10-3 徒歩の旅
残念ながら今回の旅路は徒歩によるものとなった。都合よく護衛を募集してる商人もいなかった。
前回のルファの件は、あれは少々特殊な例だもんな。普通は商会が突然解散するなんてことは無いもんな。そんな事があれば、それこそ大問題だ。
幸い、ザサルまではそんなに離れていない。いくつかの小さな街を経由しつつ、十日ほどで着くとのこと。
狼化したユーリに乗って全力で走らせれば、もう少し短縮できるかも。でも、ユーリひとりにだけ負担をかけさせるわけにはいかないな。みんなで歩こう。
「やだー! 早く行きたいー! ユーリくんに乗るー!! うひゃん!?」
案の定駄々をこねたリゼのお尻を、フィアナが叩いて黙らせる。この子は大体ユーリの味方をしてくれるから、わかりやすい。
「うう……フィアナちゃん、ひどい……。もちろん、わたしだってわかってるよ? ユーリくんにだけ頑張らせるのは良くないって。でもわたしも、早くザサルに行きたいの。自分の魔法の事だから、早く手がかりを見つけたいの」
「それは……気持ちはわかりますけど……」
「フィアナ騙されるなよ。楽したいのも自分の事知りたいのも、どっちもリゼの個人的願望だからな。というか早く行きたいなら、自分の足でとっとと歩け!」
「にぎゃー! わかった! わかったから! 歩くからー!」
リゼの頭に乗って、ポカポカとぬいぐるみパンチをお見舞いする。別に痛くはないだろうけど、ずっとされてたらウザいだろうな。
リゼは渋々といった様子で歩きだした。それを見て、残りのパーティーメンバーもついていく。
途中で盗賊なんかに襲われる危険はあるだろうから、探査魔法で周囲を警戒しながらの旅となった。
国内で五番目に大きな都市から二番目に大きな都市に向かう道だ。人通りはそれなりにあるし、商人や他の旅人とすれ違ったり追い越されたりもした。
そういう輩を狙って、盗賊団が悪事を働いたりするんだよな。
重武装の商隊を襲う、これまた重武装の盗賊団というのもいるかもしれない。けれど奴らも、自分達に被害が出るのは避けたいと思っているはず。自然に狙いは、小規模な商隊とか、旅人に向かっていくことになる。
一番の狙いはひとりで行動してる旅人なんだろうけれど、俺達みたいに女の子が多いパーティーも狙われやすい。というわけで、警戒は怠らない。
とまあ、野営したり途中の村に泊まったりで、道程の半分は平穏な旅になった。
とはいえ油断は禁物。こういうのは、大きい都市に近づくほど危険になるのだから。当然といえば当然。大きい都市に出入りする人間のほうが財産を多く持ってる可能性が高い。都市の豊かさは、そのまま住民の豊かさだ。
実際、ザサルに近づくに連れて、道中ですれ違う旅人や商人も増えていった。商人は規模が大きくなっていくし。
人通りが多い分、盗賊団は出没しにくいとも考えられる。でも、道中で孤立してしまう瞬間っていうのはあるしな。俺のいた世界と比べても、道の交通量はずっと低い。奴らはそこを狙う。
でまあ危惧していた通りに、盗賊団と関わってしまう時が訪れたわけで。
その日は、ザサルに隣接する領の村に泊まらせてもらった。
徒歩でザサルに向かうとすれば、あと三日ほどかかるはず。間にある村や街を経由すれば、その三日間は毎晩宿に泊まれるから、野宿は免れる。
一晩中交代で起きて周囲の警戒をするのも大変だから、それはとても助かる。
その村では、同日に大規模な商団が宿泊する予定だった。詳しく話を聞いたわけじゃないけど、俺達と同じくザサルが目的地なんだろう。
そんな大量の客人がいれば、村の宿屋なんてあっという間にいっぱいになる。村の中で野宿なんかの、嫌な思い出の再来が…………なんて考えてたら、そうはならなかった。
この村には宿屋が二件あって、しかも宿泊可能人数の多いものだった。
大都市が近いなら、こういう大規模な客は頻繁に来るのだろう。そして村が、そういう客人を見逃すはずがない。村の大事な収入源なのだから。それ故、宿屋のキャパも多くしてある。
「えへへー。やっぱりベッドで寝れるのが一番だよねー。柔らかい布団にくるまって、あたたかいコータを抱きながら寝るのが通のやり方です」
「ぐえー」
部屋に入るなり、俺を抱きしめてベッドに飛び込むリゼ。やめろ行儀の悪い。あと苦しい。
「なにが通だ。人を抱きまくらにするんじゃない」
「えー。でもコータはわたしの使い魔で、使い魔と主人は仲良くするのが普通なんだよー?」
「だったら、仲のいい使い魔を……両腕で押し潰そうとするな」
一瞬、無い胸でと言いかけたけど、さすがにやめておいた。本人もちょっとは気にしてる事らしいし。女の子相手に言う事じゃないし。
「リゼさんは、本当にコータさんのことが好きなんですね」
「そうだよー。大好きだよー!」
「大好きなら、早く離して……苦しい…………」
とまあ。そんないつものやり取りがありつつ、その日は平穏に終わった。
翌日。相変わらず寝起きの悪いリゼを叩き起こす。早くザサルに行きたいとは何だったのか。
どうやら商隊は俺達よりずっと早起きだったようで、朝食を食べている時には村を発っていた。
彼らも早く商売をしたいのだろう。納期が早い方が喜ばれるというのは、俺の世界でも同じだった。
さて、俺達ものんびりはしていられない。あんまり出発が遅いと、今夜泊まる予定の街に着けない。ここまで来て野宿は御免だ。
というわけでリゼの頭をバシバシ叩いて、村を出る。
ここから街までは、森の中の道を通る事になる。森の中には盗賊が潜んでいる可能性もあるから、今日も探査魔法を発動させる。
俺たちの周りにはいない。じゃあこれから行く場所にはと、進行方向に視点を動かしてみる。俺達よりも先に出発した商人達がいる方向だ。
「カイ。盗賊団がいた」
「どこにだ?」
「俺達を狙ってるわけじゃない。あの大きい商隊を狙って、待ち伏せしてる」
「…………ということは」
「めちゃくちゃ大きい盗賊団だ。あの人数に喧嘩売れるんだからな。商人達全員殺して、積み荷を奪って豪遊するとか、そんなこと考えてそうな奴!」
探査魔法で見た視界には、確かに大量の男達が森の中に潜んでいた。かくれんぼするのが趣味の集団とかではないだろう。
「よし、助けに行こう。ユーリ!」
俺達のリーダーは、こういう時に人助けをためらわない。狼化したユーリに乗って、急いで商人達のもとへと向かう。




