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3-15 オークの野営地

 ナンパ男が逃げていったルートを逆に探りながら進んでいく。その途中で、新しく死体をいくつか見つけた。オークの死体がいくつかと、装備をつけている人間のがふたつ。

 やはり腐乱が始まっていて確かめるのは難しいが、人間の方はナンパ男と一緒にいたふたりなんだろうな。


「ユーリ、ここからはオークの臭いを辿ることになる。できるか?」

「うん。まかせて」

 ユーリはまた地面に鼻をつけて臭いを追っていく。


 その途中、カイは昨夜のあの男の動きを予測して俺たちに説明してくれた。あの男達は抜け駆けをして、でもオークの野営地の位置なんてわからないからしばらくは森の中をさまようことになった。そして偶然にもオークと遭遇。

 戦闘になったがオークの方が数が勝っていたため、怪我を追ったあの男は逃げた。そういうことだろうと。そしてあの男と遭遇したオークを追っていけばたぶんオークが来た場所、奴らの野営地がわかるはず。


 果たしてカイの予想通りになった。森の中に木々が生えていない、空間がある程度の広さ確保された空き地のような場所があった。

 そこには数体のオークと、捕まったと思しき裸の女たちがいた。


「わたし達が出会った場所みたいだね」

「そうだな。こういう場所ってのは森の中にけっこうできるものなのかもしれないな。それにしても……オークの数が少なくないですか?」


 前半はリゼへの返答。後半はカイやガルドス達へだ。あの夜押しかけてきたオークやさっき殺したのと比べれば圧倒的に数がいない。

「オークのほとんどは村に移ったんだろう。だが最初に野営地にしていたここにも少しだけ残った。ここにも女はいるし楽しむことができるからな。だがおかしいよな。そもそもこの森にオークが生息してるなんて聞いたことがなかった」


 疑問に答えたのはガルドス。でもこの光景を見て彼も解けない疑問を抱いた様子だ。

「元の野営地に数体オークが残ってるというのは考えられる。動かすのに時間がかかる財産ってのが奴らなりにあるんだろう。だが女だとは思わなかった。村からこっちに女を移す必要はない。じゃあ、あの女はどこから来たんだ?」


 もともといるはずのないオークとどこから来たかわからない女。自然に発生するはずがないからどこから来たのかは明らかにしないといけないらしい。

 原因を特定せずに放っておけば、またオークの被害が出かねないから。


「じゃあ、あの女の人達に聞いてみればいいんじゃないですか? 今すぐに助けてあげたいですし。オークは見えているあれで全部なんですよね?」


 相変わらず、リゼが緊張感のないというか簡単な風に言ってくれる。実際にあの程度なら俺たちで一瞬で方をつけられるわけだから、本当にすぐに助けるのは可能なんだけど。


 後続を待たずに倒せるならそれに越したことはない。カイとガルドスが首肯するのを見てリゼは前に出る。

 この場にはもうひとり領主の女騎士がいるけれど、彼女はなにも言わない。


「炎よ集え。燃やし、貫け。ファイヤーアロー!」

 視界にいるオーク全員にそれぞれ数十本の炎の矢が刺さる。さっきと比べても敵の数が少ないから一体一体に刺さる矢の数を多くできたしオークたちも即死しただろう。

 もちろん捕まっている女たちは無事だ。


 敵の壊滅は一瞬でできたが、一応は今ので隠れているオークが出てこないかと少しだけ待ってから野営地に踏み込む。その頃には後続の冒険者や兵士、あるいはそれに守られている領主も追いついてきた。




「大丈夫か? もうオークはいなくなったからな。もう安心だ…………くそっ」


 とりあえず保護されて、布を与えられて体を隠している女たちにガルドスが声をかけていくが返答は芳しくない。

 度重なるオークによる陵辱によって精神が完全に壊れてしまったらしい。話ができるなんてことはありえないだろう。


「もうこの女どもは元には戻らん。潔く殺してやった方が幸せじゃないか?」


 その様子を見ながら領主はそんなことまで言った。

 意図はわからないではないが、でもさすがにそれはひどいのではないだろうか。この場にいる多くの者も同じ考えらしく、領主に非難の視線が集まった。


「な、なんだ。私はこの女達のためを思って」

「だったら少し黙っていてください。この人たちにも帰る家や待っている人がいるはずです」

 カイが女達を守るように立つ。

「よしコータ。あのデブにファイヤーボール」

「無茶言うな。気持ちはわかるけど」

 リゼも思うところは一緒のようで臨戦態勢に入った。撃つのは俺なんだけど。


 それ以外にもフィアナも弓に手をかけているし、他の冒険者達も黙ってはいるが思うことは同じだと思う。それがこの人でなしの領主をさらに苛立たせる。


「全く。これだから学のない荒くれ者共は。領主たるこの私が、領民のためを思ってやっているとなぜわからない。もういい。レオナ、女を殺せ」

「は…………」


 領主が騎士に命じた。レオナリアという騎士は命令を承知したという返事をしつつも、さすがに躊躇われるのか剣を手に取ったまま動かない。とはいえ領主に忠誠を誓った騎士だ。本気で動くことはあり得ると冒険者達は一斉に武器を構えた。


「何をしているレオナ! さっさと殺せ! 冒険者の邪魔など気にするな! 一緒に殺してしまえばいい! お前たちも手伝え!」

 領主はさらに兵士達にも命じる。兵士もレオナリア以上のためらいを見せているが、それでも領主の命令に逆らうのも難しいのだろう。槍や剣をこちらに向けている。


「リゼ、コータ、もしやるとすれば、あの兵士たちを全員殺すことはできるか?」


 領主の軍と冒険者達。お互い睨み合ったまま動かない時間が続く。もし動けば戦闘になる。そんな中でカイが小声で尋ねた。


 最悪の事態になった時、自分達は生き延びられるかという質問だ。


「できると思います。…………でも俺は人を殺したことがない」

「そうだよな。普通はそうだよな。いざとなれば、殺す覚悟はあるか?」

「自分が死ぬぐらいなら…………」


 そうとも。死ぬのは御免だ。だけどそのために人を殺せるかといえばそれはまた別の問題で。

 緊迫感に耐えるのも難しくなってきた。このままでは本当に戦闘になる。どうする? どうすれば…………。


「なあ、ちょっと待ってくれ!」

 その時ガルドスの声が響いた。両陣営がピクリと動いたが、幸いにして戦いになるのはこらえられた。そのままガルドスは続ける。


「この女、領主様の奥方様じゃないか!?」

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