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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第11章 人助けの呪縛

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11-1 南にある故郷

 ルファ達の旅の準備に少し時間がかかるからと、出発は明後日ということになった。俺達旅人と違って、商人は身軽に動きますというわけにはいかない。


 で、丸一日あいたその日に俺達が何をするかといえば、特に思いつかなかった。ギルドの仕事をしてもいいけど、明日も戦うことになる危険は高い。だったら、今日暴れて体力を減らすのは得策ではない。

 だから、その日は休養に徹することに。


「えへへー。ねえコータ。わたしって優秀なんだってー」

「はいはい。そうだな」

「もー。コータももっと喜んでよー」

「うるさい。抱きつくな」


 一夜明けて、リゼも素直に自分の真実を喜べるようになったらしい。それはそれで、調子に乗ってウザいのだけど。


「これで誰も、わたしの事を無能だなんて言わないよね!」

「まあ、そうかもな。俺がいなきゃダメなのは変わらないけど」

「そうだね! わたしとコータだから強いんだよね! それから、わたしはもうバカじゃないもんね!」

「いや。お前がバカなのは変わらないぞ」

「あうう……」


 正直、リゼの本質が明らかになって思ってたよりすごい奴ってのがわかったから、もっとリゼのことを敬うべきではとは少しだけ考えた。

 でもリゼはリゼだ。相変わらずこいつはバカだから、何かやらかさないように睨みを効かせないといけないのは変わらない。リゼも調子には乗ってるけど、むちゃくちゃ増長してるってわけでもないし。

 俺達の関係は、これまで通りでいいのだと思う。


 さて、俺達は何もしてない一日を過ごしてる。けれどカイは少し外出中だ。サキナと一緒にギルドに向かってる。

 アルスターの街までのルファ達の護衛と、あと尋ね人探しの依頼に関する事務的な処理のため。冒険者は何をするにしても、ギルドを通さないといけないのだ。めんどくさい。

 オロゾ探しの依頼者は当然ケイラニアなのだけど、彼女が直接依頼するわけにはいかない。解放されるまではルファの商会が立て替えるという形になった。


 その事は、別に大した問題ではない。重要なのは、今ここにカイがいないってことだ。


「ユーリくん。説明してもらえますでしょうか!」

「あんまり、迫ってこないで。こわい」

「す、すいません……」


 ベッドの上に押し倒さん勢いで、フィアナがユーリに迫る。この子もかなり積極的になったなと思いたいところだけど、別に今回はフィアナの恋心は関係ない。

 カイの事だ。昨日の様子がおかしかったのはフィアナの目からも明らかだったらしく、事情を知りたいとのこと。今は本人がいないし、ユーリは何か知ってるらしいと見た。


「僕も、詳しくは知らない。でも、アルスターには、カイの家がある」

「カイの家?」


 つまり、カイの故郷か。あの頼れるリーダーが、どんな経緯で旅人になったのかを俺達は詳しく知らない。

 でも、唯一語ってくれた過去があったな。それはたしか…………。


「そう。カイの家。どんな家かは、僕も、よく知らない。でも、お金持ちだと思う。文字を書けたから」

「そうですね。ユーリくんは、カイさんから文字を教えて貰ったんですよね」


 ならカイが読み書きできるのは、家が裕福で教育を受けさせるだけの余裕があったから。そういうことだろう。

 そんなカイがなぜ、家や故郷を捨てて冒険者になったのか。それはよくわからない。

 ユーリと出会ったのは、カイが旅に出た後のこと。そしてユーリにも、故郷でのことは詳しく話してないらしい。


 弟を殺した。前に少しだけ、カイが過去を話したことがあった。不穏な言葉ではあるけど、その詳細は不明。本人だって、あまり話したくない事らしい。

 それなら仕方がない。無理に聞き出す事はないと思う。それが仲間に対する敬意というものだ。必要になればその時に聞けばいいし、その時が来るとすればカイも話してくれるだろう。


「でも、本当に行ってもいいのかな。カイはたぶん、行きたくないと思う」

「……かもな」


 リゼが椅子に座ってうつむきながら口にする。たぶん、自分と重ねて考えている。リゼだって事情があって、故郷である首都には帰りたくないから旅をしてるわけで。

 カイの事情は知らないにしても、そう安易に家族と顔を合わせるのは避けないといけない。


「でもなリゼ。本人が行こうって言ってるんだ。止めるのも、余計な気を遣ってるみたいで悪いと思う。…………ミーナ達の情報を集めて、早めに街を出よう。広い街だし、注意すれば早々家族と鉢合わせなんてないだろうし」

「うーん。そうだね。きっとそうだよね!」


 同じ街に行く時点で危険は十分にあるけれど。リゼも、自分に言い聞かせるようにしっかり頷いた。




 そして翌日。俺達は予定通りに街を出る。ケイラニアを残すこととか、相変わらず盗賊に囲まれた街の行く末は心配だけど、今は仕方ない。放っておくと世界の危機なのだから。


 ルファの馬車の荷台に乗って、探査魔法で周囲を警戒しつつ南門から城門を出る。西門は相変わらず塞がっていて、当分は復旧しないとのこと。

 いずれにせよ、アルスターへ行くには南門から出た方が近くはある。


 街から出るのはすぐに済んだけど、入る方の門には長い列が出来ていた。西門が潰れたしわ寄せがこっちに来てるのもあるし、不審な人物を入れないために、身元確認や商人の運ぶ荷物の検査を厳重にやっているためだ。

 必要な処置ではあるけれど、とんでもない行列ができている。しばらくすれば噂は国中に広がり、ザサルに行くのを控える者だって出てくるだろう。そうなれば、都市は更に衰退する。


 領内の村や別の領地に続く道には、所々に兵士が立っていた。道を挟んで生い茂る森を警戒しているのだろう。これにより、道行く人の安全はそれなりには確保される。

 けれど警備しなければいけない範囲は広く、兵士の数が足りているとは限らなかった。兵士達もこの仕事が何日も続けば疲弊するだろうし、兵が広範囲に散らばっているとなれば都市本土の警備が疎かになる。


 そこを盗賊に攻撃されたらどうなるのだろう。敵は相変わらず潜伏しているはずだし、もしかしたら探査魔法にも引っかからないかもしれないのに。



 それでも兵士達のおかげか、俺達が盗賊に襲われることはなかった。その日の内にザサル領内を抜け出すことに成功する。盗賊への用心は怠らず、けれど少しだけ安堵しながら馬車は南部を目指す。

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