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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第11章 人助けの呪縛

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11-3 姉と妹

 リナーシャが自己紹介を終えたら、しばし無言の時間が流れた。リゼは震えるだけだし、他のパーティーメンバーはどうすればいいのか判断がつかず動かない。俺だって困る。逃げればいいのかな。でも難しそうだな。


「あ……あの。お姉ちゃん……」


 すると、リゼがやっとの思いという感じで声を出す。そうだな。リゼの問題だから、リゼがどうしたいかを決めないとな。


「わ、わたしはお姉ちゃんの妹じゃないです。ひ、人違いです。わたしはリゼ。優秀な魔女。リーゼロッテっていう魔女も優秀ですけど!!」


 ダメだ。バカじゃ話にならない。

 とりあえず、ここは店の中だ。落ち着いて座って話しをしよう。そう提案すれば、リナーシャは笑顔で頷いた。


 注文した刺身定食的な食べ物が運ばれてくるけど、リゼは手を付ける余裕もないようだった。なんか知らない白身魚の刺し身を見つめるだけ。


「えっと。ユーリくん。これに塩をかけて食べるんですか?」

「そう。生臭くなくなる。あと、酢をかけてもおいしい」


 ちびっ子ふたりは呑気な物だな。ていうか、この世界なのかこの時代なのかはわからないけど、醤油ってないんだな。

 このふたりが呑気なのは、別に空気を読んでないって訳だけではない。どうやら緊張してるのはリゼだけで、対面に座るリナーシャは穏やかな笑みを浮かべるだけ。どうも事を荒立てる気はないらしい。


「リハルトから手紙を受け取ったよー。リゼ、なんか立派に旅してるらしいね。あ、リゼが魔法を使えたってことは、まだお父さん達には話してません。わたしとリハルトだけの秘密」


 あの兄貴、家には何も言わないって約束は守ってたのか。さすがにひとりで秘密を抱えたくないから、家の外にいる上の妹には明かしたと。

 秘密の共有をするには適した人らしいし、それくらいならいいか。


「あ……うん。実はそうなの。優秀だってわかったの」

「そっか。それはよかった。ねえ、家に帰る気はない? わたしは学校の寮で暮らしてるから、お母さんともお父さんともしばらく会ってないけど、でも心配してるらしいよ」

「本当? 怒ってない?」

「怒ってはいる」

「あーうー」


 そりゃな。怒るに決まってるよな。それでも娘であることは確か。ここまで行方不明帰還が長くなれば、戻ってきて欲しいと思う気持ちもあるか。

 とはいえ、リゼの心は決まっていて。


「お姉ちゃん。わたしは戻る気はありません。お兄ちゃんからも聞いてるとおもうけど、わたしは本当に魔法が使えるようになりました」

「だったら、もう逃げる必要はないんじゃない? 家に戻って、普通に名門の娘としての生き方をすればいい」

「それは…………そうかもしれないけど……いえ。わたしは、もうわたしの生き方を見つけました。お友達も出来たし、やるべきこともできた。だからクンツェンドルフの家には帰らない……です…………」


 最後の語気が弱くなったのは、リゼなりに気後れする事があるからだろう。リナーシャの言ってることは正しいし、リゼ性質が明らかになった今、名門の娘として生きる方がずっと楽だ。

 俺としても、リゼにはそれなりに優秀な新しい使い魔を迎えて貰って、俺はなんとか元の世界に戻る方法を探す。それをやるならお金持ちの家に身を寄せたほうがいいに決まってる。実際にやるかどうかは別としてな。


 ところがリゼは、恐る恐る刺身を口に運ぶフィアナの方をちらりと見た。みんなで一緒に旅をする今の生き方を、リゼは楽しんでいるらしい。俺もそれは同じ。


「うん。わたしは今のままがいいです。家名に傷をつけることはしないから」

「そう。わかった。ならわたしも、リーゼロッテの意思を尊重します。リハルトもそうしたわけだしね。あの兄貴、あれでいて見る目はあるから」


 リゼが安堵したように息を吐く。いつも以上に真剣な話し合いだったし、緊張してたんだろうな。


「あ。でもね、すぐにじゃなくていいから、お母さんとお父さんには会って話をしなさい。心配してるのは本当だから。家に、永遠にあなたを探させるわけにもいかないし。いつかは自分の言葉で説明すること。わかった?」

「あうー。やっぱりそれは、やらなきゃいけない? うー……お姉ちゃんの意地悪……わかった」

「よろしい。あと、リリアンヌにもどこかで会いなさい。まあ学校にいるからすぐには会えないでしょうけど。あの子が一番怒ってたから」

「あー…………」


 リゼの妹だっけ。姉より優秀で、飛び級で学校に入れた。それ故にリゼのプライドをひときわ強く傷つけた。仕方がない。いずれ会うしかないよな。


 学校か。たしかイエガンって名前の魔法学校で、全寮制だった気がする。親元を離れて学校に住みながら学ぶ。

 そして、出会った頃にリゼから聞いたこと。姉は来年、主席で卒業しそう。つまり、まだ在学生なわけで。


「ねえお姉ちゃん、なんでこんな所にいるの? 学校は?」

「卒業が近いからねー。研究論文のための調べ物をしに」

「なるほど……」


 卒業研究、あるいは卒業論文みたいな制度がこの世界の学校にもあるのかな。学校を飛び出して旅に出るみたいな距離を行き、調べ物をするとは。本格的だな。


「漁業を魔法を使って効率化する余地はあるか。大まかに言えばそんなのを調べる研究。というわけで、しばらくこの街に滞在して実地調査。半分ぐらいは旅行の気分だけど」

「そっかー。そこでわたしと再会しちゃうなんて、運命だねー」

「そうだね。運命だねー。やっぱ姉妹だから、引き合うものがあるのかも」


 この広い世界で鉢合わせしてしまうのだから、偶然とはいえすごいこと。世界は意外に狭いとは、今まで何度か実感してきてはいるけれど。


 そんな風におしゃべりをするリゼとリナーシャは、ごく普通の姉妹にしか見えない。兄に見せていたような警戒心なんかもないし、元からそれなりに仲が良かったのかも。

 リゼだって、家族から離れて過ごしていた事に、少しぐらいは寂しい気持ちがあったのかも。孤独を愛すってタイプじゃないし。


「そういえばさ、この街に来たかもしれない人を探してるんだけど。ミーナっていう魔法使い知らない? わたしと同い年ぐらいで、トカゲの使い魔を連れてるの。あと、オロゾっていう名前のフクロウの獣人と一緒にいる」

「ミーナ、オロゾ……うーん。ごめん。知らないなー。旅人ならギルドに行けば見つかるかもだけど」

「そっかー。そうだよね」


 残念ながら、尋ね人は見当たらなかった。まだこの街にいないと、確定したわけでもないけど。

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