3-13 オーク退治
やることは昨日練習したのと同じ。リゼがオークの集団に手を向けて詠唱を始めたのを見て、頭の中で同じ詠唱を唱える。同時にオーク一体一体をそれぞれ捕捉。
――炎よ集え。燃やし、貫け。ファイヤーアロー!
瞬間、リゼの手から大量の矢が生まれてオーク達に飛んでいく。
胸、首、頭。急所を狙って射られたそれは俺の狙い通りに次々に刺さり、その体を貫いていく。全員が即死か、そうでなくても戦闘不能になっていずれ死ぬ状態になった。
「よしいける! 次!」
「頼むぞユーリ! 突っ込め!」
手応えを感じているリゼと次に襲いかかってくるオーク達に向けてこっちから接近を指示するカイ。
そして俺はオークに向けて二発目の矢を放つ。
結果は似たようなもので、一瞬にして十体あまりのオークが死んだ。ユーリが地面を蹴って走り、また別のオーク達に向う。ファイヤーアロー!
「すごいな。ここまで大勢を一度に捕捉できるファイヤーアローは初めて見た。なんで最初からこれ、使わなかったんだ?」
「え? えっと…………実はわたし、素性を隠さないといけない事情とかあって……」
「ああ、そうだったな……」
カイの当然の疑問に曖昧な答えをするリゼ。事情を深入りはしないと最初に言ってくれたカイは、少し寂しい表情をしながらも納得してくれた。
確かに村が襲われた時にこれを知っていれば、もう少し多くの命を救えたかもしれないな。俺もリゼもカイもそのことはわかっていて、だから多少の後悔はあるのかもしれない。だが、身の上と状況を考えると仕方なかっただろう。
それよりも今は目の前の戦いに集中だ。
ユーリの背中に乗って村の中心までどんどん進んでいく。本当にどれだけいるんだというくらい大量のオークを次々に炎の矢で射殺していく。
「っ! リゼ横だ!」
「え!? どこどこ!?」
「オオオオオオオオ!」
建物で死角になっていた位置からオークが飛び出してした。俺は慌ててそっちに意識を向けるが、詠唱をする必要はなかった。
矢が二本、そのオークに刺さって動きを止める。直後に俺のではないファイヤーボールが直撃してオークは死んだ。後方に目を向ければ、フィアナや他の冒険者がこちらに弓や魔法の杖を構えている。
「援護は任せろ! だからお前たちは好きなだけ暴れろ!」
後方でガルドスが声を張り上げた。他の冒険者や兵士たちも戦線に加わり、連携しながらオークを一体ずつ倒していく。領主はといえば戦場には立たずただ見ているだけなんだけど。あいつは何をしに来てるんだ。
そんなことよりもオークだ。村の中心の広場に俺達はたどり着く。
周囲からオークが一斉に迫ってくるが俺は確実にそれを殺していく。殺しきれなかったオークは他の仲間たちに任せればいい。
大きな斧を持ったガルドスがオークの腹にそれを打ち付けてかっさばく。領主配下の騎士が、別のオークの足を剣で切り裂き倒したところを他の兵士達がとどめを刺す。一体のオークに向け手次々に矢や魔法が放たれてこれを殺す。それぞれ奮闘してくれている。
炎の矢によって大多数が倒され連携が取れなくなったオーク達は、こちらが連携しながら戦いを仕掛けていくとあっさりと倒されていく。この怪物は個々の力ももちろん人よりは強いのかもしれないが、最大の脅威となる点はその数なのだろう。だからそこを叩かれると弱くなる。
冒険者達も兵士達も、次々にオークの死体を作っていった。もちろん、俺達が殺した数の方が圧倒的に多いのだけど。
「オオオオオオオオ!」
「ガルル……!」
炎の矢をまた撃った直後、オークが一体こちらに猛然と突進してくる。仲間の体を盾に使って生き延びたらしい。
すぐさま次を撃とうとしたところで、先にユーリが動きこのオークにぶつかる。この白い狼にオークは力負けして仰向けに転倒。その上にカイがと飛び降りて喉に剣を突き刺す。その間にまたこちらに接近してくる別のオークに俺はまた炎の矢を放った。
こちらを囲んでいたオークも短時間でほとんど片付く。オーク達は劣勢だと悟ったのかこちらに襲ってくる勢いもなくなってきて、ついに逃亡を試みる者さえ出始めた。どこに逃げる気かは知らないがさせる気はない。というわけでそいつも炎の矢の餌食となる。
戦いは思っていたよりもずっと簡単に終わったようだ。気がつけば生きているオークの姿は見えなくなっていた。
生きている人間と死んだ人間と死んだオーク。それから一夜にして廃墟と化した村だけが見える。
人間の死体はみんなあの夜に襲われた村人か冒険者のものであって、今回の討伐隊には多少の怪我人はいても死者は出なかったらしい。大勝利と言っていいだろう。
「うへー。疲れたー!」
「お前は何もしてないだろ。魔法使ったのはみんな俺だぞ」
「でも疲れたんだもんー!」
リゼは建物の壁に寄りかかって座り休憩中だ。周りからすれば、この戦いで大活躍したのはリゼであって俺ではない。俺の存在はせいぜいご主人様の補助とかその程度だ。
あれだけすごいファイヤーアローを何発も撃ったのだからそれは疲れるだろうと皆も納得しているようで、他の人たちは戦いの後処理をしているにも関わらずリゼだけ休憩することを許されている。まったくいい気なものだ。
「よう。この中に人はいるか?」
ガルドスが近づいてきて声をかけた。村の家々を回って、隠れていたりオークに監禁されていた人間がいないかを確認している途中なんだろう。
「いないみたいですね。それは確認しました」
リゼの代わりに俺が答える。その方がスムーズに会話が進む。
「そうか。ありがとよ。どうやら、生存者の数はそんなに多いわけではなさそうだな…………家の中に隠れて生き延びるなんてことが出来た奴は、いないらしい」
「そうですか…………」
「悔やんでも仕方がない。生きている人間は確実に救わないとな。できるだけ早く。…………だが」
ガルドスはふと空を見上げる。ちょうどお昼時といったところか。
「日が沈むまでまだ時間がある。あのファイヤーアロー、あと何発か撃てるか?」
「はい?」
また戦いがあるのかと尋ねる。そして、どうやら本当にそうらしい。
「最初にギルドに来た依頼。オークの野営を潰すってのもやらなきゃいけないからな。それも今日のうちにやっておきたい」
ああそうか。オークの拠点はまた別の場所にもあるはずなんだ。