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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第11章 人助けの呪縛

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11-29 父の所へ

 突然の質問にサキナは戸惑った様子だけど、すぐに記憶を辿り始めた。


「えっと。村に行ってた別の冒険者がルファちゃんを訪ねて、あなた達の不参加を伝えたでしょう? それが昨日のこと。で、今日の朝にリナーシャちゃんには伝えたわ」

「どんな反応でした?」

「苦笑いしてたわね。でも、仕方ないかって感じだった。冒険者って気楽でいいわね、って」

「そうですか。気楽で……」

「別に非難する感じじゃなかったわよ。だから、あんまり自分を責めないで」

「親父はどうでした?」

「ちょっと待ってね……」


 カイの様子に戸惑いを覚えつつも、サキナはまた思い出そうとしていた。


「近くにライフェルさんがいたから、すぐにリナーシャちゃんの口から伝えられた。驚いた様子は無かったわ。それよりは…………笑ってた」

「笑っていた?」

「なんというか。安堵したのかもしれなわね。息子を死地に送るような事、誰だってしたくないもの」

「そうかもしれませんね…………」


 カイは、未だに父とまともに話せていない。お互いどう思っているかを知らないし、父がこちらにどんな感情を向けているかもわからない。

 話す気にもなれなかった。必要な事とはわかっていながらも。


 それにしても、安堵か。その気持ちはわかる。たとえ立場上は褒められないことでも、感情としては当然の物。

 しかし、なにか違和感がある。そんなに安堵するほど危険な作戦なら、なぜ断行したのか。それが街のためだというのはわかる。けど。


 悪意。さっきコータはそう言っていた。悪意があるとすれば、それは誰の悪意だろう。


「親父に会ってくる」


 立ち上がりながら宣言する。提案とかお願いではない。これは宣言。あるいは決意。

 当然だけど、サキナ達は戸惑った様子を見せた。さっきまで落ち込んでたのに、いきなりどうしたのかって。

 けどカイはこれでも、パーティーをひとつ率いる男である。辛い現実を前に落ち込むばかりではいられない。


「ちょ、ちょっと待ってくださいカイさん! せめてコータさん達が戻ってきてからの方が良いのではないでしょうか!」

「いえ。これは俺の問題ですので」

「えー…………」


 コータ達に知られたら、やっぱり止められそうな気がする。ここ数日見せてきた醜態を考えるに、心配されるだろうし。だから、何か言われる前に動くつもり。

 ルファ達だって力ずくで止めるわけにもいかず、カイの動きを見守ることしかできなかった。


 するとそこに、止めるかどうかは別として、カイに実力行使を挑む者がやってきた。彼女はカイが部屋の戸を開けた所で鉢合わせした。


「昨日と今日どこ行ってたのよカイー!」


 そんな問いかけと共に、高く上げた足による蹴りがカイを襲う。すかさず後ろに避けるカイに、今度は鋭いパンチが迫るが、それも手のひらで正面から受け止めた。


「ベル。いきなりなんなんだ」

「なんなんだ、じゃないわよ! いきなり街からいなくなって、また遠くに行っちゃったのかと思ったんだから! また、わたしの手の届かない所に!」


 そう言いながら、ベルは再度蹴りの姿勢に入った。


「待ちなさい。暴力は駄目よ」

「そ、そうですよ! 別に喧嘩しなきゃいけない関係じゃないですよね!」


 サキナがカイの前に立って防御魔法の障壁を張り、ルファとフラウもベルを止めようと後ろからしがみつこうと身構えていた。

 けどベルは今の言葉で落ち着きを取り戻したらしい。


「失礼しました、皆様。カイフェル様、ライフェル様がお呼びです。お屋敷までご同行願えますか?」

「親父が? わかった。行く」

「ま、待ってください! カイさん。せめてコータさん達に」

「コータ達が戻ってきたら、この事伝えておいてください。これは俺の問題なので、俺がけりをつけます。…………親子なので。ずっと無視し続けることもできません」


 強い決意と共に告げた言葉に、ルファ達はそれ以上何も言えなかった。




 夜の街を、カイとベルが並んで歩く。再会してから、ようやく落ち着いて話せる機会ができた。


「ねえカイ。昨日街からいなくなったのは、本当に依頼をするためなの?」

「そう。冒険者としての仕事だから」

「じゃあ、もしカイがまたこの街から旅立つ時は、前みたいに黙っていなくなったりしない?」


 それは、ベルが恐れていること。一番知りたいこと。

 ふたりきりだから、とりあえず敬語は使わなくていい。カイの方からそう提案があったから、ベルはかつてと同じ感じで話している。

 とはいえ、お互い成長したから、どこかぎこちない雰囲気があった。カイにとっては違っても、ベルにとっては元の関係のままではいられなかった。


 そしてベルの質問に、カイは少し返答に迷った。それでもすぐに、しっかりとうなずく。


「もちろん。今度は、ちゃんと挨拶してから出ていく」

「そう…………」


 それは、和解と同時に拒絶の言葉でもあった。

 リゼに尋ねたこと。旅に同行させて欲しいというお願いは、まだカイの耳には入っていない様子。そして今の答えは、一緒に行く気は無いと言っているようなものだった。


 だったら、カイの意思に従うべきだろうか。自分が冒険者に向かない人間なのは知っている。経験も知識も技量もない。

 けど、嫌だった。カイとは、もう離れたくない。だったら…………。


 ベルがそんな事を考えている間、カイは無言のままだった。もうベルの事は眼中になく、父との対面の事しか考えていない様子。



――――――――――――――――――――



 フライナの提案は俺達にも納得できる物で、それを受け入れる事にした。取りあえずはあの男の尋問。それか拷問も行われるのかな。

 そう言うのを忌避する意識、あんまりなさそうな世界だし。


 じゃあ、話もまとまった事だし帰るか。そう思った所に、フライナに来客の知らせが来た。

 リナーシャだという。彼女が来るのは予想していた事ではある。

 なぜか来るのが遅かったとフライナは疑問を呈していたけど、なにか話し合いがまとまらなかったとかだろうな。


 今後の討伐作戦の方針とかを聞いておきたいから、会談に同席をお願いしたところ、フライナは了承してくれた。俺達も次の戦いには参加するつもりなわけだし。リナーシャもよく知ってる相手だし。


 そして。


「ライフェルさんが辞意を表明しました」


 開口一番、リナーシャは俺達が思ってもいなかった事を口にした。

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