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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第11章 人助けの呪縛

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11-43 救命行為

 海面に出た。そんなに長い間海にいたってわけじゃないのに、太陽の光が懐かしく感じる。お日様って暖かいなあ。

 空気を吸えるわけじゃないのに、空気が美味しいって感覚になれるあたり、この体の謎は深まるばかりだ。


「リゼさん! 捕まってください!」


 船の上からフィアナ達が手を伸ばしている。それに引き上げられて、ようやく船の上に戻れた。

 フィアナやユーリ含めて、みんなずぶ濡れだな。体の中まで海水が染み込んでる俺が一番だろうけど。船上に寝転がされる際、べちゃりと音を立てた。


 体を絞って海水を出さないとな。というか、真水に浸かって塩抜きしないとな。じゃないと、塩がふいてるぬいぐるみになってしまう。

 ああ。また苦しい思いをするのか。いや、あのまま永遠に海にいるよりずっといいけど。


「おい、リゼ。大丈夫か?」


 ようやく落ち着いて周りを見回せる余裕も出てきた。俺の隣に寝転がっているリゼも、全身ずぶ濡れだ。乾かさないと風邪ひくな。

 疲労もあって息が荒い。なんというか、その弱々しい姿に少しだけドキっとしてしまったのも事実。


「うー。大丈夫。コータは? 無事?」

「ああ。無事だ。体に水が染み込んで、めちゃくちゃ重いけどな」

「そっか。じゃあ、出してあげなきゃね」

「お、おい……」


 ぐったりしてる様子を見せながらも、意外に俊敏な動きで起き上がって、俺の体を抱きしめる。ぐえー。


「やめろ。苦しい。もっと優しく」

「だめ。そうしたら……」

「水を絞れないって? それはわかるけど…………」

「違うの。そうじゃなくて…………」


 では何なのか、リゼは言えないようだった。その代わり、俺の顔に新しい塩水が垂れてくる。


 リゼは泣いていた。今度は俺の体を離したりしないよう、しっかりと抱きしめて、大粒の涙を流していた。


「良かった。本当に……コータが戻ってきてくれて…………」

「……そうだな。心配かけてごめんな」


 謝らないでとばかりにリゼは首を振る。それから、さらに強く俺を抱きしめた。

 苦しい。けど少しだけ、その力が頼もしく思えた。



 さて、リゼと俺が感動の再会をしている間にも、周りは動き続けてた。フィアナもユーリも、空気を読んで俺達に関わろうとしないだけ。

 カイとベルも海面に浮上。すぐさま船に引き上げられる。カイは元気そうだけど、ベルの方はまずい。長い間水中にいすぎた。

 探査魔法を使う限り、まだ彼女は生命だ。けれど予断を許さない。


「サキナさんにもこっち来てもらうようにお願いしてる。リゼ、わたし達で治癒魔法を」

「ぐすっ。う、うん。わかった」


 リナーシャが別の船からこっちに飛び乗ってきた。

 イカの怪物と同じく、タコの方もいつの間にか倒されていたらしく、触手の大部分を失った死にかけの姿で海中深くに沈んでいた。


 その戦いの場を見ると、氷漬けになった触手が何本か海に浮かんでいた。そういえば前にも、サキナの氷魔法に助けられた事があったな。


 いや、それよりもベルの蘇生だ。リナーシャとリゼとで、ベルに手をかざそうとする。もちろんリゼの代わりに魔法を使うのは俺で、まあそれはいいんだけど。


「カイ。ベルが呼吸をしてるか確かめてくれ。リゼはベルの頭に手を当ててくれ」

「へ? いいけど、どうして?」

「息をしていないと、全身に酸素が行き渡らなくなる。特に脳へのダメージが重大で、死ぬ。だから脳を治療し続けて、正常な状態を保つんだ」

「あ、うん。よくわからないけど、コータの言うことなら信じる」


 素直でよろしい。ベルの頭にかざされたリゼの手に乗り、これを通して治療魔法を発動。


「コータ、まずい。息をしてない」

「わかった。じゃあ気道確保…………息をしやすいような体勢にするんだ。顎を上にあげるような感じで」


 保険の授業で習った応急処置の方法を必死で思い出しながら、指示を出す。

 授業はそれなりに真面目には聞いてたけど、本当に使う機会があるとは思ってなかったから自信がない。しかも魔法と併用してなんてな。そうでなくても、俺は素人なのに。


 だが泣き言なんて言ってられない。ベルを救えるのは俺だけだ。


 次はなんだっけ。胸骨圧迫と人工呼吸? 確か人工呼吸は、素人がやっても効果は薄いんだっけ。でも、この世界でプロの救命士が来る見込みもないからな。


「コータ。次はどうすればいい?」

「胸に耳を当てて、心臓を確認してくれ。動いていればそれでよし。止まってるか弱くなってるなら、リナーシャは治癒魔法を重点的に心臓に施すこと」

「わ、わかった……胸に……」


 ベルの危機に、カイはいつになく動揺していた。それは、また親しい者の命を救えないのではという恐怖からか。


「大丈夫だカイ。大丈夫。ベルは救える。生きている限り、死なせない」


 冷静に考えれば、当たり前のことを言ってしまった。けど本心というか、ベルのことを生きながらせさせ続ける自信はあった。だからベルが死ぬことはない。


「カイ。ベルの胸を、体重をかけて押してくれ。最悪、骨が折れるぐらいの力を込めていい。それくらいは治せるから。えっと、具体的な場所は……」


 たぶん間違ってはないはず。カイは言われるままに、素人ながらも力強い心肺蘇生法を行う。

 その内にサキナも乗船してきて、三人がかりで治癒魔法をかける。ここまで丁寧に救命される人間ってのも珍しいだろうな。


 そのまま、しばらくもどかしい時間が過ぎて。


「かはっ!」


 そんな声と共に、ベルは勢いよく水を吐き出した。それはカイの顔に思いっきりかかったけど、彼はそれに驚く余裕もなかったと見える。

 けど、蘇生に成功したというのは、誰の目にも明らかなわけで。


「か……カイ……わたし……」

「そのまま。楽にしてて。なにも心配ない」


 心から安堵している。そんな様子のカイはベルの顔を愛おしそうに撫でた。


「わたし、生きてるの?」

「ああ。生きてる。ちゃんと生きてる」

「そっか…………」


 ベルは横になったまま、満足げにうなずいた。


 とにかく、これで生命の危機は脱した。治癒魔法で体を万全にすることもできるけど、あまり意味はないかな。


「ではみなさん。帰りましょうか。街の皆さんにも、この事お知らせしないと」


 フライナが、俺達というよりは周りの船全体に呼びかけるように言った。街を脅かす怪物は両方とも倒された。みんな、また漁ができる。

 たしかに、早く教えてあげないとな。

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