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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第10章 盗賊騒ぎと伝説の魔女
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10-26 囲いの中

 方針は決まったから、さっそく実行だ。嫌がるリゼのお尻をフィアナがバシバシ叩いて、フラウに無理矢理乗せる。


「おいリゼ。しがみつくな。ちゃんと飛べないだろ」

「飛びたくないもん! 怖い!」

「諦めが悪いですよリゼさん。ちゃんと手を離さないとお尻叩きますよ」

「やだやめて! わかった! 飛ぶ! 飛びます! フィアナちゃん怖い!」


 とまあ、リゼも納得してくれたようでよかった。建物の屋上の端までゆっくりと歩いたフラウは、目標である反対側の端と、さらに向こうにある建物をしっかりと見つめる。そして走り出した。さすが狼、速い。全速力を出したその走りは、屋上の縁から落ちるかと思われた瞬間に急停止。

 そして乗っていた俺とリゼは、慣性に従ってフラウの背中から放り出される。勢いは十分。


「にぎゃー!? やだ! 助けて!」


 と、リゼも景気よく叫んでる。これだと敵に見つかるかな。でも大丈夫。滞空時間はそんなに長くないし、声を聞きつけた敵は周囲を見回すにしても頭上から見るのはありえない。

 そして実際に見つかることなく、俺達は目的の屋根に到着。風魔法を全力で発動することで、重力に従い屋根に激突する寸前のリゼの体が減速。あんまり痛くなさそうな感じで、着地に成功した。


「へぶっ! 痛い! ねえコータ痛いんだけむぎゅー」


 まあ、多少の痛みは仕方ない。相変わらず騒がしいリゼの口に手を突っ込んで黙らせる。

 フィアナの方を見上げると、彼女は両手で丸を作るジェスチャーを見せた。敵に見つかってないということ。もし見つかって騒ぎになれば、フィアナは今頃弓で敵を射殺している最中だっただろう。


「よしリゼ。ここからが本番だ。人質になってる人達を助けるのも重要だけど、まずはサキナだ。それからもうひとつ。敵は殺さないこと。住民が盗賊の格好をさせられてるっていうのもいるらしいからな」

「じゃあどうするの? 眠らせる?」

「それしかないな……」


 もし敵に遭遇すれば、睡眠魔法の出番だ。目についた人間を複数同時に眠らせることもできる便利な魔法。

 もちろん限度はあるけど。遠く離れた相手には届かないし、十人ぐらいまとめて眠らせることができるかといえばそうでもない。ひとりひとり補足しなければならない。

 つまり大量の敵に一斉に襲いかかられたら、眠らせて切り抜けるのは難しい。火球とか爆発で一気に殺すのは簡単なんだけどな。

 さて、じゃあこの場合はどう戦うべきか。いや大事なのは、可能な限り戦いは避けるということ。


「陽動。それからサキナに接触して、連れて帰る。捕まった人達も助けたいけど、それは合流してから出来そうだったら、って感じで」

「陽動ってどうやるの?」

「エクスプロージョン」


 俺が詠唱すると同時に、封鎖範囲内の建物がひとつ爆発した。中に人がいない建物を狙ったから、怪我人はいないはず。誰かの家が爆破されたって事実には少しだけ申し訳なさを覚えるけれど、元はといえば悪いのは盗賊どもだ。奴らを恨め。

 当然ながら盗賊は何事かと騒ぎ始める。爆発現場に複数の盗賊が向かっていった。

 一方で盗賊の中には、狼狽えて隣の仲間と顔を見合わせるだけで動かない者もいた。よく見れば彼の服装は、市民が来てそうな物をさっき汚して、急ごしらえでそれっぽく仕立て上げた物に見える。

 あれは市民だな。この状況でどう動けばいいのかわからなくて、ただ爆発に怯えるだけ。一方で爆発現場に駆け寄り周りに支持を出そうとしている壮年の男は、盗賊集団の中でもそれなりの地位にある人間らしい。


 フィアナの方を見る。高い建物の屋上で、姿勢を引くくしながら弓を引き矢を射る。盗賊のまとめ役と思しき男の首を矢が貫いた。高低差も距離も十分にあるのに、よく当てられるものだ。

 フィアナは二本目を放たず、身を伏せて隠れる。狙撃手の居場所は悟られない方がいい。だから連射して姿を晒し続けるよりは、隠れて散発的に攻撃した方がいいって事かな。


 敵の注意をフィアナから逸らすため、俺はもう二発ほど爆発魔法を炸裂させる。それぞれ離れた家屋を爆破して、敵の注意を分散させる。


「よしリゼ、行くぞ。サキナの隠れてる家はあそこだ」

「うう。行くしかないか……怖いけど……サキナさんのためだから……」


 気力はなさそうだけど、知り合いを助けるためになんとか立ち上げるリゼ。いいぞ、それでこそ立派な冒険者だ。

 今立ってる屋根の建物の中に侵入して、それから階段を下って外にでる。爆発させた建物はいずれもこことは離れた場所にあって、必然的に盗賊がこっちにくる可能性は低い。もし来るとしても。


「スリープ」


 と、少し詠唱すれば一発で眠る。いま眠らせた奴は、たぶん市民だと思われる。混乱に陥っている盗賊の中で、どうすればいいのかわからず狼狽えるばかりだったから。

 そのまま細い道を建物の陰に隠れながら進んでいき、サキナが隠れている家へ向かって。


「ありがとう。助けに来てくれたのね」

「うひゃー!?」


 その家に着く前に、途中の通りでサキナの方から声をかけられて、リゼは悲鳴をあげた。なんで外に出てきてるんですかと尋ねかけたけど、冷静に考えればサキナの行動は自然なものか。向こうも探査魔法で俺達の事は把握してるだろうし。


「ルファさんから頼まれて来ました! 心配してましたよ」

「そう。当然よね。でも街の危機を放っておけなくて。後で謝らないとね」

「ええそうです! というわけで、こんなおっかない場所からはさっさと逃げましょう!」

「いいえ。まずは捕まった人達を助けないと。さっきの爆発で、ここを包囲している兵隊達もなにかあったと思ってこっちに乗り込んでくると思うわ。そうなったら、間違いなく戦闘になる」

「そうなれば、人質の安全は保証されない、か……。兵士達はどこに人質がいるかもわからないから、すぐに助けに行くこともできない。ヤケになった盗賊に殺されるか、それか戦いに巻き込まれて被害を被るかも」

「そういうこと。さあ、行きましょう」

「やだー! にげるー!」


 ひとりだけ抗議するリゼを引っ張り、サキナは住民が捕らわれている建物へ向かっていく。


 俺がやってないから爆発は起こらず、それによる混乱は収まった様子。とはいえ確かに、包囲網の兵士達がざわめいているようだ。それと対峙している盗賊にも緊迫感が漂っている上に、盗賊に混ざっている市民の男達がそれに耐えられるかはわからない。

 盗賊から逃げ出し封鎖ラインの向こう側へ行こうとする者が現れれば、その時点で均衡は崩れ全面対決が始まるだろう。よし、急ごう。

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