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3-16 事件の真相

 ガルドスが何を言っているのかがわからず、俺達はみんなお互い顔を見合わせた。

 領主様の奥方様ということはつまり、この領主の妻ということか。たしか数年前に病気で亡くなったとか。


 振り返ってガルドスの方を見ると、彼は少し老け気味の女を見て震えながら間違いないと何度か繰り返していた。それから。


「ありえない! 何を言ってるんだ! 妻は三年前に死んだ! その女は似てるだけの別人だ! ガルドス血迷ったか!」


 狼狽えている。そんな様子で領主が叫んだ。この男が言う通り似てるだけの別人だとすれば、なにをそんなに慌てるのだろう。

 ガルドスも領主に対して一歩も引かなかった。


「見間違えるはずがないだろう! 俺はこの方をよく知っている! 確かにやつれてはいるが、間違いなく奥方様だ! 彼女は病で死んだのではなかったか!」

「死んだに決まっておろうが! ではなにか!? ガルドスお前は、私がオーク共に孕み袋として妻を渡したとでも言うのか!?」


「いや、さすがにそこまでは言ってない…………ん?」

 言いかけて俺は気づく。今のは領主が、この邪悪な男が口を滑らせたのではないだろうか。


「まさかお前、本当にそんなことしたんじゃないだろうな…………」

 俺の言葉に領主の顔が青くなるのがわかった。




 そうじゃないか。オークも女も、どこから来たのかはわからない。でもここにいるからには、どこかからか来たはずだ。あるいは誰かが持ってきたとか。

 領主の妻が亡くなったとされるのは三年前。そういえばギルドが街にできたのもその頃だ。

 ギルドができれば街の運営は大いに楽になる。領主も、民から集めた税を用いて贅沢三昧がこれまで以上にできるためにギルドの設置には力を入れていたらしい。

 ギルドに大きな仕事が舞い込めば、遠方からも冒険者が来る。そして金を稼いで使って街の経済がさらに潤う。例えば今回みたいに。

 仕事が大きくなりすぎて村が一つ潰れてしまったのは予想外だったのだろうけれど。


 オークの集落が近くにできたなんて大きな仕事を作り出すにはどうすればいいか。オークの集落を作る必要がある。こんな風な空き地を村の近くに探し出し、オーク数匹を放つ。

 それから女だ。これも何人か用意していれば、オークは犯して子を作る。オークは成長が早いらしいから、生まれたのはすぐに大きくなってまた子を作ろうとする。

 女はどこで調達すればいい? 例えば、放蕩生活に邪魔な妻を病気と偽って死んだことにしてオークに渡す。他には?

 領主は女好きで、領内でよく女あさりをしていた。そして屋敷に連れて帰られた女の多くは戻ってこなかったという。


 この領主はギルドが来た三年前から、将来を見越してオークの集落を作り上げこの村に依頼を出させるように仕向けていた。




「お前、自分の贅沢のために妻や女達をオークの孕み袋にしてオークの集落を作ったんだな? 全部お前のせいなんだな?」

 俺の指摘にその場の全員が聞き入った。そしてこれをどう受け止めていいものか全員が困惑した。

 推測だ。それが本当なのかもわからない。けれどここに領主の奥方がいるという事実と、これまでの領主の言動からなんとなく察せられていた。


 なにしろ領主はこの野営地に部外者である冒険者たちが踏み入るのを嫌がっていた上に、女達をすぐに殺そうとした。口封じにしか思えない。


 沈黙の中で最初に口を開いたのは領主だった。


「黙れ! 言わせておけばいい気になって! お前は冒険者風情の癖にこの私を罪に問おうというのか!?」

「知るか! 領主とか冒険者とか関係ないだろ! お前は本当にこのオークの集落を作ったのかって聞いてるんだ!」

「うるさい! 黙れ黙れ黙れ! お前たちのような目の前の化物だけ相手してればいい冒険者とは違うんだ! 私は領内の未来を見据えなければならない! 正しいことをしたんだ!」


 それは自白のようなものだった。


「うわ、最低……」

 リゼがボソリと言う。こいつでも最低って言葉使うなんて相当な悪党だろう。


「わたしや皆さんは、あんな奴のために働いてたんですね……」

 フィアナも心底嫌そうに言った。フィアナの村はあいつのために働いて税を納めていたわけだから、俺の感覚以上に嫌な気分にもなるというものだろう。


 たぶん冒険者たちの気持ちも同じ。可能ならば今ここで領主を殺してしまいたいと思っているはず。


 そんな気持ちを察することもできないのか、領主はわめき続ける。兵士や騎士の後ろに隠れながら。


「良いか! これは領民のためだと思え! にも関わらず私を非難するならばこれは反逆行為とみなすぞ! レオナ! 兵士共! こいつらを殺せ!」


 領民のためと言いつつ、この事が明るみに出るとまずいというのはわかっているらしい。

 だからここで俺達を口封じするつもりなのか。兵士達は改めて武器を構えるが、そこに覇気は感じられない。


「しかし領主様。これでは……」

 レオナリアが兵士達を代表して声を上げる。やっていることに筋が通らないとこの騎士もわかっているようだ。しかし上に立つ男がそれを許さない。

「何をしているレオナ! 私の命令が聞けんのか! 騎士の誓いを忘れたか!」

「くっ……」


 騎士の誓いとやらがどれほどの物かは俺にはわからない。けれど、レオナリアという忠誠心に厚い騎士はこの言葉で引くことはできなくなってしまったようだ。同時に俺たちに攻撃することもためらう。


 なおも膠着状態が続いている中でしびれを切らしたのか、領主はゆっくりと後ずさりしていく。


「いいか! お前たちはギルドの人間とあの女共を全員殺しておけ! 私は先に街に戻る!」

「あ! おい待て!」


 逃げることを選択した領主はこちらに背を向けて駆け出した。

 すぐさまカイが追いかけようとしたが、その喉元に剣が突きつけられる。レオナリアだ。

「領主様の命令だ! ここを通すわけにはいかない」

「そうかい……じゃあ俺を殺すというわけか、騎士様?」

「それが命令だと言うならな……」


 剣を突きつけられている状況にも関わらず冷静で、レオナリアを煽るカイ。レオナリアといえば、言葉を噛みしめるような返答。なおも命令と良心の間で板挟みになっているようで動けないでいるのだろう。


 そのまま、再びの膠着状態が少しだけ続いた。長さにして一分にも満たなかっただろうが、こちらには永遠にも感じられた。

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