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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第12章 未熟者と半魚人

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12-9 寂しい老後

 とにかく、話はできそうな人で良かった。というより、予想通り話したがりのようだし。

 その気持ちが強すぎて、ちょっと大変そうだけど。


「あ痛たたた……こ、腰が……」

「だ、大丈夫ですか!?」


 そういえば、さっきドタバタと音がしていた。たぶん、本を読んだという呼びかけが嬉しすぎて、慌てて玄関まで走ってきたのだろう。歳も考えずにだ。

 結果として、元々悪かったらしい腰に重篤な負担がかかってしまった。


 ユーリとふたりで支えながら、寝室のベッドに腰掛けさせる。それから腰に効くと言われる薬膳茶を淹れてくれと頼まれた。

 まさか初めて伺ったお家でお茶を淹れる事になるとは思わなかったけど、こういう事情なら仕方がない。


 それから、この家の事がなんとなくわかった。この老人のためにお茶を出す人間は、この家にはいない。つまり一人暮らし。

 狭い台所にはひとり分の食器や、そう多くない食料。普段から来客が多いというわけでもなさそう。


 引退して寂しく暮らす老人に、久々に客人が来た。そんなことだろうな。現役時代はそれなりに尊敬を集める仕事をしていても、引退すればそんなものか。

 部屋の一角には、文字の勉強や執筆に使ったと思しき本や紙の束がいくつか置かれていた。暇にあかせて取り組んだと思われるそれが、今は少し寂しい物に思えた。


 でも、その孤独は振り払えるはず。


「どうぞ。初めて淹れたので、お口に合えばいいのですけど……」


 不安だったけど、その老人はおいしそうに飲んでくれた。薬膳茶がおいしいのかは別として、良かった。

 それで本題に入りたいのだけど。


「サハギンのこと、もっと知りたくて、伺いました」


 ユーリが切り出す。相手が話しやすい人間とわかれば、こっちの物という様子だ。相変わらずの表情の無さだけど、ユーリなりに愛想を振りまこうとしているらしいのはわかった。


「サハギンの縄張りについて、意見を聞きたいと、思いました」


 さっき図書館で語った推測を語る。

 サハギンはもしかすると、この街の沿岸部まで住み着いているのかもしれない。そして、再度この街の人が住む領域に侵攻してくるかもしれない。


 子供が語る憶測を、その老人は興味深そうに聞いていた。そして深く頷いた。


「そうか。そういう事も、あるかもしれんな。実はサハギンの数が増えているというのは、本当らしいのじゃ」

「そうなんですか?」

「そうじゃ。本で読んだから間違いない」


 本当に間違いないのかは不明だけど、推測の根拠にはなる。隣町では年々サハギンの襲撃が増えているという噂も聞いたと、老人は付け加えた。

 どちらも伝聞。自分で聞いた話ではない。だから、怪しいと言えば怪しい。でも危機を煽るという意味では、ナタリアの言おうとしてる事とは合致する。


「では、もうひとつお伝えしたいことが、あります。今から八年前の事なのですが」


 ユーリはナタリアの目撃談についても教えた。クーガンさんはやはり興味深そうに聴いている。


「なるほど。その話は知らんかった。しかし八年前か……」

「そのサハギンは、再びこの街を襲う時のため、偵察に来たと考えられないでしょうか。しかし、見つかったため、撤退した」

「考えられなくもない。じゃが、そう長い間、機を見るなどありえるじゃろうか……」

「そうですね。それは、確かに」


 仮説が否定されたというのに、ユーリは特に気落ちした様子を見せない。たぶん、ユーリも最初からそんな事は承知していたから。


「どちらにしても、サハギンが増えているらしいのは、変わりません。いずれこの街に、また現れるかもしれません」

「それはその通りじゃな。皆に警告せねばならん」

「はい。クーガンさんの言うことを全面的に信じてくれる人はいますか?」

「それがじゃな…………」


 老人の語った事は、事前に予測していた通り。労働者としては尊敬を集めていたが、引退後の研究者としては誰も言うことを聞いてくれない。

 だから、サハギンが再び現れるという主張をしたところで、誰が信用するだろうか。


「ナタリアは、きっと信頼してくれる、はずです。一度、サハギンを見た時の話、詳しく聞いてもらえますか」


 こうやって味方を集めていく。ユーリの真剣そうな口調に、その老人もしっかり頷いた。




――――――――――――――――――――



 シャーダはかれこれ数十発ほど、空に向かって火球を放っただろうか。

 その継続力は評価すべきだろうけど、いかんせんファイヤーボールとしての威力は弱い。やっぱり普通の使い魔はこんなものか。


「まあ、使い物にならなくはないよ? 人間とか狼相手なら、ひとりずつ相手にする場合とかなら普通に倒せそうかな?」

「そうか。でも普通、そういう相手って大量に出てくるよな」

「もー! コータってば! シャーダのやる気なくすような事言っちゃダメでしょ!」

「ぐえー」


 やめろ。苦しい。握るな。

 でも、それもそうである。あくまでこの使い魔は補助だ。主人であるナタリアがもっと頑張っていれば、それでいい。いや、頑張る必要もないのだけど。


「…………うん? どうしたシャーダ?」


 ようやくリゼの手から解放された俺を、シャーダがつついた。それから、もう一度空に向けて火球を放つ。


「あ、もしかしてコータのファイヤーボールが見たいんじゃないかな!」

「俺の?」

「そう! コータの全力! 主にわたしの魔力を使った奴! わたしがすごいから出せるファむぎゃー!」


 途中で自画自賛に変わってきたから黙らせた。まあ、シャーダの気持ちもわかるぞ。使い魔仲間だもんな。どんな実力なのか見たいのは当然だ。


 以前全力で火球を撃った結果、走っていた道が燃え落ちかけたなんて苦い思い出もあるけど、空に向けて撃つだけならいいだろう。


 日が暮れ始めている空に、巨大な火球が打ち上がる。直径数十メートルと考えれば、とんでもない大きさだ。

 撃った直後はこっちも熱を感じるほどの熱さ。


 シャーダはその様子をじっと見つめていた。表情の変化はよくわからないけど、俺に憧れを抱いているのかも。

 だとしたらちょっと恥ずかしいけど、嬉しくもあるな。


「あ。魔力がなくなりかけてるねー。補充してあげよっか」

「ああ。そうだな」


 魔法石の輝きが弱くなっている。俺がそれに触れると、それだけで輝きは戻っていった。


 シャーダはそれを見てから、尾びれを振りながらファイヤーボールの訓練を再開したのだった。

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