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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第12章 未熟者と半魚人

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12-3 半魚人の怪物

 この街には道具屋はたくさんあるだろう。魔法関係で絞っても、まだ多いはず。大都市だからな。

 それを一軒一軒調べていくってのは骨が折れる。どの道具屋なのかは、やはりオロゾから聞き出したい。


 しかし本人に話す意思がないのが、困ったところだ。

 それでもしばらく無言の時を続けていたら、彼も観念したように口を開いた。


「仕方ないですな。教えてあげてもいいですが、条件がありますぞ」

「条件?」

「この街に住む女の子をひとり、救ってほしいのですぞ」



 俺達パーティーメンバーに加えて、オロゾ達とで港を歩く。活気がある場所だな。

 そんな港の一角に、小さな酒場があった。酒を出す食堂とか居酒屋というよりは、バーって言ったほうが良さそうな店。まだ開店時間ではなさそうだけど、オロゾは遠慮なく入っていく。


「大将、お邪魔しますぞ」

「なんだ? まだ開いてないぞ……って、オロゾか。どうした。久々じゃないか」

「少し前に戻ってきましてな。またちょくちょく顔を出しますぞ」


 開店準備中だったのか、カウンターの向こうにはがっしりとした体格の男がいた。オロゾから大将と呼ばれたその男は、いかつい顔つきの人だけど、受け答えを見るに豪快な善人という感じだ。

 バーのマスターというよりは、大将って呼んだほうが確かに合いそうだ。


「ナタリアはいらっしゃいますかな?」

「おう。ナタリア! お客さんだ! オロゾが来てくれたぞ!」


 大将は店の奥に声をかける。なにか別の作業をしていたと思しき、若い女がバタバタと音を立てながら出てきた。


「オロゾ! 久しぶり!」

「お久しぶりですぞ、ナタリア」


 大将と同じく、快活そうな性格と見受けられるナタリアという女は、たぶんリゼより少し年上って感じの年齢。成人はしてなさそう。

 青みがかった長い髪をポニーテールにまとめている。口からは八重歯が覗いていた。


「シャーダは元気ですかな?」

「うん。元気だよ。出てきて」


 そう言うと、ナタリアはポケットからナイフを取り出してそれに声をかける。正確には、ナイフの柄にはめられている緑色の石にだ。

 魔法石。魔力を貯めて、何らかの効果を持つ道具として活用する動力源にできる石。


 ナイフの柄から、一匹の小さなサメが現れてこっちを向いた。

 そのサメは喋らず、しかし俺達に対して礼儀正しく頭を下げた。サメの動作だからよくわからないけど、たぶん挨拶なんだろうな。

 確信はないけど、見た感じそういう姿の使い魔なんだと思う。


「ほっほ。元気というのは本当らしいですな。でも、魔力も十分といったところですな。ですが、よりあった方がいいものですぞ」


 そう言って、オロゾはナイフに手をかざした。たぶん魔法石に魔力の補充をしているのだろう。魔法石の輝きが、さっきより強くなった様子だし。


「これでよし、と」

「ありがとう。まあ、少なくなればシャーダが自分で補充できるんだけどね」

「ほっほ。うまくやっているようで、なによりですぞ。それでナタリア、紹介したい者達がおりましてな。彼らから、冒険者としての心得を学ぶとよいですぞ」

「本当!? やった」

「おいこら。ちょっと待て」


 なんか話が勝手に進んでいってるけど。こっちにはさっぱりわからないぞ。というかナタリアって誰なんだ。


「ほっほっほ。皆さんに提案ですぞ。ナタリアに、冒険者として生きるための技術や知識を授けて貰えませんかな? そうすれば、例のインクを売った店について教えますぞ」

「冒険者として生きるため…………?」


 条件がある。この街の女の子をひとり、救ってほしい。さっきオロゾが言っていたことを思い出す。

 それがこれか。ナタリアというこの女を、冒険者として鍛える事で救う。


 なんとなく話はわかった。まだ知らなきゃいけない事は多いけど、方針は理解できた。

 でもいいのか。俺達、人に物を教えるのは得意じゃないぞ。先日のベルの件で明らかになった事だからな。


「えっと。オロゾさん。もう少し詳しく教えてもらっていいですか?」


 カイの方を見て判断を任せる。頼れるリーダーは、軽率に決断を下すようなことはしなかった。そうだな。情報収集は大事だ。


「ほっほ。そうでしょうそうでしょう。では、落ちついて話をしましょうか。大将、席を借りても?」

「おう。ついでに酒も飲むか?」

「いただきましょう」


 というわけで昼から酒盛りである。いいのか。いや、いいけど。



 ナタリアはこの街で生まれ育った娘。今年で十七歳になる。両親は、このバーの前の経営者だったそうだ。

 前の。そう、今はいない。故人だ。今の店主である大将は、ナタリアの父の弟で、つまりは叔父だ。


「両親はサハギンに殺された」


 エールを煽りながら、ナタリアは忌々しげに言った。どうでもいいけど、この人はこの後店で働くんだよな。飲酒していいのか。本人がいいって言ってるならいいのか。誰も疑問に思ってないし。

 いやそれよりも、今出てきた知らない言葉だ。サハギンってなんだ? 両親を殺したとか物騒な言葉が聞こえたけど。


「海辺に生息するという、怪物ですぞ」 

「怪物?」


 咄嗟に思い浮かんだのは、先日戦ったクラーケンだ。

 あいつみたいな奴と、再度関わるのは嫌だな。勝ったにしても死にかけたわけだし。


 ところが、そういうのとは少し違うらしい。


「上半身は魚。下半身は鱗の生えた人間。四肢を持ち武器を扱う知能を持ち、群れで動く。そんな怪物ですぞ」

「…………なるほど」


 よくわからない。半魚人みたいなものか?

 そして群れで動くということは、そういう種族なのだろう。オークとかの方が近いかな。


「そのサハギンを、ナタリアは当然恨んでるということか」


 恨んで当然だ。ナタリアがサハギンに関して語る態度を見るまでもないこと。

 で、そんなナタリアは冒険者としての心得を学びたい、か。なんとなくわかってきた。



 オロゾがもう少し詳しく説明をするに、この街の港から西にまっすぐ行った位置に、小さな無人島があるとのこと。そこは、サハギンの生息地だった。


 サハギンはそこから、時々海を渡って街までやってくる。そして人を襲う。

 このサハギンという生物、魚のくせに陸生生物の肉を好むらしい。ピラニアみたいな物かな。

 陸上で二足歩行するための骨格と足もあるし、どうやら呼吸も空気中でできるらしい。水中でも息が続くということは、奴らは肺呼吸とエラ呼吸の両方ができるということか。

 この世界の人間は、魚の呼吸法とかあんまり真剣に考えたことなさそうだけどな。


 半魚人だから泳ぎも得意。大洋を渡るみたいな事はしないだろうけど、遠くに視認できる島に向かって泳ぐぐらいは平気でしそうだ。


 そして奴らは、そうやって人を襲う。

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