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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第10章 盗賊騒ぎと伝説の魔女
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10-5 不可解な統率力

 助太刀すると宣言したし実際そうしたけど、突然現れた通りすがりの冒険者である俺達に、商人やその護衛は戸惑いの目を向けた。

 まあそうだよな。いきなり出てきて人間を何人か殺していく集団とか、普通は警戒するよな。


 それでも、俺達が彼らの危うい所を救ったのも事実。護衛の中のまとめ役の男が、とりあえず手伝ってくれと頼んできた。

 いずれにしても、目下対峙してる敵の排除が優先だし。


「敵の半数は向こう側にまだいる。それで膠着状態だ。こっちで戦闘が起こっているのは把握してるだろう。戦況まではわからないだろうが」


 膠着状態ということはつまり、姿を隠しながら弓を構えあってるということ。無線通信なんてものは無い世界だから、道一つ挟むほどでも視界が阻害されてれば、向こうの戦況はわからないものか。

 さて、下手に向こうに姿を晒せば、一瞬で矢の餌食になるだろうけど。


「ちなみにですけど、護衛の中に魔法使いは?」

「いや。いない」

「盗賊団の中にも……いなさそうですね。魔法が使えたら、盗賊なんてしないか。よし、リゼ」

「へ? わたし?」


 作戦を考えるカイから急に声をかけられて、リゼは首をかしげる。




「盗賊団の皆さん、こんにちは! わたしはリゼです。見ての通り優秀でしかもかわいい、すごい女の子でにぎゃー!!」

「プロテクション」


 なんの策もなさそうに、変な女がいきなり姿を現した。盗賊達は一瞬だけ反応に困った様子を見せてから、とりあえず矢を放った。俺はすかさず防御魔法を唱えてリゼを守る。


「よしいいぞ! そのまま敵陣まで走れ」

「無茶言わないでよ! 怖い!」

「うるさい。カイの言うとおりにしろ」

「にぎゃー! わかった! わかったから!」


 リゼの頬を引っ張り、走らせる。奴らが隠れている森の方へ。当然ながら盗賊は、俺達を止めるべくさらに矢を射る。しかし俺のシールドは、普通の矢で貫けるような脆い物ではない。

 そして、奴らが次の矢をつがえるまでの隙を見逃すカイではない。


「今だ! かかれ!」


 その号令ととともに、俺の防御魔法で身を守りながら敵陣まで走っていく。近接武器を持った護衛達もあとに続く。

 盗賊達は慌てて弓を捨て剣を取ったけど、大幅に対処が遅れた事は変わらない。カイ達によって短時間で切り伏せられてしまった。




「本当に、なんてお礼を言ってよいのやら。あなたがたのおかげで助かりました」

「いえ、俺達は当然のことをしたまでです」


 商人や護衛達は俺達の事を信用してくれたようで、かなり感謝された。

 彼らはやはりザサルへの商売の途中の商人で、俺達と行き先が同じと知ると、そこまで馬車に乗せてくれることになった。

 向こうとしても、また盗賊なんかに襲われた時の戦力として期待されてるのかも。まあそうだとしても、目的地まで歩かなくていいと言うのは楽でいい。

 ギルドを通さない同行だから報酬は出なくても、食事ぐらいは奢ってくれるそうだし。



 そして馬車に揺られながら、さっきの襲撃について詳しい話を聞く。


「待ち伏せされていたっていうのはわかる。だが、森の中にあれだけの軍勢を待機させていたっていうのが、わからない」


 護衛のまとめ役の男が、俺達にそう説明した。大きな剣を背負っている、いかにもベテランですっていう雰囲気の男だ。


「確かに、あの数を隠すのは難しいですよね。それも一斉に襲いかかれる配置で。盗賊団にしては、統率力があるってことでしょうか」

「そうだな。というか、手慣れてるんだ。俺達を待ち伏せして、先頭の馬車の前にいきなり丸太を転がして道を塞いだ」

「人の手で? それとも、道具を使って?」

「先頭の御者の話では、数人がかりで丸太を運んで道を横断するように置いて、すぐに森の中に退避した」

「盗賊がそういうことを、思い付きでやってみるのはあるかもしれません。でも聞く限り、よく訓練されてますね」

「そうなんだよな。盗賊にしてはありえないぐらいにな」


 なるほど、奴らはそうやって、長い商隊を止めたのか。人が立ち塞がっただけなら、割と簡単に排除されそうだもんな。これがでかい丸太なら、馬はともかく馬車は乗り越えられない。一旦止まるしかないわけだ。

 そしてカイと護衛の男の会話を聞くに、奴らはただの盗賊ってわけでもないようだ。ふたりの会話はさらに続いて。


「そもそも、ここら辺であの規模の盗賊団が突然出たきたのも妙だ。そりゃ、大きな街の近くだ。そしてザサルの領内だとギルドから討伐依頼が出やすいから、隣の領に盗賊がいるのはわかる。だが……」

「あの規模だと、それなりに名が知られた盗賊団になるはず、ということですか?」

「ああ。だが聞いたことがない。俺もこの商隊の護衛として付いていって長いが、この道にあんな盗賊団がいた事はない。噂すらない」

「複数の盗賊団が合わさって、ひとつの大きなまとまりになったというのは?」

「そういう事もありえなくはないが…………」

「そうですよね。その割には統率が取れてたんですよね」

「そうだ」


 どうも話を聞く限り、あれは盗賊団ではない。少なくとも護衛の彼は、そういう結論を出したがってるように見える。


「奴らの使ってる弓。ちゃんと見たわけじゃないが、どうもしっかり作られてる物に見える。森の中でありあわせの物で作ったのではなく、街で職人の手で作られた物……だと思う」

「街で? でも盗賊は」

「そうだ。奴らは街には入らない」


 盗賊とは、何らかの事情で街の門の内側で生きるのを断念した者達。人付き合いに嫌気がさしたとか、法に縛られるのが嫌とか、非道を行うのが好きとか。


 そういう奴らが、わざわざ街の門をくぐることはあるだろうか。

 あったとしても、そこで手に入れるのが女や酒やうまい飯ではなく、人数分の武器というのはありえるだろうか。


「つまり、奴らは盗賊じゃない。訓練されて武器も規格化された、軍隊だ」

「…………」


 男の、断定に近い仮説。カイが肯定も反論もしなかったのは、その説が信じられない一方で、ある程度の説得力を持っていると思ってしまったのだろう。



 そうとも。普通に考えれば軍隊はありえない。軍隊といえば兵士の集まりで、領主なり城主なりに仕える者だ。


 自領の民を守るのが仕事。当然ながら、領を通行する商人を襲うなんてありえない。

 兵士を盗賊に変装させて略奪を行う。そして領地の財産の足しにするなんて方法は、正直うまい話かもしれない。けど明るみに出たら、国からどんな処罰が下るかわからない。


 護衛の男の話によれば、この街の領主はそういう事をする輩ではないという。この商隊を率いる商人にとってはお得意様だし。

 通り道になら、そこに販路を広げるのは当然のこととして、ここの領主や軍隊が商人を襲うことはありえないか。


 でも盗賊でもないとすれば、奴らの正体はなんなのだろう。



 なんとなく、俺には答えが思い浮かんでいた。でも、あんまり関わり合いになりたくない相手だな。

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