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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第11章 人助けの呪縛

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11-7 かろうじての帰還

 波に浮かぶ白い狼の体が、みるみるうちに裸の少年へと変わっていく。海面はタコが暴れているため激しく波打ち、意識を失ったらしいユーリの体を翻弄する。このままではいつ沈んでもおかしくない。


「ユーリ!」

「おい! カイ待て!」

「待てない!」


 いつになく冷静さを失ったカイが、海に飛び込んでユーリを助け出そうとする。長く共に旅を続けてきた相棒を救いたい気持ちはよくわかるけど、それは危険だ。


「おいリゼ! 止めてやれ! せめて重いものは外すよう言え!」

「うん! カイ! 剣持ったまま飛び込んじゃ駄目だってば! 沈んじゃうから!」

「なんでリゼさんは止めようとするんですか!?」

「にゃー!? フィアナちゃんお尻叩かないで!」


 ダメだ。ユーリのピンチでみんな冷静さがなくなってる。

 そりゃそうだ。これまで危ない目にはいくらでも遭ってきたけど、今回は特にまずい。このままでは本当にユーリが海中に引きずられて、窒息か食われて死ぬことになる。

 そして、一番冷静じゃなきゃいけないカイが冷静ではない。リゼの方がまだ落ち着いてるっていうのは、由々しき事態だよな。


 しかし出来ることがない。俺は相変わらず、船尾の方から殺意と共に突っついてくる触手を防ぐのに手一杯。

 そしてユーリの方を見れば、海中に触手がおぼろげながら見える。海面のユーリに徐々に近付いていき…………。


「エクスプロージョン!」


 俺じゃない誰かの詠唱が聞こえて、俺の前で爆発が起こった。障壁を張っていたため、俺にも船にもダメージはない。海面は大きく波打ち、船が揺れたけど、それくらいは我慢しよう。

 巨大なタコの触手を、その爆発は直撃したらしい。海上に出ていた部分の中ほどから、触手は完全にちぎれて先端側が宙を舞う。

 なんにしても、この船を襲う脅威がひとつ消えた事は間違いない。俺の手があいたことも。急いでリゼの頭に飛び乗りつつ、海中の触手に何ができるかを一瞬で考える。


 けれどその一瞬の間に、その魔法使いが先に手を打った。


「フリーズ!」


 その声と共に、海の中に巨大な氷塊が出現。タコの触手を氷塊の中に取り込み、凍らせる。氷は海に浮くものだから、触手の氷漬けも例外ではなく海面に出てくる。ただしユーリを傷つけることはできなくなっていた。


「ユーリ!」


 ある程度の安全は確保された。鉄の装備を外したカイが海に飛び込み、ユーリの方へ泳いでいく。さすが港町で生まれただけあって、泳ぎを知っているのか。ライフェルも船を動かしてユーリの方へ近付けていった。


 俺はといえば、なおも海中に潜んでいる敵を警戒していた。他の触手が迫ってこないとも限らない。海面に浮いた氷の塊といえば、援軍の魔女、リナーシャが氷魔法をかけ続けて、どんどん大きくしていった。

 これが溶けない限りはタコは逃げることはできない。リナーシャは捕まえるか、ここで殺してしまうつもりなんだろう。

 その方がいい。逃してしまえば、手負いとはいえ怪物がまた海に解き放たれることになる。となれば、また誰か漁師が命を落とす危険がある。


 タコが再び攻撃を仕掛けてくれば、即座に爆発魔法を叩き込むつもりだ。今のところ、海中にタコの本体は視認できない。触手がとてつもなく長い、というか生き物としての大きさが規格外なのだろう。

 次の触手でもいい。とにかく攻撃を叩きつけたい。そう神経を研ぎ澄まして…………。


「駄目ね。奴は逃げた。自分で手をちぎったみたい」


 いつの間にか、船が一隻隣に来ていた。そこに乗っていたリナーシャが、少し気落ちしたように言う。海面に浮かぶ氷を見れば、確かに本体からちぎれた触手が力なく浮いていた。


「ユーリ! ユーリしっかりしろ! 死ぬな!」


 それから、カイがユーリを船の上にあげて蘇生を試みている。もともと白い裸が蒼白になっていた。けれど、しっかり生きてる様子で。


「かはっ!」


 そう咳き込む共に、口から水を吐き出した。海水が俺達にかかるけど、そんな事はどうでもいい。


「げほっ……。カイ、ごめん。僕……」

「いいんだ、ユーリ。よく生きてた」

「わあああああ! ユーリくん!」


 泣きながらユーリに抱きつくフィアナは、これは落ち着くまでかなり時間がかかりそうに見える。それでも、みんな生きていてよかった。

 怪物は殺しそこねたから、討伐任務は失敗に終わったわけだけど。


「お姉ちゃん。助けてくれてありがとう」

「いいのよ。かわいい妹や、街のみんなの危機だって思ったから。わたしだって戦う力を持ってるわけだから、助けなきゃって思うわけです」


 リナーシャは、別にギルドに登録した冒険者ではない。単に、騒ぎを聞きつけ加勢しただけだ。ベルが人を集めていたから、沖へ行く船に同乗させてもらったと。

 それでも、強力な魔法を使えるリナーシャは強い戦力になった。俺達が乗った船以外にも数隻が沖まで向かったが、それらにも被害が出なかったわけだし。


「仕方ないわ。敵は未知の生物。出来ることは限られる。これ以上の被害がでないよう、早めの討伐をしましょう。この氷漬けの手は持って帰る。街のみんなに見せて、対策を一緒に考えるの」


 このリナーシャという女、かなり頼りがいがありそうな気がする。

 この場で指揮を取るべきはライフェルなのだろうけど、未知の出来事を前に衝撃を受けたのか、リナーシャが仕切るのに任せているようだ。それでも海や漁のこととなれば専門家なわけで、縄や網を用いて氷塊を港まで曳航する際は、率先して周りに指示を出してたけれど。


 港では、街の住民が心配そうに俺達の帰りを待っていた。正確には俺達ではなくて、漁師達を待っていた、だ。

 港町だから、漁師それぞれに家族がいるのだと思う。俺達を乗せた船の操舵手だけではない。あの怪物の犠牲になった者達の家族も。


 俺達への依頼は怪物の討伐だけではなく、生存者の捜索もあった。だから家族達は、俺達の帰りをこうやって待っている。父が、夫が、息子が、なんとか生きてはいないだろうかと期待して。


 けれど俺達は、生存者を探す余裕などなかった。自分達を守るので精一杯だった。もしかしたら救えた命もあったかもしれないけど、今更出来ることはないだろう。


 人助けか。簡単にはいかないよな。それを行動の指針としている、俺達のリーダーに目を向けた。

 カイは船のへりに背中を預けて、心ここにあらずという様子で宙を見ていた。

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