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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第11章 人助けの呪縛

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11-28 生物を売りつける者

 今回のクラーケン騒ぎに関しては静観すべき。自分の配下の人間を危険に晒したくはない。

 その方針は企業の持ち主としては合理的だし、フライナはそういう判断ができる種類の人間だ。それに、容易く自分の意思を曲げる人でもないだろう。


「正式に討伐の参加を表明する前に、確認すべき事は多いですけどね。新たに出現した、イカの怪物についても詳しく訊きたいですし。コータさん、何か知っている事はありますか?」

「俺も伝聞でしか知らないので、詳しくは改めて参加者から聞いてほしいのですが……」


 そう前置きした上で、サキナから聞いた情報を洗いざらい話した。その上で、イカがそんな行動をするのかと尋ねた。


「ありえませんね。いえ、そんな巨大なイカの存在自体が異例なので、我々の知らなかった習性なんかがあるのかもしれませんが……普通は、別の種族の生き物に仲間意識を持つ事も、助けることもありえません」

「つまり?」

「この二体の怪物の裏には、なんらかの作為的な物があると思います。あるいは、悪意でしょうか」

「悪意」


 この男が前にも言っていた事。俺がこの屋敷を訪問した理由。

 生物であるにも関わらず、タコの怪物が一体しかいないなら、そこには自然の摂理ではなく何者かの悪意があるはず。フライナのその考えは、少し違う方向だけど正しかったようだ。


「あのタコと、今回現れたイカは、誰かが悪意を持って用意したもの。フライナさんはそう考えてるわけですね?」

「ええ。そう考えた方が自然かと」

「あの。そんな怪物って、簡単に用意できるん……ですか?」

「無理だと、思う」


 これまで静かに会話を聞いていたフィアナとユーリが口を挟んだ。まあ、もっともな疑問だ。自然にありえない存在だけど、人為的に用意するのもありえなさそうな生き物だもんな。


「そうですよね。普通に考えれば無理ですよね。ですが、そういう生物を作れる組織があるとすれば、どうでしょう」

「組織、ですか?」

「ええ。私も首都で噂を聞いた程度なのですが。動物学の研究者相手に、珍しい動物や怪物を売る商人が存在します。その中に、全く新しい怪物を作り出して、なんらかの非道徳的な目的を持つ顧客に売りつける者もいる。そんな噂です」

「怪物を……作り出す? そして悪人に売りつける?」


 そんな奴、本当にいるのだろうか。全く新しい生物を作り出せる技術を持つ組織なんて、この世界にあるのだろうか。


 けど、怪物を売る商人ってのには心当たりがある。その商人本人ではなく、それからオークを買った人でなしのこと。

 フィアナが嫌なことを思い出したというように顔を伏せていた。考えてる事は同じか。


「私としても簡単に信じられるわけではありませんが……今回の怪物の裏に、何者かの意図があるのは間違いないと思います。なので討伐の前に、その何者かを突き止めるのが良いかと」

「そうですね。でもどうやって…………」


 その答えは、フライナにもわかっていないらしい。この街に対して間接的な方法で攻撃することで、誰か得する人間はいるのだろうか。

 どこかの国と戦争中というわけでもないし、他国からの攻撃なら、こんな中途半端な街を狙うのもおかしな話。


「ねえコータ。さっき捕まえたあの人、なにか知ってるんじゃない?」

「あの人か? 村に向けてオオカミをけしかけてた奴が? …………そうだな。やってる事は、大して変わらないよな」


 リゼに言われて、納得する。巨大なタコを放って漁場を荒らす。オオカミを放って農地を荒らす。確かにやってる事は同じかもしれない。


 あの男は、生物を使って悪事を働く商人の手下で、なんらかの依頼があってオオカミを暴れさせた。そして俺達に見つかって捕まった。

 背後にいるのが何者かはわからないけど、怒らせたらそれなりにやばい人間なのかも。だから口を割ろうとしない。


 ありえる話とは思えた。フライナに説明すると、彼も調べる価値はあると同意した。


 あの男は今、城の兵士に捕まって取り調べを受けている。簡単に口を割るとも思えないけど、街を危機に陥れている問題の関係者ともなれば話は別だ。

 兵士に、厳しい取り調べをしてもらうよう、フライナに口利きをお願いしよう。そうやって根本的な原因を明らかにしてから、討伐を再開する。


「兵士達も、自分に関わる事となれば本気でその男を締め上げる事になると思いますよ」

「……どういうことですか?」

「次の討伐作戦には、城の兵士にも参加してもらいますか。じゃないと戦力が足りません」


 今回の失敗で、多くの冒険者の命が失われた。そして怪物を倒すには、今回以上の戦力が必要。ならば冒険者以外にも戦ってもらうしかない。

 市民から有志を集めるか、兵士を動員するかだ。そして現状は街の危機であり、城主様も動かなければならない事態なのは確実。


「もちろん、私は最大限の協力をします。他の方々の協力があるとの前提ですが」


 そうじゃなきゃ、いたずらに配下を失うだけ。自分達を守るという方針は変わらない。


 まあ、ここまで徹底した考え方を持っているなら、逆に信頼できる相手といえるよな。



――――――――――――――――――――



 コータ達が宿から出た後も、カイはその場から動けなかった。椅子に座って、自分はどうするべきだったかと考え続けていた。

 もしもの仮定を考えても意味はないと理解しつつも、後悔しないわけにはいかなかった。


「とりあえず温かい物でも飲んで、今日は寝たら? どうしようもない失敗をした時は、そうするのが一番よ。……あなたの決断を失敗とは思わないけど」

「……ありがとうございます」


 見かねたのか、サキナが湯気の立つお茶を持ってきてくれた。その後ろにはルファとフラウもいる。


「カイさん。とりあえず今日の事は、気にしない事にしませんか? カイさんだって冒険者としての仕事を立派にやってたわけですし!」

「そうよ。それに、危険な仕事は避けたっていう、カイの冒険者としての勘みたいなのがあったんじゃないかな!?」


 ルファとフラウも、気遣わしげに優しい言葉をかけてくれた。

 参加する作戦から勝手に逃げたのに、それを責める素振りも見せない。本当なら、もっと怒られてもいいはずなのに。

 本当に、なぜなんだろう。


「あの。ひとつ訊いてもいいですか?」


 カイは頭を上げて、サキナをじっと見て尋ねる。


「俺達が討伐に参加しないと聞いたとき、みんなどんな反応をしましたか? 特にリナーシャさんと……親父が」

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