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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第10章 盗賊騒ぎと伝説の魔女
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10-21 負け戦

 路上で陣形を組む盗賊の集団は、人数にして十数人。タイミングをずらしてこちらに矢を射掛けていて、さっきから絶えず防御魔法の障壁に矢が当たり続けている。この障壁を一旦解除して攻撃というのができない。

 弓の狙いの精度自体はそれほどでもないけど、連携だけは完璧に取れている。この統率力、やっぱりただの盗賊ではないと思う。


「カイ、どうする?」

「……このまま突っ込むしかないと思う」

「…………わかった」


 両者の間隔はみるみるうちに縮まっていく。さすがに近接戦闘になれば、奴らは弓を使えない。接触が近づくと、奴らは数人だけ弓を構える人員を残し、残りは槍や剣に武器を持ち替えて俺達に向けた。

 槍か。長い武器は森の中では取り回しが悪くて不便。この近辺に出没する盗賊の武器としてはありえない。こうやって路上で激突する戦いを想定していたわけで、やはり奴らは普通の盗賊じゃない。


 ああいう近接武器でも、防御魔法なら防ぐことはできる。とはいえ防げるだけで、こちらから攻撃することもできない。でかい障壁を持って突っ込むだけで、本当に突破できるかは疑問だ。やるしかないけど。


「よしユーリ! 全力で行け!」

「ちょっと待ってユーリくん! 落ち着いて! 突っ走るの良くない! 怖い!」

「いつも暴走してるお前が何言ってるんだ」

「ガウ!」

「あああああああ!!!」


 盾を俺の障壁の陰に隠れながら走るカイがそう指示をだすと、白い狼は一気に加速を始めた。リゼの悲鳴など無視して、敵の軍勢に一気に肉薄。

 敵の槍の先端と俺の障壁が激突。衝撃はあまりないけど、魔力が消費される感覚に襲われる。それに耐えて、なおも障壁を消すまいと必死に詠唱を重ねる。


 ユーリの勢いが勝った。というよりは、後ろに重い荷台を牽引している以上、ユーリを止めても突破は止まらなかっただろう。荷台は慣性に従って動き続け、ユーリは後方に迫ってくるそれから逃げるように、強引に敵を押しのけて前進した。


「今だ! 障壁解除!」


 カイの指示に従って、俺含めた魔法使いは全員が防御魔法を解く。そしてカイはといえば、盾で手近にいた盗賊を思いっきり殴った。それによって怯んだ敵に向けて剣を振り下ろして殺す。その死を確認する前に別の盗賊を殺していた。兵士達もおおむね同じような行動をしているようだった。

 防御魔法の硬さを当てにした力任せの突撃だったけど、それで敵の構えは崩れた様子。

 槍を構えた敵の懐に潜り込みながら、カイは敵の急所を的確に狙いながら次々に斬り殺していく。弓に槍と、間合いを詰められたら扱いに困る武器を持っていた敵は、混乱状態に陥りながら死者の数を増やしていった。

 他の兵士達もそれに倣う。道を塞いでいた敵を全滅させつつ、その横をユーリがかけていき突破。


 包囲網を抜け出してしまえばこっちのものだ。矢は後方からしか飛んでこず、荷台の後ろ側に回った味方の魔法使い達が幾重にも防御魔法を展開。追いすがる矢を落としながら、奴らとの距離をぐんぐんと引き離していく。

 盗賊共も、さすがに馬は用意していなかったらしい。とはいえ、自らの足で追ってくる敵もいた。

 ユーリは、走って街へ向かう味方の足に合わせた速度で走らざるをえず、必然的に全力を出せていない。走る兵士にしても冒険者にしても、行きも走ってたわけだし戦闘もしていた。疲労があるだろうけど、足を緩めるわけにはいかない。命懸けの追いかけっこだ。


「よしリゼ。荷台に飛び移れ。俺達も後ろ側の援護をする」

「無茶言わないで! 無理無理! 絶対無理!」

「やれ!」

「にぎゃー! コータのバカ! 悪魔!」


 荷台をユーリが引いてるわけで、両者は縄で繋がれてるとはいえ空間があって、しかも走行中。まあ、手を伸ばせば届く長さだからなんの心配もない。さあ動け。俺を乗せる砲台としての仕事ぐらいこなせ。


「わーん。後で覚えててよね! 泣くまでモフモフしてやるから!」

「怒るぞ。お前の顔にファイヤーボール撃つぞ」

「待って! それはやめて洒落にならない! やるから! コータかわいから機嫌直して! びえー!」


 バカが手を伸ばして、荷台を覆う布を掴む。中の御者がリゼの体を引っ張り入れてくれた。ほら、やってみれば意外に簡単だ。

 荷台の中を通り抜ける際、ギルドマスターの容態をちらりと見る。生きているみたいだから、とりあえずよかった。


 荷台の後方から顔を出すと、しつこい盗賊がなおも追いすがってくるのが見えた。弓で攻撃する相手は既に引き離してるようだから、追いつかれなければ大丈夫らしい。奴らも走りながら狙いをつける技量はないらしいからな。


「コータ! いくよ! ファイヤーアロー!」


 少し涙声ながらも、自信満々といった風に声を上げるリゼ。それに合わせて俺も詠唱。まるでリゼが放ったかのように、複数の炎の矢が現れて盗賊達に刺さる。

 敵は盾なんかは装備していないし、こちらにまっすぐ走ってくるだけ。狙いをつけるのは容易だったし、周囲の木々に引火することもなかった。

 敵集団のまとまった数がこれで死んで、後続もその死体に足を取られて大幅に速度が落ちる。そのままもう数発攻撃を繰り返したが、あまり意味はないようだった。


 その内敵も戦意を喪失したのか、追いかけて来なくなった。探査魔法を使っても、伏兵が潜んでいる様子はない。まあ、今回はその探査魔法を信頼した結果、敵に囲まれてしまったのだけど。


 探査魔法が役に立たなかった原因は後で考えるとして、とりあえずの危機は去った。披露しているらしい兵士達を休ませる意味でも、一度歩みを緩めた。

 ギルドマスターの怪我は深刻ではあるけど、死の危機は脱したようだ。魔法使い達が回復魔法を使ったことで、その怪我もたちまち治った。生きてさえいれば元気な姿に戻せるのだから、便利な魔法だ。


 意識を取り戻したギルドマスターだけど、一応は安静に寝ていた方がいいということに。その状態で、俺達は状況を説明した。

 撤退という結果や、街の騎士の死は彼にとっては悔やまれることだろうが、それでも俺達の判断と戦いについては正しいと言ってくれた。なにより、全滅することなく敵のやり方に関する情報を城まで持って帰れる事が重要だと。

 敵は思った以上に強敵で、本気で対策を取らないといけない。それも一刻も早く。放っておけば、敵はさらに増える可能性もあった。


 この作戦は負け戦なんだろう。だからこそ、次に繋げないといけない。

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