹討ち取っていた。

 相変わらず異次元の腕前だ。


「コータ、ここは兵士達に任せよう。俺達は街の方に」


 と、カイが戦況を見ながら提案してきた。


「お? まあここは大丈夫そうだけど、なんでだ」

「街の中に潜り込んで、人を襲う機会を伺ってるサハギンがいるはずだ。探査魔法で探してくれ」

「わかった。リゼ行くぞ」

「いいよー。あはは」


 隠れてる敵を一体ずつ仕留めていくなら、乱戦よりもずっと楽。あと俺は探査魔法をするのが主だから、サハギンと戦うのはカイ達だ。

 より楽な仕事だと直感したリゼは、いつも以上のテンションでカイについていく。


 楽な仕事を目ざとく見つける天才というよりは、昨日のハードトレーニングが嫌すぎて、その反動だろうな。

 まあ、俺の言う通りに動いてくれるなら良しとしてやる。


 探査魔法で近くを見る。さっそく、近くの建物の陰にいるのを発見した。何をしてるかはよくわからないけど、たぶん建物の扉を壊して押し入るつもりだろう。

 ユーリの背にカイやリゼと乗り込んで、あと途中でフィアナも拾った。そしてそのサハギンの居場所へ向かう。


 俺達が到着したのと、サハギンが扉を壊し終えたのはほぼ同時だった。

 屋内に入り込もうとしていたらしいサハギンの頭部をフィアナの矢が貫く。


「コータ。次は?」

「ギルドの方へ走ってくれ。その途中に何体かいる」


 俺の指示と同時に、ユーリはすかさず走っていった。


 確かに楽な仕事だ。敵を探して殺す。上陸した時は集団行動をしていたサハギンも、その後は群れることなく個別に動いているようだ。

 理由はよくわからない。けど、放置していい物でもない。見つけ次第順番に殺していく。敵は一体でこっちは複数人。負けることなんてなかった。


「コータ。次は?」

「東の方に数体」


 少し内陸部位置する、住宅地のような場所に入っていく。

 貧民街ってわけでもないけれど、栄えている港に比べると建物の作りは貧弱。


 そんな所にまでサハギンは入り込んでいた。まるで、広範囲で悪さをすることが目的だというような動きだ。

 そして密かに散らばった割には、そこから先は派手に動くのみ。建物の窓なり扉を攻撃して中に押し入る。そして人を襲う。

 直前まで戦略的な動きをしていたのだから、なにか企んでいる気がしてならないのだけど。そういうわけではないらしい。


「ここ、グーガンさんが住んでいる住宅地です……」


 フィアナが心配そうにつぶやいた。確かにそれは気がかりだ。

 建物の作りが比較的貧弱だから、襲われればすぐに戸は壊れてしまう。サハギンの攻撃を受けやすいって事だ。


 事実、この場所に来てから二体ほどサハギンを殺したが、いずれも家に押し入られていた状態だった。

 住民の必死の抵抗によって多少の怪我だけで済んでいたようだけど、もしこれが足腰の弱い老人なら。


 そして往々にして、想定される悪い事態ってのは起こるもので。

 探査魔法には、見知った人物の居場所にサハギンが押しかけようとしている所が映って。


「急いでくれ! 向こうの通りの家だ!」


 俺の切迫した口調になにかを悟ったのか、ユーリはこれまで以上に速度を出す。その家に近付くにつれ、フィアナは悲鳴をあげた。


 クーガンの家の戸を、まさにサハギンが破壊した所だった。老人の悲鳴が建物の中から聞こえる。


「エクスプロージョン!」


 探査魔法を止め、扉付近に爆発を起こす。建物自体にはあまり被害がでない位置に調整。道路の石畳が派手に砕けたけど、それは許容してくれ。


 中に入ろうとしていたサハギンが一瞬足を止め、爆発の方を振り返る。その隙にフィアナがユーリから降りて扉の前に。サハギンの姿を視認するや、弓を射かけて殺す。


「クーガンさん!」


 そう声をかけながら家に入っていくフィアナに俺達も続く。


 彼は無事だった。襲われてもいなかった。

 けれど家に押し入ろうとするサハギンに対して、必死に戸を押さえて抵抗をしていたらしい。

 そして戸が壊れた際に突き飛ばされたか腰を抜かしたかして、床に倒れてしまった。その時に腰をしたたかに打ち付けてしまったらしい。


 足腰の弱い老人なりに怪物に抵抗した結果だ。名誉の負傷と言ってやるべきなのかも。


「コータ、治癒魔法をかけてやってくれ。俺は外を警戒する。近くにサハギンはいそうか?」

「いや、このあたりだとさっきのが最後らしい」

「わかった」


 それでも一応と外に出たカイを横目に、俺はクーガンに対して治癒魔法をかける。今受けた腰の痛みは回復するだろうか。けれど元々悪かったものにまでは、効果はないと思う。


「大丈夫ですか? 痛みは引きましたか?」

「あ、ああ。大丈夫じゃ……死ぬかと思ったわい……」

「生きていて何よりです。立てますか? 近くにはサハギンはいないらしいですけれど、今はわたし達と一緒にいましょう」


 リゼも真剣な表情で、この老人に接している。


「みんな。このあたりはもう大丈夫だ。これ以上の混乱も起こってない。次に行こう」


 外の様子を見てきたカイが戻ってきた。とりあえず、この老人の安全は確保されたってことだな。もちろん隠れているサハギンが移動して来るとか、更に大量に攻めてきて再びこっちに来るとかも想定されるけど。


「どうしますか? このままクーガンさんと一緒にいますか?」

「いるべきだよー。ていうか、放っておけない」


 普通に考えれば、俺達は移動して他のサハギンを倒しに行くべき。クーガンはその際に足手まといになりかねないから、ここにいてもらうべき。

 でも放っておくのも悪い気がするし。リゼはさっきの自分の主張を曲げなかった。


「コータ。港の方を見てくれ」

「え? ああ…………静かになってるな」

「サハギンは?」

「いない。もう来てない」


 カイに言われて探査魔法で、さっき戦闘が行われていた箇所を見る。

 サハギンの姿は消えていて、街から遠ざかる方向へ泳いでいるイルカの姿はだけ確認できた。

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