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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第12章 未熟者と半魚人

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12-7 サハギンの研究

 ユーリは少しの間、黙って地図を見つめていた。海の部分の、なにもない箇所だった。


「縄張りを広げようとして、失敗しても、サハギンには住処が必要なのは変わらない」

「じゃあサハギンは、やっぱりどこかに移り住んでるはずってことですか? どこでしょうか。本来の縄張りの西側っていうことですか?」

「かもしれない。けれど、きっとそっちも討伐をしようとするはずだから……」


 ユーリは、相変わらず地図を見ながら考えている様子。そこには何も描かれていないのに。


「コータは、前に討伐があった島だけを探査魔法で見た」

「はい。その島には何もいなかったと」

「他の島には?」

「えっと……たぶん、そこまで見てないと思います。わからないですけど」


 フィアナには、探査魔法がどんな風に見えるかは知らない。ユーリも同じ。だからはっきりと結論を出すことはできなかった。


「それに、探査魔法で見られる範囲の外にも島があるかも。もっと沖の方に。人が船で行かないような遠くに、見つかってない島があるかも」

「そんな島でも、泳ぎの得意なサハギンならたどり着ける?」


 ユーリはこくりと頷いた。全部推測だけど、そういう事もあるかもしれない。


「それで、ええっと。ユーリくんが言いたいのは」

「十年前に、サハギンが増えて、縄張りの拡張の必要があったなら、今も同じ。上陸したけど、討伐されてしまった島は避けて、そうじゃない島でどんどん増えていく」

「危険な場所を避けるほど、サハギンって賢いのでしょうか」

「それは、わからない」


 絵巻物に描かれた、半人半魚の怪物の絵を見つめる。

 魚って生き物に知性はあるのかな。それはわからないけれど、多少なりとも人間に近付いた姿に描かれたそれを見ると、頭の良さなんてものを感じたりもする。


「縄張りの考え方を持っているなら、基本的には縄張りは守るものです。野生の狼も同じ。あの島は人間の縄張りだと、なんらかの形で伝えあってきたのかもしれません」


 海の生き物に、同じことが言えるかはわからないけれど。でも獣なのは同じ。


 しかし奴らは、しばしば人間の領域に入ってくる。たとえ命の危険があったとしても。


「サハギンが縄張りを広げようとして、もう十年が経った。ううん。もっと前から広げようとしてたんだろうけど」

「この街に来たのが十年前ということですね」

「うん。たぶん、今もサハギンは、縄張りを広げようとしているはず」


 十年は長い。そして、その間もサハギンは増え続けているならば。


 狼は縄張りの考え方を持っている。でも一方で、他の縄張りを侵す事も多い。たとえそれが、人の領域でも。


「もしかして、ナタリアさんが見たサハギンは、見間違えじゃなかったのでは……」

「そこまではわからない。けど、サハギンが見えない所で増え続けて、ある日人間のいる島に押し寄せてくるのは、考えられる」

「ど、どうしましょうか。街の人に警告するべきでしょうか」

「どうかな…………」


 ユーリがためらう理由もわかる。言ったところで信じてもらえない。こちらは余所者なのだから。

 地元の人間であるナタリアの言うことさえ、信じてもらえてないのに。


「じゃあ、どうすればいいんですか?」

「信じてもらえないのは、証拠が無いから。全部、推測に過ぎないから。まずはこの推測が、合っているのか間違っているのか確かめたい」

「なるほど。でもどうやって」

「実際に怪しい島に行って、確かめるとか。それか…………」


 ユーリは棚から持ってきた、サハギンに関する本をいくつか見つめる。本には、それを記した作者の名前が書いてある。


「詳しい人に聞いてみよう。サハギンの生態とか、今の状況とか。よく知ってる人が、この街にもいるかも」


 例えば、こういう本を書いた人とか。


「でも、いるでしょうか」



 サハギンの研究をしている学者先生が、この街にいるかどうかはわからない。

 この街にサハギンはいない事になっているから、研究対象不在なわけで。研究者なら、相手のいる隣の街とかにいると思う。


 そうでなくても、学問っていうのは国の中心で行われるのが多い。例えば歴史学者のシュリーさんみたいに。学術院があるのも首都だし。


「本格的な研究者である必要は、ないと思う。ある程度詳しければ、それでいい。後は、少しくらいは周りから信頼されてる人」

「どういうことですか?」

「どこの街にもいる、趣味とか道楽で研究をする人。例えば地元に伝わる昔話を集めたりとか」

「そういう人っているんですか」

「うん。仕事を引退して暇になって、じゃあ研究でもしてみよっか、ってなった人」

「そういう人って、信頼されているのですか?」

「その仕事を長年勤め上げていた人だから、同業者からの信頼は、厚い。その業界に、まだ影響力があったりする」

「いえ、そうではなくて。研究の内容についてです」


 ユーリは、ちょっと困った顔を見せた。本当に微妙な表情の変化だけど、ちゃんと読み取れるのが密かな自慢。


「研究と言っても、素人の仕事。話半分で聞くしかない」

「駄目じゃないですか……」


 肝心な所で信頼がないなら、今しがた自分達がやったような、推測で物事を言うのと変わらない。


「そうだね。でも、会ってみる価値はあるかも。もしかしたら、研究分野でも成果をあげてる人もいるかも」


 そう言いながら、いくつかの本を並べてみつめる。


「よし、この人だ」

「えっと…………?」

「あんまり、学術的な事は書かれていない。著者の経験から、推測される事についての記述が多い。だから、著者の経歴なんかが、たくさん書かれてる。この街の人らしい」


 それから、巻物本の一番最後を見る。この本がどんな風にして図書館に置かれるようになったのか、記載されている可能性もある。


「ほらここ。この図書館に、寄贈された本。寄贈したのは、著者自身」

「つまり?」

「話を聞きに行ける。もう少し詳しく読んで、探しに行こう。寄贈された日も最近だから、多分まだこの街で生きている」


 なにしろ相手は引退した老人だろうから、何年も前の寄贈だと歳のために亡くなってる可能性もある。


「それは……いいですけれど。でも簡単に会えますか? 会って、詳しい話なんて聞けますか? いきなり知らない人が押しかけてくるのに」

「それは、大丈夫」


 なぜかユーリは自信満々という様子だった。


「相手は、暇人。だけど自分の研究を話したがっている。本を書いてまで、ね。そこに、孫みたいな年齢の子供が、話を聞きたいって言ってきたら」

「……喜んでお話するでしょうね、確かに」


 それは、フィアナにとっても反論の余地はなかった。

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