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3-10 領主の悪癖

 領主様は若い頃から女好きとして知られていた。

 金は持っていたから娼婦を買うなんてことはいくらでもできる。そのうち娼婦では満足できなくなって、金で誘って街や村の娘にまで手を付け始めた。一度正式に妻を持っていた二十年ほどの間はおとなしくなったらしいが、その妻も数年前に亡くなった。すると立派な年齢の跡取り息子がいるような歳にもかかわらずその趣味は再発したという。


 時折街にくりだして女をあさっては自分の屋敷に連れ帰る。領民の姿を見て治世に活かすという名目で領地の村々を周り、やはり女を探す。

 連れて行かれた女は殆どの場合戻ってこないらしい。領主の使用人とか妾とかそういう立場で贅沢ながら退廃的な暮らしをしているとの噂だが、実態はわからない。見た人がいないのだから。

 さらに、跡取り息子も同じ趣味を持ってしまったのか、ここ数年は親子で似たようなことをしているらしい。


「あの人達が村にやることと言えば、本当に村で女の人を探すだけなんですよ。ひどいと思いません?」

 俺とリゼにだけ聞こえるようにフィアナが言った。なるほどな。これなら領主とやらが、村の住民から極端に評価が低いのも納得だ。そんな話しが一通り終わったところで、ちょうどギルドの近くまで着いた。


「ほら、あれが領主だ」

 ギルドの前の通りに男が立ってなにやら演説をしていた。話に聞いていた通り初老の男性。若くもないとはいえ、それを考えてもお世辞にもいい男とは言えない。そんな印象だ。放蕩三昧の生活のおかげか、体つきはだらしなくて腹も出ていた。

 数人の兵士に囲まれながら声を張り上げているが、お世辞にもうまいとは言えない。


「良いか! これはこの街の一大事だと思え! 今すぐオーク共を殺さなければお前たちはみんな死ぬぞ! 死ぬんだぞ! わかったな! だからお前たちも討伐隊に加われ! いいなわかったな!」

「うわ。話すの下手だねあの人」

 リゼが思っていたことを素直に口にした。本人に聞こえてなかったようだからよかった。みんな同じような事を思ってたし。


 昨日カイが言ってたこと。人手が足りないなら街の住民から有志を集めてオークの討伐隊に加える必要があるかもしれない。

 その集める役目を領主が買って出たのだろうけれど、正直なところ演説の仕方が下手だから効果は期待できそうにない。声が震えているし、言いたいことだけ言ってあとは自発的に住民が動くのを待つだけというよ魂胆が透けて見える。

 さらに領主の姿に威厳もなにもない。なによりこれまでの悪行が祟って住民からの支持は全く集められておらず、これで動こうと考える住民は稀だろう。

 実際、通りを歩く住民たちは領主様の姿をちらりと見はするけれど、それ以上なにをするというわけでもなく日々の自分の仕事を優先している様子だ。


「そもそもこの街の人間にしたら、普通に歩けば丸一日以上かかるような距離の村なんていくら同じ領内とはいえそこの危機なんて現実感がないよな」

 カイが力なく言った。そんなものなのか。実際に地獄を見てきた俺達にとっては悲しい気分になることだけど。


 それからもう一度領主の方を見る。彼を守るように囲んでいる兵士の中にひとりだけ様子が違う者がいて気になった。その兵士だけ鎧が豪華というか、重装備に見えた。その顔に目を向ければ女だった。周りの兵士を見ても女はひとりだけ。

「あいつは騎士だな。兵士とはまた違った意味合いを持つ領主の部下だけど……まあ兵士と同じ扱いをしていいだろう。それより入るぞ」

 領主のことなんてかまってられるかとでも言いたげに、カイはギルドの建物の中に俺達を入れた。



 人望のない領主とそれに従わない住民という覇気のない光景に比べたら、ギルドの建物内は慌ただしさが感じられた。

「おう! カイ来たか! とりあえず人員は集められるだけ集めた。オーク共に勝てるかどうかはわからないがな」

 その慌ただしさの中心にいるガルドスが俺達を見つけた。勝てるかはわからない、か。



 ガルドスの話しによれば、村から徒歩で避難してきた村人や冒険者達は昨日の夜中にようやく街まで到達したらしい。これによりオークによる村の壊滅は間違いないという事になった。ギルドとしてはカイの証言を疑っていたわけではないが、領主は下賤の者のたわごととして取り合わなかったようである。二十人近い人間の追加の証言でようやく重い腰を上げたようだ。


「それでもあの男、領で持っている兵士は使いたくないと言っている。街の警備をおろそかにするわけにはいかないとか言ってな。この一大事に何を言ってるんだか…………説得して、何割かは兵を連れて行くと約束させたがそれでも戦力としては足りない。さてどうしたものか」

 そもそも多くの冒険者が最初に村に行ってそこで死んだわけで。残ったのはオークなんてまだ戦えないというような新米達か、報酬が釣り合わないとか何らかの事情があって行かなかったという一部の中堅達ぐらい。もともとそこまで大きい街でもないし高ランクのベテラン冒険者は最初からいなかった。


「ねえねえコータ。ここはわたし達の出番じゃない?」

「いきなり何を言い出すんだ」

 事態は深刻。にも関わらずリゼは余裕そうな様子だ。こいつも、状況をわかってないというわけではないだろうに。

「だからさ。コータの魔力ならその気になれば、ものすごく大きなファイヤーボールを出してオーク達をまとめて焼き尽くすことだってできると思うんだ」

「なるほど。確かに全力でやれば一気に何体もオークを殺すこともできるかもしれない」

「その気になれば村全体を焼き尽くす大きさの炎だって出せると思うよ?」

「そうしたら勝負はすぐにつくけど…………それはまずい。村ごと焼くのはだめだ。まだ村のどこかに隠れて助けを待ってる生き残りがいるかもしれない」


 それに、壊滅したとはいえ村の財産は少しは残っているだろう。それは、避難して生き残った村人たちのためにも残さないといけない、気がする。


「そうだよねー。じゃあ…………周りに被害が出ないような炎魔法を使おうよ。ファイヤーボールは大きすぎるから巻き添えが出ちゃう。だったらもっと小さい……ていうか細い炎を出せばいい」

「どういう奴だ?」

「炎の矢。ファイヤーアロー」

「おーい。リゼ、そろそろ出発するぞ」

 カイが声をかけてきたからお話しは中断。リゼは後で教えてあげるねと言ってカイ達の方に駆け寄っていく。そうだな。早いところ出発しよう。ここやフィアナの村にまで被害が出る前に。



 討伐隊が集まってまとめて門から街を出る。構成しているのはギルドの冒険者が俺達を含めて十人ほど。ギルドマスターのガルドスが自ら指揮を取り率いる。

 それから領主の持っている兵士が十数人。これでも出せるだけ出したと領主は言っている。国の警備や屋敷の警護に兵は残しておかないといけないとか。それはそうかもしれないが、それでも少ない。こちらはなんと領主自らが現場に行き指揮を取ると言っている。

 住民からの有志は一人も集まらなかった。だからこれが戦力の全て。ちなみに昨日、村に集まっていた冒険者の数はこれの倍程度はいたと思う。


 確かに、勝てるかどうか不安になる状況だ。

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