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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第10章 盗賊騒ぎと伝説の魔女

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10-2 次の城塞都市へ

 とはいえ、他に手がかりがあるわけでもなく。少しでも記述がないかと、手当たり次第に本を持ってきては開く。


 図書館で働いてる司書さんにも尋ねてみたけど、ケイラニアなる魔法使いのことは知らないそうな。

 たぶんこの世界の図書館の職員の仕事は、利用者の手助けではないのだと思う。高価な品である本を盗もうとする不届き者から、蔵書を守る。つまり警備員みたいなものなんだろう。


 それはさておき、調べものは続く。一日図書館にいて、ふと外を見ると日が傾きかけていた。そろそろ帰った方がいいかな。そう思ってリゼの方を見る。

 いつになく真剣な表情で、巻物本を睨んでいるリゼの姿が目に入った。



 クレハはリゼの性質を見抜きつつ、優秀な魔法使いと言った。魔法が使えなくても優秀。使い魔に魔力を授けることができるから優秀。


 俺だって、前に疑問を持った事があった。

 俺の魔力はどこからくるのか。俺自身からなのかもしれない。けれど、どうも腑に落ちない。俺は魔法なんかとは縁のない、ただの人間だったのに。

 魔法だけじゃない。俺は魂だけの存在になってぬいぐるみに憑依してる状態とはいえ、こうやって物を考えたり、動いたり喋ったりできる。そのエネルギーはどこから来るのか。


 物に憑依している使い魔は、普通なら主人である魔法使いから魔力を供給されて生きている。つまり俺の場合はリゼなわけで。

 あの無能が、俺の魂を生かしている上で、普通の魔法使いじゃありえない程の大規模な魔法を当たり前のように放てるようにしている。

 ちょっと想像はつかない。けど、それ以外に考えられないのも事実。リゼはまさか、俺達が思ってるほど無能では…………。


 リゼ自身も、同じ事を考えてるのかも。自分が本当は何者なのか、それを知るヒントを偶然にも得られた。

 必死になるというものだ。



「おおおお! あったよ! コータ見て見て! ケイラニア!」

「うるさい。静かにしろって何度も言ってるだろ」

「にぎゃー!?」


 ああ。無能じゃないかもしれないけど、馬鹿なのは間違いないな。リゼの口を塞ぎながら、俺はため息をついた。



 ケイラニア・ロザヴァトス。今から約千年前に生きていた魔女。

 ということは、伝説の魔法使いアーゼスと同じ時期に生きてた事になるけれど、両者の繋がりは確認できなかった。少なくとも、見つけた資料の中には無い。


 その資料とは「魔法史人名録」なる長い巻物本だった。同じ種類の、魔法に関わる人物を列挙した辞書や百科事典も多く探したけれど、他にはケイラニアに関して書いた本はなかった。

 この人名録が、クレハの観た資料なのかはわからない。この手の本をゴーレムの勉強に使うっていうのも、あまりないだろうし。


 その人名録にしても、ケイラニアに関する記述は極わずかだ。

 体内に膨大な魔力を保持しているものの、魔法を使う才能はなかった。しかし使い魔を通すことで、普通の魔法使いと同程度の魔法を駆使できるようになった。ザサルの街で生まれ育ち、そこで生涯を終える。


 クレハから聞いた情報、ほぼそのままだ。魔法が使えない魔法使いが、確かに実在したという確証は得られたけれど。


「次の目的地が決まったな」


 カイが静かに、けれどみんなに聞こえるようしっかりと言う。誰も反対する者はいなかった。

 ついてきてくれるんだ。今更だけど、いい仲間を持った。


 ケイラニアが生きた土地なら、さらにわかることがあるかも。そこは大きい都市だから、図書館の資料も膨大だろう。あるいは首都と同じく、歴史を研究する人間だっているかも。


 次の目的地は、城塞都市ザサル。この国で、首都に次ぎ二番目に大きな都市だ。

 あとはまあ、建国の英雄レメアルドの傍系の子孫が潜伏していて、新たなレメアルド王国を作り出そうと画策してるとか。いわゆる不穏分子の起こした騒動も記憶に新しい。


 そんな場所に、次は向かうことになる。まあ大きい街だから、潜伏している不穏分子と関わり合いになることは無いと思う。無いよな。無い事を祈ろう…………。




 さて、一応俺達は事件の後処理に関わる人間だ。

 事情聴取は終わったとはいえ、また呼び出される可能性もある。出ていくにしても、お城には一言言っておかなきゃいけない。

 壊した城壁の後片付けをしろと命令されるかもしれないしな。


「街を出たい? ああ。好きにしてくれ」


 とまあ、シュリーの取り次で城主の補佐官とやらに会った所、そんな返答が帰ってきた。

 なんだよ。別に引き止めてほしかったわけじゃないけど、これはこれで寂しい。なんて、面倒くさい奴みたいな感想すら抱いた。さすがに口にはしないけど。


 どうやら向こうも、俺達のことを厄介者だと思ってるらしい。街から出ていくならその方が好都合だとか。

 失礼な。俺達だってゲバルの陰謀に巻き込まれた被害者だぞ……とは言いたくなったけど、さすがに口にはしないぞ。



 とにかく、街を出る許可は降りた。では早速出発の準備だ。荷物をまとめたりお世話になった人に挨拶したりと、少し忙しい時間を過ごして、数日後にようやく旅立つ日を迎えた。



「本当にお世話になりました。ジストと結婚できるようになったのは、全部リゼさん達のおかげです」

「ありがとうございました。アイアンゴーレムの生産体制も、工房で整いつつあります」


 クレハとジストは城門まで見送りに来てくれた。そして、ずいぶん感謝されてしまった。

 思えばアイアンゴーレムの体を作ったのも、魔法陣を完成させたのもこのふたりだ。俺達はその手助けをしただけ。あと荒事を解決したり。

 ふたりの成果なのは間違いないから、もっと胸を張ってほしい気持ちもある。けどこの謙虚さも、ふたりの魅力なんだろうな。



「また旅立ちの時だね若者諸君! 大丈夫、この街で見つけたあれこれの処理は、全部あたし達に任せてくれたまえ! 特にアーゼスの印章は、なんとか城主に見つからないように首都まで持って帰るから」

「おやめなさい。ちゃんと城主様に報告しますわよ。この街であなたがやったことを考えれば、これ以上悪さを重ねることはいけません!」

「うへー。マルカは真面目だなー」


 シュリーとマルカも見送りに来てくれたけど、別れも三度目となれば随分気楽なものだ。このほうが、らしいと言えるだろうけれど。


 そんな感じで、お世話になったこの街ともお別れ。またいつか訪れたいという気持ちもありつつ、西に位置するザサルへと旅立った。

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