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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第12章 未熟者と半魚人

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12-4 十年前、八年前

 事件が起こったのは、今から十年ほど前のことだ。

 当時はこの店を、ナタリアの両親が経営していた。七歳だったナタリアは既に店の手伝いをしていて、小さな看板娘として評判だった。


 ある夜のこと、その日の営業も終わり、すっかり酔って出来上がってしまったお得意さんの男を、夫婦は気を利かせて家まで送ろうとした。

 ナタリアにお留守番お願いねと声をかけて、両親は家を出た。そして二度と戻ってこなかった。


 目撃者の話によると、海辺を店の方向に歩いていた夫婦は、海から飛び出してきた五匹程の魚の怪物の群れに一瞬で囲まれ、あっという間に棍棒で叩きのめされたという。

 そのままサハギンは犠牲者を海中に引きずり込み、いなくなったらしい。

 おそらく、酔客を家まで送った帰りの出来事なのだろう。


「当時は、サハギンという怪物の存在すら、この街の住民には知られておりませんでしたぞ。既に旅をしていた儂は、別の街で聞いた事がありましたが」


 オロゾがしみじみと語る。

 十年前は、彼はまだこの街には定着していなかったらしい。ロライザの元を去って長い間旅を続け、たまたまこの街に訪れていた、と。


 他の港町では、サハギンの被害が深刻化していた。オロゾも討伐に参加したことがある。

 その生体を街の人に説明をして、まだ数が少ない内に根絶すべきと言った所、賛同を得られた。


 住民の間にサハギンの存在こそ知られてなかったが、近付いた人間が行方をくらますといういわく付きの無人島の噂はあった。それがサハギンの住処。


 数日の内にサハギンの情報を集め、討伐隊を結成し、島に向かう。

 行方不明者が出る島とはいえ、それは少数の人間で行った時の話。武装して戦闘に備えた集団が行けば、当然危険は回避できる。


 島には数十匹のサハギンが生息していて、熾烈な戦いが始まった。

 原始的とはいえ武器を使い、集団で動くことを知っているサハギンは一筋縄で勝てる相手ではなく、討伐隊にも少なくない犠牲が出た。それでも勝てた。


 島のサハギンを駆逐して、次は連れ去られた人達を探す。これもすぐに見つかった。ただし、変わり果てた姿で。

 ナタリアの両親含めて、十数人の遺体が見つかった。前に行方不明になった人間もいた。

 その全部が、肉を食いちぎられて腐敗した姿だったという。



「それから十年、サハギンによる被害は出ていませんぞ。あの島に偶然流れ着いた群れが、繁殖しきる前に駆逐された。そういう事だと思われております」


 以上の事を、オロゾは可能な限り淡々と話した。少なくとも、そう努力はしていた。

 それは、さっきから黙って話を聞いているナタリアに配慮してのことかな。


 その後、ナタリアは叔父に引き取られて、変わらずこの店で働いている。そして立派に成長した。


 街の人間はいつしかサハギン騒ぎの事など忘れるようになった。

 もちろん大人達は覚えているだろうけど、昔のある年に起こった、短期間だけの騒ぎ。そんな扱いにすぎないらしい。


 とにかく、この街のサハギン騒ぎは十年前に解決した事。今、遺児であるナタリアが関わってどうなる事とも思えない。

 けどナタリアにとっては違うようだ。


「みんな信じてくれないけどね。サハギンには生き残りがいる。わたしは見たんだ」

「それは、どこで?」

「この街の港で。今から……八年くらい前。港をひとりで散歩していたわたしは、海面から姿を出す怪物の姿を見た。魚と人間が混ざった姿。間違いない」


 自信満々で言い切ったナタリア。俺達はといえば、顔を見合わせる。


「オロゾさん。この十年でサハギンによる被害は?」

「皆無ですぞ」

「ナタリアさんがサハギンを見たっていう後に、例の島への調査は?」

「一度、少数の人間が送られたそうですぞ。無事に戻ってきて、島には何もなかったと言っておりましたぞ」


 確認のためというようなカイの質問に、オロゾは即答をする。この手の質問が来るのはわかっていた。そんな雰囲気だ。


 ナタリアが見たっていうのもかなり昔の事だし、何かの見間違えと考えた方がずっとしっくり来る。

 実際、八年前にくだされた結論もそうだった。両親を失ったショックが拭いきれない少女の見た幻覚。かわいそうに。もう大丈夫だからね。周囲はそんな反応だったらしい。


 けど、ナタリアは未だに納得していない。

 あの島じゃないかもしれない。けどどこかに、街の近くにサハギンはいるはず。そう何年も思い続けてきた。

 この街に、それを信じる者はいないけど。


「というわけで、頼みがありますぞ。この子の復讐に付き合って欲しいのですぞ。報酬は出すし、知りたい事も教えますぞ」


 俺達は再び顔を見合わせた。どうしよう。たぶん、この依頼を引き受けたとしても、ナタリアに得られる事は何もなさそうだ、


 話を聞くに、ナタリアはサハギンなる生物を、例の目撃時以前に実物を見ていない。両親が死んだ時も討伐作戦の時も、他の場所にいたから。

 つまり八年前に目撃したというのも、それっぽい物という何かに過ぎない。サハギンに対する恨みが強いから、そう思い込んでるだけ。


 街の近くにサハギンは本当にいないのだろう。

 だから、ナタリアが今更復讐を果たすなんてできない。どんなに努力をしても、遅い。


 それでも彼女は真剣だった。あと、ロライザからの依頼もあるし。


「わかった。手伝います」


 カイが、少し迷いながらも頷いた。復讐を果たせないとしても、無意味じゃない。

 ナタリアをその島まで連れて行って、サハギンなんてもういないと見せる。そうすれば、それがナタリアにとっての区切りとなるだろう。


 なるほど。女の子をひとり救ってほしいか。オロゾの意図もそこにあるのだろうな。


 いいだろう。なんかいい感じに相手してやって、納得してもらおう。


「ほっほ。そう言ってくれると思ってましたぞ。ナタリア、この人達は信頼できますゆえ、しっかりと教えを受けるのですぞ」

「うん。わかったよオロゾ。みんな、よろしくお願いします」


 ようやく、ナタリアは笑顔を見せた。俺達全員より年上だけど、教えを乞う立場。どう接すればいいのかわかりかねて、はにかむように笑う。

 顔が赤いのは、お酒のせいかもしれないけれど。


「そうだ。この街の滞在中は、うちに泊まっていってよ。部屋ならいくらでもあいてるからさ」


 ナタリアは重ねて、そんな提案をした。宿を探す手間と宿代が省けるなら、拒む理由もない。

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