10-11 盗賊退治の後始末
敵襲! 生き残りの男の片方がそう叫ぶ。道の向こう側にいる味方に知らせるためだろう。
その直後、声を出していた男の喉を矢が貫いた。それから俺も、正確な狙いの風の刃で最後の一人を切り裂く。
対岸の盗賊達に俺達の存在は伝わっているだろう。けれど人数やどこから来たのかなんかは把握できていないはず。それでも、向こう側には見張り役の盗賊がいる。俺達の姿が見えないなら、森の中に隠れているって推測は出来ているはずだ。
森の向こう側からこちら側に、矢が数本を射られた。狙いもろくにつけていないそれらが、しっかり木に隠れていた俺達に当たるはずがない。けれど下手に動けば、向こうの見張りに見つかる。まあそれで、すぐさま集中砲火を受けてやられるってことはないだろうけど。
「コータ。身を隠しながら狙えるか?」
「できなくはない……」
俺はその見張りの姿がよく見えるから。探査魔法で方向だけ見て、風の刃で殺して落とす。そんな方針でいこうとした。
探査魔法を発動した直後に、その必要はないと判明したけど。
「ウインドカッター!」
そう叫んだのは俺ではない。遅れて射程範囲内に到着したルファの馬車から、サキナが放ったものだった。
それは見張り役の体を支えていた木の枝をばっさりと切り落とす。最初からそのつもりだったのか、あるいは殺そうとして狙いが逸れてこうなったのかはわからない。確実に言えることは、これによって見張りの男は数メートルも不意に落下することとなり、落下地点にいた他の盗賊達にも多少の混乱が起こったということだ。
「よし今だ! ユーリ斬り込みに行くぞ!」
剣を抜くカイと、駆け出すユーリ。道をあっという間に抜けて、敵陣に切りかかる。相手は迫ってくる敵に対して矢を射る余裕も無かっただろう。
向こう側で指揮を出す役目を負っていたらしき、年上で強そうな男の首を、カイは真っ先にはねた。その勢いのまま別の男の体を蹴り倒し、踏みつけて動けなくする。今踏みつけた男を見ながら、手だけを動かして剣を振る。三人目の腹をそれで掻っ捌いた。それから最後に、もうひとりの敵の頭がユーリによって踏み潰されているのを見てから、足で押さえている敵の喉を剣で突く。
落下した見張りの男は、その衝撃で首の骨が折れているようだった。すでに事切れている。
「本当は、一人ぐらい生け捕りにして事情を訊きたいところだったけど……それまでの余裕はなかった。足で押さえてた奴も、すぐに脱出しようと暴れてただろうし……俺もまだまだだな」
「いやいや。十分すごいから」
俺には絶対に真似できない。ここで謙遜されても嫌味になりかねない所だけど、カイはそういう奴じゃないからな。
とにかく、敵は壊滅させた。探査魔法を使っても、別の敵対的な人間は見つからない。ついでに、危険な野生動物なんかもいない。
「いやー。皆さんには助けられてばかりですね! さすがリゼさん達は頼りになります!」
「えへへー。そうですよね! わたしって優秀ですから。あはは。もっと褒めてもいいんですよ」
「調子に乗るなバカ」
ルファ達の馬車とも合流。無事でなによりである。
「久しぶりね! 会いたかったわユーリ。 でもホムバモルからこんなに離れた所で会えるなんて、やっぱり運命なのかしら」
「そうかな。運命はわからないけど、でも、僕も会いたかった」
フラウはここぞとばかりに、親愛なるユーリに抱きついている。リゼはさっとお尻を手で押さえた。ほら、またフィアナがふたりの様子を見てるぞ。
さて。再会を喜ぶのはいいとして、ここでやる必要もない。そういうのはもっと落ち着いた場所でやるべきだし、ここは少し血なまぐさすぎる。盗賊団の討伐報告をギルドにしなきゃいけないし、一旦街に戻ろう。
「あ、そうだ。ルファさん街まで乗せてください! あと、討伐証明として死体を運びたいので馬車に乗っけることはできますか!?」
「の、乗せるのはいいですよ。ええ、もちろん。リゼさんの頼みを断るはずがないじゃないですか。ははは……」
リゼのお願いに、ルファは少し引きつった笑みで答える。そりゃ、死体運びなんてあんまりやりたい仕事じゃないよな。
「あとルファさん。この盗賊達のアジトを、今日の午後か明日にでも探さないといけません。その時、同行しますか?」
「是非とも!」
依頼主の商人は、奪われた荷物なんかを取り返したいから依頼をしてきたわけで。それはおそらく奴らのアジトにあるはず。そしてルファは、そっちは快諾した。
そりゃな、アジトには他にも、金目のものがあるかもしれないからな。それをこっそり貰うのはありだからな。
そのままルファの馬車に揺られて、ザサルの街に戻っていく。依頼主に討伐完了の報告をした時には昼過ぎになっていたけど、その商人は積み荷の確認を急ぎたがった。気持ちはわかるけど、ちょっと慌ただしい。
盗賊どもの死体をギルドに引き渡して、ルファの馬車で現場まで取って返す。ユーリの鼻で奴らのアジトを見つけた時には、日が傾きかけていた。
「この洞窟で間違いないのか?」
「臭いを、たどった。盗賊の臭いが、ここまで続いてるのは間違いない」
「そうか…………うーん……」
その洞窟の様子を見ながら、カイは首を傾げる。カイと一緒に盗賊団のアジトを見たのは、これ以前だと一度しかない。けれどカイはこれまでの冒険で、もう何度か見てきたのだろう。
その経験から、このアジトに何か違和感を見つけたらしい。
「きれいすぎるんだ。長い間、この場所を拠点として使ってたようには見えない」
「最近できた盗賊団ってことか?」
「あの規模の盗賊集団が、急にできるものかな……」
とはいえ、盗賊討伐の依頼が急増してるということは、新しく出来たって考えるしかないだろう。それか、余所から移ってきたというのもありえるけど。大きな街の近くの方が盗賊稼業がしやすいとかで。
そのアジトは、確かに以前見た物とは違っていた。カイの言う通りきれいすぎるというか、生活感がない。
ろくに風呂も入らない男達が暮らしていたために、岩肌にこびりつく臭いとか。片付けられていない食べ残しが腐敗する臭いとか。そういう物が感じられなかった。
ゴミ自体があまり目につかないし、粗末だけど武器が置かれているスペースは妙に整然としていた。
そういうのをひっくるめて、きれいすぎるというわけか。




