10-19 大規模討伐作戦
翌日もやはり盗賊退治の依頼を受けにギルドへ向かう。と、今日は少し様子が変わっていた。掲示板に張り出された、ひときわ大きな依頼書。城主からの直々の依頼だった。
「街の兵士と協力して、盗賊を一度に討伐する、か…………」
ギルドマスターらしき男も参加を呼びかけていた。できるだけ人手がほしいと。
城主からの依頼であれば、一定以上の報酬は約束される。大きな街だから冒険者の数も多いし、多数の戦力が動員されるようだ。俺達も参加しない手はないだろう。
「今日と明日の二日かけて、領内と周辺の領地の盗賊を一掃する。今日はザサルの北側と西側。明日は南側と東側。もちろん今日の時点で、南東方向にも一定の兵隊を置いて通る商人は守る。そっちの護衛に参加する冒険者にも報酬はでる、と」
「つまりどういうことだ?」
「外国から来る荷物の方を先に守りたいって事だ」
なるほど。西側、隣国から来る荷物の方が高価な傾向にあるんだっけ。それに国家間の貿易品だもんな。そもそも東側の方が盗賊が多く出るらしいし、そっちを優先するのは道理と言える。
もちろんそちら側に大量の戦力を投入した結果、反対側を行き来する商人が全滅するのはまずい。だからそっちにも兵力を置く。
どっちが楽な仕事かといえば、そりゃ西側だな。どっちにしても盗賊が出没するのは変わらないし、だったらこちら側の戦力が多い方につく方がいい。たくさんの冒険者の陰に隠れつつ、適時顔を出して敵を討ち取ろう。そしてそれなりの報酬を受け取ろう。
そんな感じで軽く討伐隊に参加したんだけど………。
「にぎゃー!」
「落ち着け! 大した敵じゃない!」
「でも! 矢が! いっぱい降ってくる!」
リゼがそう言った直後、足元に矢が刺さる。俺は慌てて防御魔法を展開して次にくる矢を防ぐ。それから一瞬だけ解除して、隣にいる弓使いの冒険者が矢を射る暇を作る。そいつはフィアナと比べると少々腕が落ちるようで、残念ながら放った矢は敵に当たらなかった。
じゃあ俺達の頼れるフィアナは何をしているのかと言うと、しっかり戦ってくれている。持ち主を亡くした馬車の荷台を盾にして、他の弓使いや魔法使いと一緒に敵を狙って攻撃をしている。
それは正確に敵を狙えているけれど、向こうも森の木々に身を隠しているし、大きな盾だって装備していた。敵を確実に殺せるかどうかは別問題だ。
やはり近接戦に持ち込んだ方が、決着は早くつく。狼形態になったユーリは盾になってる馬車を押して、じりじりと敵の陣へ接近させているけど、案の定奴らが道に横たえてた丸太を乗り越えさせるのは不可能。
カイもまた、敵の矢に倒れた兵士が使ってた盾を用いて、他の盾を持った兵士と一緒に、フィアナ達を背後から狙う敵から味方を守っていた。
そう、背後にいる敵も注意しなきゃいけない。つまり、あの馬車を盾としてる集団を始めとして、俺達は敵に囲まれてる状態だ。
で、俺とリゼは何をしてるのかと言えば、地面に倒れている人間を運んで、安全圏まで退避させようと試みてる最中だ。
「ねえ! この人の体重いんだけど! 太ってる!」
「いや太ってない。鍛えてて筋肉質なだけだ。筋肉って重いんだぞ」
「どっちでもいいけど! こんなのわたしだけで運ぶのは無理です! コータ手伝って!」
「馬鹿言うな! こっちだって手一杯だ! ていうか俺も力仕事は専門外!」
敵の矢がビュンビュン飛んでくるのを防御魔法で防ぎながら言い合う。見かねた、同行していた弓使いが手伝ってくれたから、ゆっくりとだけど動かすことができた。鍛えてて大柄なこの男、ザサルの街のギルドマスターの体をズルズル引きずりながら馬車の方へ持っていく。
ギルドマスターの腹には矢が一本刺さっていた。だから倒れて動けないのであり、指揮官である彼がこんなだから、それに従うべき俺達は絶賛混乱中だ。
もうひとりの指揮官である、街の兵士たちを率いる騎士の男がいたのだけど、そいつは顔面を矢で射抜かれて既にこの世の人間ではない。
さて、なんでこんな事になってるのかと言えばだ。
街の東側の城門に集合した俺達は、まずは数人いた魔法使いの冒険者と共に、探査魔法で敵の位置を探ることにした。
確かに盗賊の数は多かった。そして、その大量の盗賊がひとつの商隊に襲いかかってきた。それも大規模なものではない。馬車数台だけで構成されるそれに、数十人の盗賊が迫っていたのだ。
場所は、ザサルの領内。それも隣の領地との境目近くではなく、ここから人の足で走って三十分ぐらいの地点だった。境界付近でないことは謎だったけれど、無視するわけにはいかない。
俺含めた数人の魔法使いからの情報を聞いたギルドマスターは、案の定その商人の救出に向かう決定をした。どうやら魔法使いの中にその商人の知り合いがいて、それなりに重要な荷物を運んでいるという情報も得ていたらしい。
街の利益を考えれば、助けないわけにはいかなかった。
商人達が盗賊の大群に対して持ちこたえている間に、俺達が到着できるかどうかは微妙な所だった。その商人にも護衛はいたのだけど、なにしろ盗賊の数が多かったから。
それでも、当初想定されていたよりは少ない数だったのだけど。探査魔法で見渡す限り、街の東側にいる盗賊の人数は五十人ほど。そのうち半数ほどが、例の馬車におそいかかっていた。けれどギルドの事前の予測では、この範囲にもう五十人ほど敵がいるはずだった。
その事をもう少しよく考えるべきだったかも。けれど騎士さんもギルドマスターも、特に疑問には思ってなかったようだし。だったら俺達もその判断には従うべきだ。
俺だって、探査魔法に映ってないのなら、そこに人間はいないって思ったわけだし。他の魔法使いだってその意見は同じだった。
かくして商人の救出のために俺達は走った。商人の所にはギリギリの所で間に合い、荷馬車を弓で攻撃していた盗賊共をこちらの圧倒的な戦力で一気に押し戻した。
たぶん敵を十数人殺した所で、奴らは森の中に逃げ出した。とりあえず商人の安全は確保できたものの、俺達の目的は盗賊団の一掃なのは変わりない。森の中に逃げ込んだ一団を追うために、ギルドマスター以下数人の冒険者が走っていった、その瞬間だった。
今まで探査魔法に引っかかっていなかった盗賊達が、一瞬にして大量に現れた。しかも、俺達を完全に包囲する形だった。




