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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第12章 未熟者と半魚人

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12-15 知性ある怪物

 その飛沫は急速にこちらに近付いている様子だ。それを立てている何かは海中にいるらしく姿は見えない。けれど簡単に予想できた。


「ねえコータ。イルカって生き物は、泳ぐときあんなに騒がしいの?」

「いや。もっと静かだったはず。でも上にバケモノを乗せてたら別だろうな」

「そっか……」


 流線型の体型のイルカに人形の物体が乗っていて、それでも全速力で泳ぐとなれば静かにはいかないだろう。

 サハギンも実際のところ上半身だけは魚で流線型ではあるけれど、イルカに乗っている間の水の抵抗は馬鹿にならない気がする。だからあんなに波が立つ。

 ということは、その間もイルカに掴まってられる腕力があるってことか。


「フィアナ。この距離から射れるか? サハギンかイルカ、どっちかに当たればいい」

「飛距離が問題ですね……あそこまでは、まっすぐは矢が届きません」


 そう言いながら、彼女は斜め上向きに矢を放った。そうする事で飛距離は伸ばせる。

 曲射と呼ばれるそのやり方は、弓兵ひとりだけでやっても意味はない。狙いがつけ辛いため、大量の弓使いを用意して斉射することで敵に当たりやすくなる。


 高速で動く的だし、足場は全力で航行する船というわけで絶えず不規則に揺れている。

 向こうからしても、上から落ちてくる矢を視認して回避するのは不可能ではなさそうだし。だから当てるのも困難。


 いかにフィアナとはいえ、狙って射ても当たらなかった。四本目に放った矢が、ようやく敵の一体を貫いたようだけど。


「何回か射たら当たるのか……。すごいじゃないか」

「でも、これでは全滅させる前にこっちに来てしまいます。それに……敵の動きが変わりました」


 その言葉に困惑しつつ、探査魔法を使う。たしかに、どちらかと言えば密集した陣形を取っていたサハギンとイルカが散開したように見える。

 しかも矢に当たらないようにするためか、不規則にジグザグに動いているらしい。


「ちょっと待て。おかしくないか? サハギンって奴はそんなに頭がいい怪物なのか?」


 違和感を覚えて、オロゾやクーガンの方を見ながら尋ねる。ふたりとも難しい顔をして黙り込んでしまった。

 つまり、このふたりの常識とは外れた行動ってことだ。


 仲間が矢に射られた事を把握して対策を取る。

 いやそれ以前に、探査魔法でしか見えない距離にいた相手に向って接近するとか、イルカに乗って高速移動するとか。明らかに野生の動物の持つ知性を超えている。

 それよりは、誰か指揮をしている者がいると考えた方がいいだろうか。けれどそんな人物の姿は見当たらない。つまり。


「つまり奴らは、予め教育を受けている……? どんな時にどう対処すべきなのか、誰かが教えているってことか?」

「誰かって、誰に?」

「わからないけど、悪意を持った誰かだ」

「えーっと。サハギンって生き物なんだよね? それを思った通りに調教できるってことは」


 リゼが海を睨みながら、心当たりがあるという風に口にする。そうだな。俺も同じ事考えていた。

 つい最近、狼とかゴブリンとか、果ては巨大なタコやイカでさえも意のままに動かす奴がいたわけで。

 タコとかイカに比べれば、ある程度人の形をしている怪物なら容易に調教できそうな気がする。


「考えるのは後だ。来るぞ!」


 カイに言われて、再度戦闘の構えに戻る。サハギンの群れはかなり接近している。

 ここまで近付けば曲射なんてしなくても当てられると、フィアナが狙いをつけて矢を放つ。見事に、水しぶきをあげている何かに命中したらしい。

 そして他のサハギンはそれを見て、今度は海中に潜行した。そうされては、さすがに弓は届かない。


 いや、これは弓への対処というよりは、最初からこういう動きをするつもりだったのかも。

 サハギンにとっての獲物は船で、それは海中には潜れない。下からの攻撃に対処もし辛い。だからそこから攻めるという。


「みんな! 何かに掴まってろ!」


 そう警告しながら、サハギンがいると思しき位置に見当をつけて爆発魔法を唱える。


 船のすぐ近くで水柱が上がった。ちゃんと船体には当たらないようにしたけれど、波で船が揺れるのは許してほしい。

 サハギンどもに直撃したわけではなさそうだ。けど、爆発に巻き込まれているのは確か。


 それからサハギンはそれなりに頑丈でも、イルカの方はそうはいかなかったらしい。

 爆発に驚き気絶したイルカが、何頭か水面に浮かび上がって来た。俺の世界ではかわいい海の動物代表みたいな扱いのイルカだから申し訳ないけど、仕方がない。


 さてサハギンはどこだ? 周りを見回したその瞬間、船がガタンと揺れた。航行速度も大きく下がった。


「取りつかれたな……乗り込まれるぞ!」


 カイの警告に、みんな身構える。その言葉通り、船の右舷のへりに緑色の何かが見えた。

 それが、船体を掴んでいる手だというのはすぐにわかった。ただし普通の人間の手ではない。ひと目でわかるように緑色で、指の間には黄色いヒレがついていて、全体的に鱗に覆われている。


 わかりやすく半魚人の手だ。


「ファイヤーアロー!」


 その手が自身の体を持ち上げ船に乗り込む前に阻止する。船体に当たらないよう注意しつつ、手に複数の炎の矢を刺す。

 もちろん、こうやって乗り込んで来ようとする敵は一体だけではない。


「コータ! こっちにも! あとそこにも!」

「わかってる! 騒ぐな!」


 俺の体を抱きしめながら、船のあちこちを見渡してリゼが叫ぶ。気持ちはわかるが落ち着いてほしい。サハギンに対処してるのは俺だけじゃないし。


 カイは乗り込もうとして身を晒したサハギンの脳天に容赦なく剣を振り下ろして、一撃で仕留めていた。

 ユーリも似たようなもの。さすがに船上で狼になるのは避けているらしいけど、フィアナから借りたらしいナイフを振るってサハギンを討ち倒し、海に突き飛ばして戻していた。

 それからフィアナは、ユーリの後ろに隠れるようにしながら弓で敵を確実に射抜いている。普通に射れば、たとえ大きく揺れる船の上でも外す腕前じゃない。


 船の上でのこの手の戦いは、みんなあまり経験はないはず。先日のクラーケンとの戦いは、少し種類が違ったし。

 それでもこっちの船の人員は、みんな冷静に対処しておりサハギンの接近を許さなかった。


 そう、こっちの船は大丈夫。問題はもう一隻だ。

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