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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第11章 人助けの呪縛

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11-35 父の狂気

 ゴブリンっていうのは、集団で襲いかかってくれば恐ろしい相手らしい。けど今回の場合は、商人がこんな所まで持ってきた数は限られている。

 しかも屋敷という比較的開けた場所に展開するのだから、密集して襲いかかってくるというわけでもない。


 戦い慣れた冒険者にとって、物の数ではないということだ。


「うはははは! どっからでもかかってきなさいゴブリン! この世界一優秀な魔女のリゼちゃんがしっかり退治してむぎゃー!」

「うるさい。黙れ」


 廊下を悠々と歩くリゼの上で、目についたゴブリンを風の刃で切り裂いていく。建物の中だから炎魔法は使わない。悪い人間の屋敷でも、放火は良くないよな。


「リゼ。そこの部屋だ。入れ」

「中にいるのはゴブリン?」

「いや、使用人がふたり……だと思う」


 一応、例の生物商人である可能性も捨てないけど。探査魔法で見る限り、女性がふたりだからたぶんメイドさんだろうな。


「こんばんは! 皆さんをゴブリンから守る優秀でかわいい魔女さんが――――」

「皆さん。助けに来ました。もう大丈夫なので、屋敷から出ましょう」

「フィアナちゃんー? もう少しわたしのかっこいい所見させてくれてもいいんじゃないかなー?」

「お尻叩きますよ?」

「ごめんなさい!」


 とまあ、バカを抑えながら屋敷の中を探していき、ゴブリンを狩って避難している人達を救い出す。

 カイとユーリは別行動で、父の書斎に戻っていった。もちろんライフェルを回収するためだ。彼は今も倒れているし、ゴブリンも徐々にばらけていってるから、危険はない。


「フィアナ。そこの角から一体来る」

「はい」


 直後に姿を現したゴブリンの首を正確に射抜くフィアナは、いつもより冷酷度が上がっている気がする。

 あれかな。生物を売る商人ってのが気に入らないのかな。自分の故郷の領主を思い出すから。それで怒ってるのかな。


「リゼさん。次のゴブリンを狩りに行きますよ」

「ふぁい…………」


 戦ってるのは俺とフィアナだけだから、リゼは何もしてないのだけど。まあいいか。お尻を押さえながら、フィアナの後をついていった。




 結論から言えば、ゴブリンの殲滅はあっという間に終わった。屋敷から逃げ出したのもいない。

 それを連れてきたという商人に関しては、捕まえられなかった。探査魔法で探してもそれっぽい人影も見つけられなかった。


「そもそもさ。コータは最初、ゴブリンが屋敷にいる事にも気付かなかったんだよね?」

「そうだな。急に出てきたように見えた。……探査魔法破りの布か?」

「多分ね」


 扱ってる商品は見つかればかなりまずい物だし、魔法使い相手の隠蔽工作はばっちりやってるということか。

 で、逃げる時はその布を被って行方をくらませると。


「なんというか、手慣れてるねー」

「何度も似たような事、してきたってことか……」


 一方で、ライフェルの身柄は間違いなく確保できた。今朝の謎の男と同じく、城の兵士に引き渡す。取り調べは厳しくやってもらうことにして。


「残ってる問題は…………クラーケンだな。うん。相変わらず海にいる」


 諸々の手続きは兵士達に任せて、俺達は宿に戻る。カイだけは、取り調べがあるとのことで屋敷に残ってるけど。城から戻ってきたフライナも、少し話がしたいと合流してきた。

 探査魔法で海を見れば、巨大なタコとイカは悠々と泳ぎ続けていた。街にとっての懸念事項は終わらなさそうだ。


「カイが言った通り、あれも生物商人が連れてきたものなのかな?」

「かもしれない。で、クラーケンに対してやった命令っていうのは、この海に留まり続けろってものなのかも」


 命令というよりは、そういうふうに調教とか躾とか、そう言ったほうがいいかもだけど。

 とにかく海に巨大なイカとタコを留まらせ続けて、街の漁業に深刻な影響を与え続けるのが目的。


 なんでそんな事をするのかは、これからの取り調べを待つことになるのだけど、フライナはなんとなく理由を察していた。

 曰く、カイのためだという。


「さっきも言ってましたね。親子が一緒にいるために、こんなことをしたって」

「ええ。彼はそういう男です。カイさんがいなくなって、彼にとっては息子を立て続けに失ったようなものです。だからカイさんを探そうとした。それも自らの手で」


 ライフェルも最初の数年は、息子を失った悲しみに耐えつつも自らの立場を忘れなかったのだろう。

 多くの漁師を抱えた企業の代表の仕事を行い、ギルドの長にも就任した。


 もしかすると、リゼの家みたいに人を派遣して、カイの行方を探しもしていたのかも。けど、見つからなかった。

 そして、時と共に息子への情念は抑えがたい物となり、ついに行動を起こすことにした。今ある立場を捨てて、自らの旅に出て息子を探すと。


「もちろん、合理的な判断とは言えません。ほとんど狂気とも言えるでしょう。恵まれた立場を捨てるなど、普通は考えもしないはずです」


 フライナは、そこには少し自信がないとう風に言った。けど、リゼはそこに理解を示した。


「ライフェル本人にとっては、それだけの事情だったんだと思います。家を捨てる理由になるほどの。周りから見ておかしなことだったとしても。そういうことって、あると思います」


 気持ちはわかるとまでは言わなかった。けど、リゼだって家を捨てて旅に出る決意をした少女なわけで。リゼなりに迷いもあったのかもしれないな。

 あと、リゼって明らかに狂ってる所あるし。バカって言うべきかもしれないけど。正気じゃないこともあるし。そこも親近感湧いたのかも。口には出さないけど。


 そうですかと、フライナはゆっくり頷いた。そして話を続けた。


「いきなりギルドや代表を辞任するのは、目立つというか無責任だと周りから言われるでしょう。それを避けるだけの理性はあった。そして、理性のために正気とは思えない計画を立てた」


 それが、クラーケンを海に放つというものだった。街の漁業に深刻な影響を与える問題に、対処を誤った。その責任を取る形で辞任をすればいい、と。

 そのために多くの漁師や冒険者が犠牲にした。そうしなければ責任問題にならないから。


 討伐には危険が伴うと承知しつつ、ライフェルはそれを断行したのではない。

 危険があるから実行に移し、実際に多くの命を奪ったわけだ。


 今日の討伐の中で、突然イカの怪物がタコを助けに来たのも、確実に失敗させるための作戦だった。

 というより、最初からそのつもりで商人に発注していたのだろう。


 そうだな。正気とは言い難い考え方だ。

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