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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第11章 人助けの呪縛

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11-31 気まずい対面

 久々に踏み込む屋敷の廊下を歩きながら、カイはなぜここに来てしまったのかと、今更後悔していた。


 わかっている。父とは一度、しっかり話さないといけない。それに、父は悪くない。両者の間に溝を作ってしまった弟の死は、誰かが悪いってわけじゃない。


 敷いて言えば、勝手に落ち込んで何も言わずに家を出た事で、一方的にカイが悪い。たぶん、多くの人に迷惑をかけているはず。

 ちゃんと謝らないといけないはず。


 一方で、それを今やる気分ではないのも事実。まだ、父や弟の死と向き合うのはできそうもない。


 ベルに言われたからって、来るべきではなかった。断るべきだった。その過程で、少々手荒な事をしなければならなかったとしても。

 自分にはそれができたはずなのに。


「失礼します。カイフェル様をお連れしました」

「うむ。お前は下がって良い」

「はい……頑張って」


 父の書斎の扉越しに、ベルと父がやり取りをする。最後だけはカイにそっと語りかけてから、いなくなってしまう。

 別に、いたら心強いってわけじゃない。けど、ひとりで父と対面するのも気が乗らない。

 仕方がない。取りあえず会ってみよう。案外、和解は簡単にできるかも。できなければ、その時になってから逃げればいい。


「失礼します……」


 戸を開けて、書斎の机越しに父と対面。数日前に会った時は、しっかりと顔を合わせもしなかった。

 窓を背に椅子に座っている父は、記憶にあるよりも少しくたびれている気がした。それが歳によるものなのか、重い立場によるものなのかはわからない。


「さっき、漁業組織の代表とギルドの長の座を辞任してきた。今日のクラーケン討伐失敗の責任を取ってだ」

「え…………」


 開口一番、カイにとっては初耳の情報を告げた父。それに驚くと同時に、意図をわかりかねて先を促す。


「カイフェル。これが責任ある者の振る舞いというものだ。辛いことはいくらでもある。だが、逃げてはいけない」

「……そういうもの、なのか」


 責任ある座から降りるのは、逃げとは違うのだろうか。そう尋ねたかったけど、やらなかった。

 父は、というか大人は、こういう話をしている際に話の腰を折られるのを嫌う。そして、わざわざそれをする意味もない。


 父はカイが家を出た事を責めているのだろうか。けど、それどころではないはず。代表を辞任したと言っていた。では、この先企業を率いるのは誰になるのだろうか。

 こちらを見つめる父も、その話をするつもりらしい。


「ギルドの後継者が誰になるかは知らない。私はもう離れたからな。だが企業の後継者は私が決めなきゃならん。そして、普通は息子がなるものだ」

「つまり、俺が?」

「そうだ。カイフェル。お前には経営者としての知識も経験もない。漁師としてもな。だがやらねばならない。私が、経営者としての何たるかを教える。だから引き受けろ」

「………………」


 唐突すぎる話。そして、到底引き受けようとは思えない話。けど、父は本気らしい。

 自分は第一線を退きつつも、息子の補佐という形で影響力を持ち続ける権力者は多い。父の場合も同じなのだろうか。責任はとった上で、まだ立場を維持し続けると。


 ではカイの存在は、父の権力者維持の材料でしかないというわけで。


「事情はわかった。けど、断る。別に親父の事が嫌いだからじゃない。ナイの事とも関係ない。あれは……いや、今はその話はよそう」


 よすべきじゃない。弟の死は一番大切なことのはず。けど、断る理由としては適当じゃない。


「親父。俺は今、冒険者としてある依頼を受けてる最中なんだ。人探しをしている。この街に来たのも、その一環。怪物騒ぎに巻き込まれてしまったから、少し留まってるけど。依頼を途中で投げ出す気はない」

「人探しなど、家の力を使えばできる。お前がこの家の当主になれば、いくらでもさせてやる」


 確かにそうかもしれない。この家は金持ちだ。オロゾを探すために、各地に人を派遣するなど容易い。パーティーを率いて探すよりも、手間はかからないはず。

 ロライザからの依頼を考えれば、別に見つける方法は問わないわけで。


 もちろん、だから申し出を受けるってわけにもいかない。


「俺はパーティーのリーダーとしてみんなを率いる義務がある。俺がこの街に落ち着いたら、みんなが方針に迷うことになる。……十二歳の子供ふたり含めて」


 ユーリ達を理由にするのは、少し気が引けた。けど、理由としては十分なこと。

 もっともそれは、相手が冒険者という仕事に理解のある人間だったらの話。そして目の前の男は、あまりそういう種類の人間ではない。

 息子が勝手に冒険者として家を飛び出したのが、その原因なのだろうけど。だったら、ツケが回ってきたというべきか。


 やはり父は顔色を変えようともしなかった。


「冒険者など。ひとりいなくなれば、いないなりに仕事ができる物だろうに」


 確かにそうかもしれない。

 しかし、この男が言ったことはつまり、カイの存在は大したものではないという意味にも取れた。カイがむっとした表情になったのを見て、ライフェルは別の言い方をした。


「もし不安であれば、家で雇ってやればいい。冒険者をやるよりは、ずっと安定した生活をさせてやれる。それに安全だ」

「あいつらは、それを望まない」


 父の言う通りではある。今は怪物が海を荒らしているけど。天候が荒れて海に投げ出されて溺死する者もいるけれど。それでも、野生動物や怪物と自分から戦いに行くよりは安全な仕事だ。

 権力者の陰謀で怪物が街に溢れるなんて事態にも、巻き込まれることはなくなるだろう。


 それでも、その生き方を彼らは選ばないだろう。


「親父。悪いけど、その提案を受ける気にはならない。確かに、勝手に出ていったのは悪いと思っている。弟の死には向き合うべきだった。でも、冒険者として生きるのは楽しいんだ。旅に出るのも。……理解してくれるとは思わない」


 そもそも、お互いに要求が一切噛み合わない。だからこの話し合いが平穏の内に終わることはありえない。

 カイはそれをわかっていた。向こうが理解しているかは、どうでもいい。


「親父がなんと言おうと、俺は冒険者をやめない。それから、親父の後継者にはならない。その要求を聞く気はない。呼びつけた要件がそれなら、俺は帰るぞ」


 そう言い切って、踵を返した。その背中に父の声がかけられる。


「親子で一緒にいたいと願うのが、そんなに悪いことなのか?」

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