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3-14 足取りを追う

 オークに捕まった女達の救出と応急手当が一段落したあたりで、ようやく危険はないと確信したらしい領主が俺達の前に姿を表した。いままでどこかに隠れていたらしい。


「よくやった諸君。この私自ら褒めてやろう。さあ、こんな所に長くいる必要もない。日が暮れる前に街に戻ろう」

「まだです。この村の近くにオーク共が最初に拠点にしていた野営地があるはずです。そこも叩かないと。そこにどれだけ生き残りのオークがいるかわかりません」


 早く帰りたいという様子の領主に対して、ガルドスがさっき俺にも言ったことを進言する。まだここを去るわけにはいかない。もう一つの拠点も滅ぼさない限りは危険は去らない。


「そんなこと。では後日改めて私が兵を差し向けてこれを捜索して攻撃する。それでよいではないか」

「それは…………」


 今日はここにいたくないという様子の領主。だがこいつのした提案は、とりあえず今日は仕事を後回しにして休みたいという風にしか聞こえない。

 そもそもこの領主がオーク退治に急に乗り気になり何度も兵を派遣するとも考えにくい。


 ガルドスも俺と同じ意見なのか、今日のうちの決着をなんとか認めさせようとする。

「しかし日が経ちますと奴らもまた態勢を整え力をつけるでしょう。生き残りの数が多いと危険です」

「だが兵たちは皆行軍と戦闘に疲れているではないか。その上また戦えと、ガルドスお前は命令するのか?」

 領主はいかにも痛いところをついたぞとでも言いたそうに得意げな顔をした。


「ところがわたし達全然疲れてません! まだまだいけます!」


 そこにリゼがまったく空気を読まずに言ってしまう。さっきまで疲れたとか言って壁に持たれかけてただろ。あと"達"って周りを一切見ずに言うんじゃない。

 まあ回復が早いのとこの場に限って空気を読まなかった事に関しては褒めてやる。


 オークとの戦いの一番の功労者が戦えると言っているのだから、他の人間ももう少しはやるという気になったようで。領主は分が悪くなったと不安さを表情に出しながらもなおも食い下がる。

「だがお前たちはその、オークの野営地か? その場所もまだわかっていないと言うではないか! 日が暮れる前にそれを探せるのか?」


「それなら問題ありません。探せます」

 今度口を挟んだのはカイだ。かなり自信があるという口ぶり。

「短い時間で探せると思います。今からやれば日が沈む前に野営地にたどり着くのも余裕でしょう…………どうですか? とりあえず野営地を探して敵のオークの生き残りの数も見て、勝てそうなら叩く。無理そうなら一時撤退ということで」


 野営地を探せるというならそれは理にかなった提案に聞こえる。ガルドスもそれを聞き入れた。


「そういうことなら別に領主様にいてもらう必要もない。カイを含めた少人数で探索してまずは偵察だ。領主様、もしお時間の都合がつかないなら先に帰ってもらってもよいです。ギルドの人間だけでもできますので。……手助けのため兵士は何人か残してもらえますか?」

「ま、待て! そういうことなら私も残るぞ! オークをそのままにはしておけん!」


 急に主張が変わったな。どうもこの男の意図が読めない。なにか考えか隠し事をしてるのは確かだろうけれど。



 カイはユーリを引き連れて村の中心の広場へ向かう。リゼと俺も捜索中にオークと遭遇した際の護衛で同行する。それからガルドスと、領主側の人間もということで騎士の女もついてくる。

 その他の人たちには少し離れた場所からついてきてもらうことにした。


 レオナリアだったか。改めてその姿を見る。二十歳ぐらいの女で、あまり喋るタイプではない。

 さっきの戦いぶりを見るに、明らかに自分より大きなオークに億せず立ち向かう勇敢さと強さを持っている。その意志の強さが表情に出ているのか、気の強そうな印象を与える。


「あった。あの嫌な男だ。俺達の知っている最初の犠牲者」

 広場に倒れている死体の一つにカイが目をつける。あのナンパ男か。

 死後二日経っていてすでに腐乱が始まりハエがたかっている。

「これは臭い。臭いも変わってるし嗅ぎたくない」

 ユーリがカイに不満そうに言った。嗅ぐとは。もしかして。

「大丈夫だ。あいつ怪我してただろ? 片腕をばっさり切られて血を流してた。それを追う」

 ナンパ男が倒れている位置に向かって、確かに転々と血のあとがついている。ユーリは身をかがめてそれに鼻を近づけ臭いを嗅ぐ。


「ユーリはワーウルフだから臭いには敏感なんです。人間の姿のままでもその能力は十分に発揮できる」

「こっち」

 ユーリが先導して歩いていくのに、俺達はぞろぞろとついていく。


 あの男が来た方向に歩いていくが、そこでもオークの破壊と殺戮の跡ははっきり残っていた。むしろ冒険者たちが駆けつける前に最初にオークが暴れていた方向だからか損壊が激しいように思える。


 あの男はここらの家に泊めてもらおうとしたのかな? それとも懲りずに村の娘に手を出そうとしていたとか…………。


「カイ。あの人の臭いは森の中に続いてる。……途中で血を流す量が変わってるから、森の中で怪我をしてその状態で急いで村まで戻ってそこでもう一回怪我をした」

 そういえばあいつの怪我してる箇所は切られた腕と、背中に刺さっていた剣のふたつだったか。どちらも大怪我だろうけれど、片方負った状態でしばらく歩けるぐらいにはあいつも体力のある人間だったらしい。


「それより。森の中で怪我をしたってことは、あいつは森の中に入っていったってことなんだよな」

「つまりどういうことだ?」


 ガルドスの相槌にカイは少しだけ思案してから答えた。


「推測ですけど、あの男達は抜け駆けしようと考えたんじゃないでしょうか。酒場に泊まりそこねていたみたいだし、あとついでに女を口説くのもうまくいかない。誰かさんのせいで」

「俺のせいじゃないですよね? どっちかというとカイのせいですよね?」

「まあうん。で、とにかくあいつは今夜の宿がなかった。そしてどうせ泊まる場所がないなら、翌朝やることを今夜のうちにやろうとしたんじゃないかな?」


 つまり、オークの討伐を他の冒険者よりもフライングして少しは進めようとした。あるいは誰にもわかっていないオークたちの野営地を一足先に探して翌朝より多く討伐できるようにしようとした。

そのどちらなのかは今となってはわからないが、結果は昨日のあれだ。途中でオークと鉢合わせしてしまった。



 ユーリは臭いをたどりながら森の中に入っていく。あの男の足取りを追って。

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